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記憶の絵26

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:鴎外の怒り私は小さい時、学校のことでわからないことがあると父親のところへ行って訊いたが、算術は、尋常五、六年になってから
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鴎外の怒り

私は小さい時、学校のことでわからないことがあると父親のところへ行って訊いたが、算術は、尋常五、六年になってからはあまり訊きに行かなかった。算術は彼も下手らしくて、いつでも私の見せた問題とは関係ない丸や四角、三角などをあっちこっちに混ぜて足したり引いたりし、「こうすれば答えは楽に出る」と言っていた。今考えるとそれは代数のやり方らしいが、それでは答えは出ても、学校に出すわけにはいかないので全然役に立たなかったからである。国語の方は訊けば確実に役に立ったが、そう度々は訊きに行かなかった。何故かというと、私の父親に読本を見せて「ここがわからないの」と言うと、一寸座り直すような感じになり、いやに落ちついて、「まず」と言い、わからないところから一頁も前のところを、爪の真白な、琥珀色の美しい手で指差しながら、ゆっくりゆっくり説明しはじめるのである。「ここだけわかればいいのよ」と言うと、「ここからわからなくては本当にはわからないのだ」と言ってきかない。それが自烈ったくて我慢が出来ないからだった。それに字を間違えると、「それは嘘字《うそじ》よ。お茉莉。こう書くのだ」。そう言って、うるさく書き直させた。そういう時、彼はいつもの大好きなパッパではなくなって、なんだか底の方で偉きな、恐ろしい怒りのようなものが、静かだが烈しく、むくむくともち上がっている、へんな人間になってしまっていたからだ。大きな声も出さないし、怒鳴りもしないのに、逃げ出したくなるような執拗な、うるさくてたまらないものが、彼の心臓の奥底の方でもえ上がっているようだった。私が「もういいわ」と言って、読本と帳面を持って逃げると、まだ何か言いたそうにしていた。フランス語をきくと、マ・スウルとはまるで違う発音で、(その発音は今考えると、巴里《パリ》的ではなくて、独逸《ドイツ》なまりなのか、ひどく荘重だった)一字一字、ゆっくり言うので、これも自烈ったかった。私が途中で逃げてしまうので、翌朝学校へ行く途中で、白山上の通りなぞで、(神田の仏英和女学校に行っていたころ、私は陸軍省に行く父親と白山上まで歩き、白山上から電車に乗って、三崎町で私だけ下りた)「お茉莉。ゆうべのフランセェはわかっているか? もう一度言ってごらん。La lune a palue=ラ、リュウヌ、ア、パリュウ=(月が出た)」なぞと声を張って言った。父親の言いかたが荘重で、巴里の古典劇の名優が、舞台で朗々と白《せりふ》を言う時のようだったから、すれちがう人や八百屋の小僧が何ごとかと振り返った。紅い羅紗《ウウル》で鍔広の、紅と白のを捩《よ》り合せた紐がクラウンを取り巻いている帽子を被り、紺の水兵服《セエラア》に黒の|上っ張《タブリエ》りの子供と、カイゼル髭の軍人とは全く、白山上で眼立った。父親が私に何か教える時、奥底でもえていたものが、私の間違った字やフランス語への怒りだったことを私は知らなかったが、全くなんともいえなく、うるさかった。
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