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記憶の絵92

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:午前零時の接吻(二)部屋に入ると夫は、「含嗽《うがい》をしろ」と吐き捨てるように言い、さっさと寝仕度をして寝台《ベツド》に
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午前零時の接吻(二)

部屋に入ると夫は、「含嗽《うがい》をしろ」と吐き捨てるように言い、さっさと寝仕度をして寝台《ベツド》に入ると、壁の方を向いてしまった。含嗽をする必要はないのである。私と男との頭が、男の片腕に遮られていたからか、粋《いき》な行事を姦通場面のように思っているので見る勇気がなかったのか、夫は接吻が全くなされなかったことを知らないのだ。私は止むを得ず含嗽をして寝台《ベツド》に入ったが、氷山の角のように尖った夫の肩がたまらなく不愉快なので自分も背中を向けて掛け布《ぬの》を被り小卓のスタンドの紐を引いた。そうして闇の中に眼を開きいよいよ睡りが襲うまでの何分かの間、心の中で、夫と辰野隆とに向ってわけのわからない怒りを燃やし続けた。
翌朝は晴れ渡った元日である。夫はソルボンヌに行ったと見えて、私は寝台《ベツド》の真中に来て寝ていたが、意識が明瞭《はつきり》してくると、先週誂えた土耳古《トルコ》石の頸飾りが出来上っている日だということを思い出した。私はイルマの運んで来た麺麭《パン》と珈琲をゆっくり摂《と》り、コメディア(新聞)とエクセルシオール(新聞)とをこれ又ゆっくり眺め、大分ごろごろしていた後仕度をして、アパルトマンを出た。巴里で唯一度の単独の外出である。なぜならその宝石屋は、アパルトマンの前を右へ真直に行ったところにあって、道の皆目わからぬ私にも一人で行くことが出来たからだ。巴里の元日は平常《ふだん》の日と全く変りがない。少間《しばらく》行くと後《うしろ》から足速やに来た男が、追い越すのかと思っていると私と並んで、連れのようになって歩いている。見ると、昨夜の男とは似ても似つかない薄汚ない中年男である。(お前はジャポネエズか?)と言って男は私の顔を覗くようにした。私が、男を向うへ行かせるのに最も適切な言葉を一心になって探しているのを知らない男は黙っている私を見て、うまく行きそうだと、思ったようだ。(お前の旦那にゃあ言わないぜ)、なぞと言っている。言葉が出て来ないので並んで歩いていると男は急に、肩で押すのでもなく、腰に手を廻すのでもないのになんとなく私を横丁へ誘いこむようにする。薄汚なくても、中爺さんでも、巴里の男である。危うく曲りそうになりながら見ると、怪しげなホテルが並んでいる横丁である。私は(ノン)と言って真直ぐに歩いた。二三間前を行く爺さんが興味で一杯の目で、時々ジロリとふり返える。十一時近くなって、鍵町《リユウ・ドウ・ラ・クレ》の通りは大分人通りが混んで来た。ふと天来の福音の如く言葉が浮んだので、私は立ち止まった。
「ヴォートゥル、ノン、シルヴプレ」(貴君のお名前を仰言って下さい)
男は後脚に尻尾を巻きこんだ犬のように立去り、興味を失った爺さんは急に速足になって歩き出した。
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