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もめん随筆28

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:面影アルバムを買つてきて古い写真をみんなそれへはりつけてしまはうと思ひ、写真箱のほこりを払つてゐるとすぐ子供が見つけて自
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面影

アルバムを買つてきて古い写真をみんなそれへはりつけてしまはうと思ひ、写真箱のほこりを払つてゐるとすぐ子供が見つけて自分よりもさきに箱の中をかきまはし、あらこれは誰と大形の一枚を取り出した。菊五郎かしら、でも眼の色がすこし変ねといふ。
黄八丈とおぼしい衿つきのぢみな着物に花もやうの帯をしめた娘さんの立ち姿で、胸にかきあはせた袂から友ぜんのじゆばんの袖がこぼれ、艶やかな島田にはピラピラのかんざしがゆれていかにも初初しい風情だけれども、明るくうすい眼の色が一ト眼で異国人とおもはせる。ああそれはねと私も傍からのぞきこんで、エリセエフさんといふロシアの人よ、むかしむかし日本の大学へ来てゐた人なのといつてゐるうちに、むかしむかしといふ言葉が自分の胸に応へてきて遠い日の事を思ひ出した。写真のうらに大正三年正月六日とたどたどしい毛筆で書いてあるが、たしかその年の七月か八月にエリセエフさんはお故国《く に》へ帰つてしまつたのだと思ふ。
ドストイエフスキイの小説の中に時時出てくるエリセエフ製の酒——エリセエフさんはその旧家の末子に生れた人だときいたやうである。お兄さん達が革命党員でつぎつぎに殺されてしまふので、お母さんが心配してエリセエフさんを日本へ逃がしてよこしたのだといふ事であつた。エリセエフさんは日本で大学へはいり和服を着ておさしみを食べた。お習字と清元と踊のお稽古に通つて柳橋で遊んだ。もつとほかのお稽古事もしてをられたのかもしれないが、私がお知合ひになつたのは矢来の藤間勘次さんのところだから、その範囲の事よりわからない。エリセエフさんは日本語が大へん上手で、殊に巻舌のべらんめえは得意であつたけれども、お手紙には、久しぶりでお眼にかゝりませんでした。と書いてよこす事もある。まあいい柄ね、これどこでおみとめになつて? と私の縞お召の羽織の袖をつまみながらきいた事もある。日本人の非常にうまい外国語にも、やつぱりそんなまちがひがあるのではないかしらと思つた。
私が初めて会つた頃、エリセエフさんは「子守」を習つてゐた。松前殿さのもちものは、いかたこなまこにちぬの魚、チリトツチンチリと短かい稽古棒を両肩へまはして舞台に膝をつき、右左かはるがはる肩を傾けて、棒の先きで舞台を叩いてゐた。ジヤイアントがお仕置きでもされるやうにきう屈さうであつた。だがそれから起きあがつてくるりと一ト廻りするところで、エリセエフさんは何と思つたのかきりきりと二へんまはつてしまひ、ぱつと袴のすそがひだを失ふほどふくらみ上つて、そのテムポの早さと大らかな動きとは実に鮮やかな美しさで私の眼に残つた。あ、あれが西洋の踊りだなと突然眼の展いたやうな気持がした。
エリセエフさんは日本髪のかつらをかぶつた写真を、どちらかといへばお得意でくれたのだけれど私はやはりあたり前の、ろしあの青年らしい背広姿の方を貰つておけばよかつたと思ふ。かつらをつけて菊五郎のやうに見えるエリセエフさんの素顔は、柔かな頬に桃のやうにうぶ毛が生えてゐて若若しかつた。
エリセエフさんは上流社会の貴婦人令嬢のあひだに人気があつたさうで、富豪の若夫人から贈られたといふ高価な大島やお召を着てゐる事があつた。さういふ貴婦人たちはもつと大切なものまでエリセエフさんにあげたのかも知れない。上流社会の貴婦人にくらべるとあなたは野の花のやうに素朴で可憐だとエリセエフさんは云つてくれたけれども、野の花だの可憐だのといふ言葉は私は内心不服であつた。だがまつたく私は何一つ贈るべきものを持たず、いつもただ先方の好意に甘えてゐるばかりで、お別れの挨拶にと招待された帝劇へまでのほほんと出掛けて行つた厚かましさは、いま考へると赤面の至りだけれども、しかしその折そこで出会つた一つの事柄は、エリセエフさんの親切のおかげといつまでも忘れられない。
菊五郎の狂言座が何か新作を上演した時で、たしか三月の末の短期興行と思ふけれども、それとも四月であつたかしら。坪内博士の浦島を試演したらしい気もされるのに、舞台の記憶がまるでないのは、その時二階正面の自分の席に近く夏目先生がいらしたからで、大空の太陽ほどに遠く眩しく仰いでゐた先生と思はぬ同席の光栄に、ただわくわくして耳も眼もあいてゐながら盲ひてしまつたのである。一生の願ひにただ一度、先生の前へ起つてお辞儀をしたいと思つたり、いやいやそんな失礼は到底ゆるされぬと自から戒めたり、徒らに両手の中ではんけちをもみくしやにしてゐるあひだにやがて休憩の時間がきた。ぞろぞろと席を起つて廊下へなだれる人波に交つて遅い歩みをつづけながら何心なくふと振り返つた自分のすぐあとに、あまりにも思ひがけなく夏目先生の半白のお鬚の美しい顔があつて驚愕した。ドキツと心臓のとまつた心地で無意識に横へ退り、夢中で下げたあたまの前を、先生は軽く一揖しながら通りすぎてしまはれたが、その先生のうしろ姿を、鼠色の洋服の肩に品のあるうしろ姿を、私は高貴な真珠の薬でも飲んだやうな興奮で、終生忘れまいと見つめてゐた。
芝居がはねてから銀座へ出て、マツダランプの階上のヴヤンナといふカフエをエリセエフさんがおごつた。ヴヤンナの紅茶は一杯十五銭で大変高かつたかはりに、おいしい生《なま》クリイムがついてゐた。生クリイムといふものを初めてたべた心地がする。小宮先生や森田先生や漱石門下の方方が御一しよで、部屋の中はいつか電燈がかすむ程煙草のけむりがたち迷ひ、そとは紫に深く靄がこめて美しく夜が更けた。——私の記憶のまちがひで、晴れた星月夜であつたかも知れないが、気持のうへではどうしても深深と靄がこめてゐたのである。
東京駅がまだ駄目で、エリセエフさんは新橋からたたれたやうに記憶する。七月か八月の朝涼の折柄で、プラツトホームにあふれた見送りの人の中には粋な姿の美しい人も目立つてゐた。エリセエフさんは見送りの一人一人に握手して、手が痛くならないかと心配な程だつたが、やがて時刻が近づくとおなじお国の人らしい男の人と抱きあつては、幾へんとなくキスをした。チユツ! チユツ! と音楽的な高い響きが大勢のざわめきを圧して、驚いたのは私ばかりではないであらう。いつかしんとなつた日本人の群の上に雲雀の囀るやうな音ばかりが高かつた。さうして今迄の、和服を着て紫檀の机につやふきんをかけてゐたエリセエフさんの姿は、そのむきだしな激しい情熱の中に見る見る遠く消え去つてしまつたのである。
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