返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

記憶の絵91

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:午前零時の接吻(一)巴里には一月一日の午前零時きっかりに出会った女に気に入ったのがあれば、接吻をしていい、という、大変に粋
(单词翻译:双击或拖选)
午前零時の接吻(一)

巴里には一月一日の午前零時きっかりに出会った女に気に入ったのがあれば、接吻をしていい、という、大変に粋《いき》な習慣がある。私がそれをきいたのは大正十年の大晦日の十二時前で、その時私はオペラの帰りで、夫と辰野|隆《ゆたか》とソルボンヌの前の通りをいつものキャフェ、ラビラントゥに向って歩いていた。ラビラントゥに入り、席について少間《しばらく》すると、三十になったかならないかの美しい男が入って来た。後《うしろ》へずらしたソフトの下に、黒い髪がぴったり張りついた白い額があらわれている。男は一瞬、店内を見渡したと思うと真直ぐに私の前に来て夫と辰野隆に振り向き、
「ヴ、ペルメッテ?」(いいでしょうね)
と言い、私に眼で、起つように促した。暈《ぼんや》り起ち上った私の顔を夫たちから隠すように、男は片腕を壁に突っかい、一方で手でソフトを後《うしろ》に弾《はじ》くと、男の目を避けた私の片頬に軽く接吻した。
私が済んだ、と思った時、耳の傍で男の声が言った。「フォ、ランデ」(返さなくっちゃ)。困惑の極に達した私の目の前に、横顔を見せている男の頬が、煌々とした灯火の下に、無限の壁のように拡がった。私の唇が触れようとした時、男は素早く顔の位置をずらせたので、危うく恋人の接吻をしそうになり、私は愕《おどろ》いて顔を離した。腰をかけながら、大跨に向うへ行く男の後姿を見た時、私は店の中が異様にざわめいているのに気付いた。笑った顔が皆こっちへ向いていて、(ブラヴォオ、ブラヴォオ、)という声が彼方《あつち》此方《こつち》に起っている。大分前からうつつには聴いていたが、何がなんだかわからなかったのだ。湯気に曇った硝子戸に囲まれたラビラントゥの中は愉快な気分で爆発している。目の縁を青くマキヤァジュをした、四十格好の、あぶれたプウルが笑って拍手をしている。だがその中に二人だけ、不快な顔の男がいるのを、私は目の端に感じない訳にはいかない。二人の男のいる場所《ところ》だけが陰々として、滅入っている。私は平常巴里の粋を礼讃《らいさん》している二人の男の、情けない有様に腹を立てたが、(殊に辰野隆の方は平常、巴里の色事のことなら俺に聴け、といわぬばかりなのだ)不機嫌を露わな二人の男の後《あと》から、悪事をした人間のようにすごすご従《つ》いて出た自分の惨めらしさにも同時に腹を立てた。
この二人の仏蘭西文学者は、私の稚い接吻の場面に憂鬱と退屈を吹き飛ばして拍手し、笑った、巴里の淫売婦の前に恥ずべきである。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

[查看全部]  相关评论