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記憶の絵60

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:結婚披露宴私は紺の背広で千駄木町の家の玄関に現れ、唇の端を右へ歪める、メフィストの微笑いを浮べ、友だちの御木本隆三の店(
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結婚披露宴

私は紺の背広で千駄木町の家の玄関に現れ、唇の端を右へ歪める、メフィストの微笑いを浮べ、友だちの御木本隆三の店(御木本真珠店)で買って来た薔薇色と白との大粒の養殖真珠を、紺の背広の隠しから手品師の手つきで取り出して私に呉れたり、(その時母親が「まあ、指輪にしましょうかねえ」と言うと「茉莉ちゃんに掌の上に転がしていて貰いたいな」と言い、私は素敵なことを言われたような、自分がお姫様になったような気になったが、母親は彼が帰ると、「きざなことを言うねえ」と笑ったのである)父親の本が入っている土蔵に私をつれて入り、二階の、お染久松の土蔵の窓のような窓から私が黄金色《きんいろ》に眩しい庭を見下ろすところを後《うしろ》から腰を抑えるようにしたり、帝劇のローシー歌劇の「ファウスト」を観た時には、右隣りの母親に知れぬように何か言う時、脚の上の方を突ついたり、或は又「ポオル、エ、ヴィルジニィ」の話をしたり、というような、どこか仏蘭西文学の香《にお》いのするやり方で私という白い卵を温め始めてから、前にも書いたように、そのころはブリアリ(フランスの役者)のような男の人がいるとは知らないから(もっとも大正時代ではフランスでも、ジャック・カトランとかいった大甘にしてかつ大甘の役者を、又もっと古くしたような役者がいたのだろうから、青白くて、少し浅いが虞美人草の甲野さんでないこともない珠樹の方がましかもしれない)、パッパのお茉莉は二、三十度珠樹に傾き、三田台町へ遊びに行くようになると、珠樹の家族たちの間での甲野さん的あり方や、仏蘭西文学の本に囲まれた、暗い、彼だけの城のような、一寸カレエニンの部屋のように冷たい、二階の書斎を見るに及んで、いよいよ傾斜の度合いは大きくなった。茶の間で姉たちと少間《しばらく》いてから、「茉莉ちゃん一寸」と先に立ち、黒っぽい着物から出た青白い脚と黒繻子の足袋の白い底を見せて書斎の方へ導くような時、長尾幾子が「茉莉さんフランス語?」と、意味あり気に微笑うと、私はなんとなく困って急ぎ足になり、逃げるようにあとを追った。だが、である。ほんとうに傾斜したのではなかったようで、その証拠には結婚式にも感動しなかったし、披露宴でも、美味しい料理に神経が集まっていたり(もっとも大体そういう人間ではあるが)山田陽朔がニイチェのような髭をもくもくさせて「準備万端、不行届き」と喋べるのをじろじろと視たりしていたのである。しかも父親のところへ来た賀古鶴所に酒を運んだ時、秘密で廊下で酒をなめて見たことがあって以来好きになっている日本酒らしいものをボオイが注いで去ると、あたりを窺い、間違えたふりをして少し宛飲んで北叟笑んでいたのである。シャアベットが出た時、父親がそっと席を離れ、私の後へ来て、囁いた。
(お茉莉、今来たのは酒が入っているから飲むな)
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