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もめん随筆13

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:東京の涼うすものを一枚染めて貰はうと思ひたつて銀座の百貨店へ行くと番頭の和井さんは私の出した紺絞りの見本のきれを、これは
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東京の涼

うすものを一枚染めて貰はうと思ひたつて銀座の百貨店へ行くと番頭の和井さんは私の出した紺絞りの見本のきれを、これは洋服地の方のジヨーゼツトでございますねといひながらひろげて見たと思ふと、あ、奥さま、これはいつぞや新橋演舞場に初めて文楽のまゐりました時、廊下を歩いていらして肩に煙草の吸ひがらを落されて焼焦げの出来ましたあれでございましたなといつた。和井さんは実にものおぼえのよい人で、着物の事はいふまでもないが時計や帯止のたぐひまで、あのいつかのトルコ玉の帯止、あれはどうなさいましたと旧い事を思ひ出してきいたりするのである。あああの四十八カラツト、まだ持つてゐますよあれは私の誕生石なんですものと答へながら、和井さんのお客さんは一体何百人あるのか知らないけれども、それ等の人人の着物や持ち物やさては家庭の事情までいちいちおぼえてゐて、一人一人にふさはしい相手をするといふ事は、これは実に大変な事だといつも心ひそかに敬服するのである。
デパートの番頭さんといふ商売はずゐぶんと気骨の折れるものらしいが、よその見る眼はなかなか花やかで、売場にお客のたてこんで来た時など、どの御婦人も番頭さんを独占しようと矢つぎ早やに相談を持ちかける有様は、これまた一風景で、ちやうどスポーツの選手がフアンに取巻かれてゐるのと変りのない光景なのである。ねえ和井さん、あんたは一体いつになつたら私の鏡台かけを染めてくれるんでしよ、いま何月だと思つてんのようと甘えた声の主に和井さんは笑顔を返して、はああれはまだでしたかなあと答へる傍から、ちよつと、この柄はすこしぢみではないかしら、どう、仕立てたら派手になるか知ら、ちよつと見て頂戴、ひさ子ぢやない貞子の方のよと、そこにはゐないお嬢さんの明石の反物をつきつける奥さんもゐる。あたしが鏡台かけをお願ひしたのは一月よ、冬よ、私の鏡台はずつと裸のまんまよ、もつとももう夏だから裸でも構はないやうなもんだけどと島田に結つた人は辛辣な事をいふ。秋になつてもいいから忘れずに染めてよねと起つてゆく後かげへ、もしもしと和井さんは呼びとめて、あのこの間たから家さんからお話のありましたお祝ひの品は、御一緒のものでよろしうございませうか。ええ結構、さうしといて頂戴。……ああさうさう、私こなひだ宝家さんでいはれちやつたわ。和井さんてばいつまでたつても鏡台かけを染めてくれないのよつていつたら、あらさう、あたしんとこのは何でもすぐ染めてくれるわ、あんたきつと此頃しくじつてんのよ和井さんをあさつて……そのまますつと行つてしまつた。くろうとの女の人は面白い事をいふものである。
これは和井さんから聞いた話だけれども、女給でもなし芸者でもなしさうかといつて堅気の婦人では勿論なく、年頃は廿五六と見受けられたが、二年あまりヒタと足を絶つたあとで久久に顔を見せたので、これはお珍しいと先づ如才なく愛想をふりまいて、ええとこの人は何といふ名であつたかしらんと慌しく記憶をさぐつたけれどもどうしても思ひ出せない。届けものにかこつけて、それで只今のお住居はとさり気なくたづねたところ、ええ家はこれこれのところですがそれで名前はといひかけてその婦人はいとも無雑作に、ねえ私この前来てゐた時は何といつてましたつけと逆に和井さんへ問ひ返した。筑前琵琶とやらを稽古して、いまはその方のお師匠さんをしてゐる人なさうである。
負けましたなア、と和井さんは驚いてゐる。さういふ話を見たり聞いたりして帰つてくると、何となく気が軽くなる。人間事の好きな私は多分デパートへ涼みに出掛けるのかも知れなかつた。
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