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記憶の絵95

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:続・伯林の夏大体において音楽は退屈なものだと思っている私が、ワグネルの「タンホイゼル」「ヴァルキュウレ」にヘキエキし、三
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続・伯林の夏

大体において音楽は退屈なものだと思っている私が、ワグネルの「タンホイゼル」「ヴァルキュウレ」にヘキエキし、三晩続きで聴かされた「ロオヘングリィン」に至ってはヘキエキの極に達して、わずかに幕合いに地下室でたべた生挽肉と玉葱のサンドウィッチに、そこへ行った価値を見出したり、そうかと思うとお茶の水小学校の教室のように狭くて埃っぽい部屋で、教壇そっくりの台の上に現れたクライスラア(手が届くような所に出て来たのである)が一礼して弓を楽器にあてるや、静かな、どんな荒れ狂ったヒステリィ女も鎮まるような、きれいな音が流れ出したことに感動したり、(それは、どこからかふっと出て来た風のような天地《あめつち》の間にふと湧いたような、音だった)「アルト・ハイデルベルヒ」のケテイが衣川孔雀《きぬがわくじやく》の足元にも及ばないことに失望したり、そこの卓《つくえ》の上で、父親が翻訳した「ファウスト」を推敲したということをきいた、ホッホブロイの酒場で感動して、(我はきく、ホッホブロイの酒場にて、よくこしというわが父の声)なんていう阿呆な歌を書きつけたりしている一方、髯の剃りあとの青い、唇が紅く、眼が鋭い、ラスプウチンから政治悪と野蕃と、醜い顔とをとり除いたような矢田部達郎の、欧羅巴的な悪魔の香《にお》いのあるフリルテに感心し、(矢田部達郎のフリルテは「今日は何日?」とか「これ、君の?」とかいう日常語の中から隼《はやぶさ》のように素速い、恋の毒を塗りこめた矢が放たれて、確実に相手の胸に突刺さった)矢田部達郎というものを眼鏡のようにして大人の世界の一部を窺い、ひたすら、凄みのある世界に憧憬の眼をあて、早く凄い奥さんになりたいと希っていた。矢田部達郎が、愛する山田の茉莉子さんとして愛しているだけでも満足だったが(竹林の七賢たちの私に対する気持は皆同じだったが、矢田部達郎の愛情は一人だけ特別に純粋で、世俗的社交の香《にお》いがなかった)とにかく彼の世界が憧憬だった。矢田部達郎はそれを知っていて、チカリと光る眼を眩《まぶ》しそうに細めた眼尻に皺をよせ、私を見下ろした。鋭い眼が私の心臓の奥まで窺《のぞ》いて微笑《わら》っている。室生犀星が、「小説を二つ書いて……」と言い、「たった二つばかり書いて、生意気いうな」という後《あと》の言葉は呑みこんで、チラリと私を視た、笑いの影のある眼のようである。(室生犀星、三好達治なんていう面々は直ぐに私に揶揄《からか》い顔をしたものである)十八歳の小娘奥さんは口惜しくてならない。私は或日大人の奥さんのように矢田部達郎を揶揄ってやろうと思って、キュルフュウルステンダムの菓子屋に皆で行く途で、生垣の傍を過ぎながら私は彼を見上げた。(フリィダが矢田部が好きなのね?)。矢田部達郎は眼を眩しそうに細め、私を肩越しに見下ろして、言った。(フリィダはね、言ってますよ。ムッシュ山田やムッシュ箕作はマダァムがあるけど、ムッシュ矢田部はマダァムがないからなんでも相談出来るって)。
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