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記憶の絵25

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:失くなった紅玉《ルビイ》〈もしお許し願えるなら、再び宝石について語りましょう〉(これは映画の題名をもじった文句である。映
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失くなった紅玉《ルビイ》

〈もしお許し願えるなら、再び宝石について語りましょう〉(これは映画の題名をもじった文句である。映画ばあさんの私はすぐにこんな書き方をしてしまう)
ダイアモンドの次に私の指に輝いたのは一カラット弱位しかなかったが性《しよう》のいい紅玉《ルビイ》である。欧羅巴《ヨオロツパ》に行った時、倫敦《ロンドン》で買った。夫に、贅沢な友達がいたので、その人の紹介だったろう。倫敦《ロンドン》のホテルに手摺れた黒革の鞄を抱えた背の低い宝石商が現れ、おもむろに鞄をひきよせると、一顆の紅玉《ルビイ》を出して卓子の上に置いた。私も夫も一眼で気に入ったが、その筈で、それは Pigeon blanc(ピジョン・ブラン=白い鳩)という最上品で、宝石商の説明をきくと純白の鳩の胸を剣で突き刺した時に迸る血のように真紅《あか》いのでその名がついているのだそうだ。巧みな商人は最初に最上品を見せたので、後《あと》から出てくるのはどれも詰らなくみえた。白い鳩は私に、もう一つ大きさは私のより大きいが質は二番目位のを妹に買った。私のが五百円、妹のは三百円だったが、昔の人は長幼の順がきびしかったものだと思う。私の父は月給取りに過ぎなくて、文筆の収入は生きている内は僅かだったが、もう二百円出せなかったのだろうか? 入浴の順でも、妹はすべて損だった。(その宝石は父が夫に頼んで買って貰ったのである)もっとも父親には八百円が限度だったのかも知れない。
私は Pigeon blanc が気に入り、丁度その時父親が日本で死に瀕していたのも知らずに、箱から出しては眺めた。真紅《あか》いヴェニス硝子の洋杯《コツプ》に葡萄酒を入れて、灯に透かしたような、といったらいいだろうか? 真紅《あか》い硝子の中に火が燃えているような、といったらいいだろうか? その真紅《あか》い色はレニエの(復讐)の、老人とその甥との、鏡を張り廻《めぐ》らせた広間の、豪華な晩餐の洋杯《コツプ》、果物。又はヴェネチアの夜の宴に、レオネルロの短剣の一撃で流れ出たロレンツオの胸の血を、連想させた。後《のち》にその紅玉《ルビイ》が失くなった時、私はロレンツオの死後、彼の館《やかた》の外壁にある花型の、血のような色を想い浮べた。
私は年をとって髪が真白になったら、黒い服装《なり》をして、大きなダイアモンドだけが指に光っている素敵な老婦人になろうと、生意気にも企《たく》らんでいたが、ダイアモンドは二十万円のお札に変り、忽ち麺麭に化けてしまったし、紅玉《ルビイ》は戦後、弟の家の女中部屋に箪笥をあずけていた時、年中鍵をかけ忘れたので、いつのまにか無くなってしまった。夫が婚約の時呉れた白と薔薇色との二顆の真珠を、父親が博物館の工芸の方の人にたのんで、七宝細工の中に嵌め込んだ素晴しい帯止めも、失くしてしまった。すべて私の宝物《たからもの》は、消え失せる運命にあるらしいが、最近、昔父親が独逸からとりよせてくれた伊太利《イタリア》モザイクの頸飾りが幻の出現のように見付かったことは驚異である。古びたために、ボッチチェリの(春)の女神の頸飾りのようである。
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