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記憶の絵97

时间: 2020-03-30    进入日语论坛
核心提示:帰国伯林からミュンヘン、ニュウルンベルヒと歩き、西班牙《スペイン》では煉瓦のような紅殼色の土と、地面にあぐらをかいてオレ
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帰国

伯林からミュンヘン、ニュウルンベルヒと歩き、西班牙《スペイン》では煉瓦のような紅殼色の土と、地面にあぐらをかいてオレンジを売っている女の、教養とか、良識とかの軽羅《ヴエエル》のかかっていない生《なま》の、獣のような眼と暑さに愕き、ジプシイの女には失望した。ジプシイの中に、コンチタやカルメンのような女がいるとは思っていなかったが、汚なくても、ぼろを着ていても、自分が男だったとして、野蕃さにヘキエキはしながらも、一度位はつきあって見たいという気持を起こしてしまうような、なにかを持った女がいると信じていたのである。コンチタの皮膚を持った女位はいると信じていたが、痩せてかさかさした、うんざりする程魅力のない女たちだった。病身で婚期の遅れた、薬屋の姪みたいである。明治女だったら頭痛膏を張りそうである。甲野さんのように、驚く内は幸《さいわい》がある、なんて言ってはいられないのである。グラナダのアルハンブラ(西班牙)と、檸檬《レモン》の木の並んだアマルフィの海岸(伊太利)は綺麗だった。一度巴里に帰って又芝居なんかを見、荷作りをして帰国した。矢田部達郎が白と代赭《たいしや》のペンキを買って来て、大トランクや帽子の箱にT. YAMADAと書いて呉れたが、ペンキ屋より上手《うま》かった。私は依然として、矢田部達郎の中にある悪魔に憧憬していて、珠樹に何か言いながら、がっしりした紺の背広の肩を沈めて、書いているかと、起ち上がって手に提げているペンキの缶を下におき、「今度は帽子の箱だな」と言って、横にあった鎧櫃のような重い帽子箱をずらせながら動かしたりしている矢田部達郎を見ていた。(大きな奴やいろいろの帽子《シヤポオ》が入っているんだな)というような顔で、私を見て微笑った。心から可愛らしい人間だと、思っている、胸の底から出て来た微笑いだ。私はその幾らか細められた、三角に光る眼に眼をあて、自分が凄い女でないことに、そうして矢田部達郎が自分をそのように扱っていないことに、物足りなさを抱きながらも、深いなつかしみを、覚えた。私は他にもう一人、こういうヴェテラン悪魔を知っているが、偶然なのかも知れないが、その二人とも悪魔の中に親切な、善い人間を隠し持っていた。そういう人物は、一面、ほんとうに人間を愛する魂を抱いているようだ。荒鷲の翼の中にひそむ温かな温度。だがその、羽毛《うもう》の洋袴《ズボン》をはいたような両脚は孤島の岩に立ち、その両脚の爪は抑えつけた若い女の心臓に突き刺さっているのだ。そう思って私は矢田部達郎を見た。
作業がすむと矢田部達郎は扉《と》を開けて出て行ったがもう一度|扉《と》を細く開け、眼を眩しそうに細めて言った。(今夜は又ご馳走だな)。その日私たちは彼とレストランに行くことになっていたのだ。行きは賀茂丸だったが帰りは諏訪丸という、賀茂丸よりずっと大きな船で再び印度洋を通って、山田珠樹と私とは帰国した。一種の栄転だったからでもあるだろう。食堂で一人のボオイが、(前に賀茂丸に居りました)と、言って、挨拶した。
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