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記憶の絵105

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:続・大和村の家大和村に移った翌年の夏、いつのまにか助教授になっていた山田珠樹は、大学の何かの用でプレジデント・ジャクソン
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続・大和村の家

大和村に移った翌年の夏、いつのまにか助教授になっていた山田珠樹は、大学の何かの用でプレジデント・ジャクソンという船に乗ってアメリカのニュウヨオク、ボストン、フィラデルフィア等々〈多分図書館のある所を廻ったのだろう。彼は帝大の、図書館の司《つかさ》のような役らしく、文車《ふぐるま》が古書を積んでぐるぐる歩いている図書館の一隅に自分の個室を持っていて、そこでも甲野さん的陰鬱をまといつかせて卓《つくえ》に向っていたからだ〉を二ケ月ほど廻る旅に出た。彼が出発して、子供と、プレジデント・ジャクソンていう船なんだね、なんて言っているのにも倦《あ》きて、四角い家といつも同じ楓の立っている四角い庭と、自分と同じ暗い、暈《ぼんや》りした顔をしている子供と、女中たちも厭になってくると奥さんはアメリカへ手紙を書いた。むろん面白い返事は期待していない。もう巴里で経験ずみで、山田珠樹の手紙は、自分でそこへ行ってみるとひどく面白いのに、こんなつまらない処があるだろうかと思うように書いてある。素晴しい巴里も珠樹の手紙では(メトロ=地下鉄=で行ってメトロで帰る)というようなものになるのだ。奥さんの方はその家の建つ前からあった窓の傍の栗の木の梢を眺めながら書いたせいかひどく浪漫派的な手紙になった。新しい奉公先で部屋なんか貰うと、花や舞妓《まいこ》なんかの絵入りの便箋を買って来て、やたらに夢のような手紙を出す女中が昔よくいたが、奥さんはそういう女中に似たところがあるのだ。留守の間義弟の俊輔が泊りに来たが、どこかに行っていて殆ど夜中に帰るので或日泥棒が入った。遊びに来ていた母親を玄関に送って居間に帰ると、窓枠の外に茶色の禿頭が引込むのが、三日月のように見えたので、足が動かないほど愕《おどろ》いたが、女中たちを全部集めて二階の寝室にたて籠り、一人の女中が金盥《かなだらい》を窓から乗り出して叩こうかと提案するのを怒って止《と》めた。寝室の真下の書斎で音がしていたと思うと、書斎の窓の傍から上の寝室の窓まで届いている楓の木に三角形に組んで渡してあった丸太に乗ったらしく、窓硝子を擦って落ちる手の影が映った。俊輔が帰って扉を叩いたのでやっと寝室を出たが、その時はもう退散していた。しばらくして陽朔が大工を寄越して寝室の窓に太い鉄を嵌めこんで、泥棒事件は落着したが、今度は矢田部達郎事件が起った。珠樹の友達が二人来て、或件で自分たちは矢田部と絶交することにした、と言った。いかにも日本人らしい、重大なことを言っているような彼らの様子を私は心の中で笑い、彼らは恋愛事件を共同で起してくれる女の人がないのにすぎない、と心の中に思った。私にとっては窓から入ろうとした泥棒の方が重大である。こっちの方は命が危い。私は留守に一度来て、紙を四角く切って薬局でやるあの独特な粉薬を包む折りかたを子供に教えていた矢田部達郎を一人、食堂に立ち、今そこにいるように眼に浮べ、懐しくてならない心を抑えた。
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