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記憶の絵90

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:続・巴里の降誕祭辰野隆、矢田部達郎、山田珠樹、同じく茉莉、ジュフォオル夫婦、同じくルイズ、マドゥモアゼル、ショミイの同勢
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続・巴里の降誕祭

辰野隆、矢田部達郎、山田珠樹、同じく茉莉、ジュフォオル夫婦、同じくルイズ、マドゥモアゼル、ショミイの同勢八人が各々ボロタクシで集合したのは寂寥索莫《せきりようさくばく》とした空家《あきや》である。巴里の夜の中に蒼然と建っている建物に入って行くと、別に出た矢田部達郎がたった一人灰色の階段に腰かけていて(やあ)と言って立ち上った。〈向ケ岡健児の蕃《ばん》から〉という生地《きじ》が、洗練された神経で出来上った一人の三十八歳の男の中に、荒々しく残っている。紺の着古した背広に大分よじれた斜め縞のネクタイの矢田部達郎は、内部に欧羅巴の悪魔を巴里に来ない前から持っていたにちがいない。短日月の間に急いで仕込んだものとはみえなかったからだ。鋭く光る眼が暗い中で光った。空屋は一月《ひとつき》や二月《ふたつき》の空屋とは思えない。(暗いな)、(懐中電灯が要るね)。褐色の髪を真中から分け、自分で縫った黒|天鵞絨《びろうど》のロオブに養殖らしい真珠の頸飾のルイズは恋するムッシュ、ヤタベをみて弱く微笑《わら》うと、黙って、これも布地《きれじ》を買って造ったレエスのストオルの合わせ目を抑え、俯向いて階段を上った。家具は古い卓子と椅子だけを残して取り払われ、長い間火が燃えたことのない暖炉がガランと口を開いた灰色の部屋に蝋燭が点き、持って来た冷肉に腸詰《ソーシツソン》、サルジィヌ、サラダ位の料理がルイズとマダム、ジュフォオルの手で並んだ頃遅れてショミイが来た。小柄で赤褐色の髪に眼鏡、紅く薄い唇。ルイズのような可愛らしさはないが、医者と窃《ひそ》かな関係を持つ看護婦、といったような型で強《したた》かなところがある。会社の帰りの黒のスウツでブラウスだけが薔薇色の新調だが、アメリカ人的なショミイが着るとピンクの感じだ。どうも空屋《あきや》の荒れた感じが皆に降誕祭《クリスマス》らしくない索莫感を与え、辰野隆の巧妙な諧謔《かいぎやく》ももう一息パッとしない。ショミイは矢田部達郎の会話の教師だが彼と恋愛中であることは誰も知っていた。ボオドゥレェルなぞも読んでいる賢《かしこ》いルイズは、二十四、五歳の遅い恋心を矢田部達郎に捧げていたさなか[#「さなか」に傍点]にショミイが出現したのである。矢田部達郎とショミイは暖炉の上の飾り棚の両脇に立って話している。無論二人だけの会話ではないが、矢田部達郎がショミイと言う時の発音は、ルイズ以外の人間の耳にも相当に意味の深いアクセントを含んで聴えた。髭の剃り痕が青く、唇の真紅《あか》い達郎の、蝋燭越しに光る眼は、ルイズを意識することで一層鋭いものを出している。宴《パアテイ》が終りに近づいた頃、私の足元に座って、少し酔ったルイズは、平気を装っているが、合わせ目にうねりのある美しい唇の微笑に寂寥の影が差し、投げ出すようにしている青みのある白い腕や肩は、恋の苦悩の脂を浮べて、艶を湛えている。ルイズの苦悩と、恋仇の心臓を食う魔のようなショミイの真紅《あか》い唇を見て私は思った。〈これは矢田部達郎が紺色の背広の片腕を立て、午飯の肉を切るような風に、軽々と切り下ろして私に見せた、血を滴《したた》らす、生々《なまなま》しい人生の一つの截《き》り口なんだ〉と。
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