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記憶の絵59

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:続・婚約者千駄木町、団子坂上の左角に交番があり、交番と対角にある八百屋や生薬屋《きぐすりや》、質屋、物集家《もづめけ》、
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続・婚約者

千駄木町、団子坂上の左角に交番があり、交番と対角にある八百屋や生薬屋《きぐすりや》、質屋、物集家《もづめけ》、なぞがかたまった一廓を囲んで大工の曲り尺のような形に建ち、後には酒井子爵邸を控えている大きな家の中(私の家の左隣りの野村酒屋は酒井邸の、通りに面した一部を侵略していた。侵略したわけではなく、始めから建っていたのだが当時としては一寸そんな感じなのである)に、「桃太郎」の爺さん婆さんのような父母が、柔かな木の枝や、布切れを集めて造った巣があって、その中に真白な卵が入っていた。紳商山田陽朔(山田珠樹よりずっと人物が偉きい明治の紳商である)の長男の大正人山田珠樹は、その白い卵が「虞美人草」の甲野さん(無論「虞美人草」が新聞的すぎただけで甲野さんは立派である)にひそかに憧れていた(これは父親も知らない少女の秘密だった)という希ってもない偶然の地の利を得て、その上に立っていたから、婚約者としてのいい意味での誘惑にせよ、彼の白い卵への誘惑は、全くスラスラと進行した。その上に、私には「ファウスト」の時の伊庭孝のメフィストフェレスの、小気の利いた、皮肉な、ノオトゥル・ダムのシメェル(怪物)的な顔と、敏捷な動きを持った、紅いところに黄金《きん》の刺繍のある姿にも(音のない、悪魔的な、時々跳ねるような、川の中を走る蛇のような彼の動きは、たしかに小山内薫の演出の域から一寸ばかりはみ[#「はみ」に傍点]出した演技だったのに違いなく、翻訳をした父親も認めたし、批評家の人々の中にあった〈あれは江戸っ子のメフィストである〉という揶揄《からかい》は、私の幼い眼に残った印象からも、当っていないと、私も稚な心に[#「稚な心に」に傍点]信じている)相当にいかれていた傾向があったし、素顔で奥座敷に現れた、青白い伊庭孝にも、十二歳の頭で憧れたようだ。そこにも山田珠樹の婚約者としての誘惑を滑りをよくした原因があったようだ。事実、山田珠樹は伊庭孝のメフィストに動作が似ていた。父親がファウスト、母親がマルテ、珠樹がメフィスト、私がグレエトヘンで、「ファウスト」の読みの真似をやった時も、彼のメフィスト役はぴったりしていた。私が一寸ぬけて、彼がグレエトヘンの白《せりふ》をやった時、(だぁって……)と言った彼の口調はたしかに、相当のお嬢さん殺しだった彼の近い過去の気配が窺われたが、私はなんとなくそんな風に思っただけで、むしろ誘惑を覚える結果になったようだ。(後になって私は殺されたお嬢さんに会ったが、その時偉い学者のその女《ひと》の父親が書物机《かきものづくえ》に片肱をついて、顔を斜めにして私を視た、薄暮の部屋の光景は今も頭に残っている)そんなわけで、婚約者山田珠樹は、小山内薫的美貌と、甲野さん的、メフィストフェレス的表情、或は動作によってやすやすと白い卵に淡い色彩を与え、稚い、無言の応えを得た。話は別だが伊庭孝のメフィストは柄に助けられはしたが、優秀だった。もしあれが小山内薫の演出なら、他の役者たちももっといい動きをした筈だからだ。
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