返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

もめん随筆41

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:ねずみの年もと書生をしてゐた遠野君がきて僕の就職口は年内にありませうかと云つた。去年の春神田の大学を出て田舎へ帰り、ちや
(单词翻译:双击或拖选)
ねずみの年

もと書生をしてゐた遠野君がきて僕の就職口は年内にありませうかと云つた。去年の春神田の大学を出て田舎へ帰り、ちやんと電力会社につとめてゐたのに、急に又東京へ来たくなつてやめてしまつたのである。世智辛いいまの時勢に勿体ないやうな話だけれども、本人はわりにのんきなやうな又心配のやうな顔をしてゐる。さうね、何しろもう十二月ですからどちらも忙しくてね、それにあんたは酉の一白で今月はあまり運勢がよくないのだからまあ来年まで気長に待つのだわねと云ふと、は、と畏まつて何か考へてゐたけれど、しばらくすると顔をあげて、あの僕は来年もやつぱり酉の一白でせうかと云つた。あんまり思ひがけない質問だつたので、つい笑ふ事も忘れてなぜ? とまじめに問ひ返すと、来年はねずみになるのではないでせうか。
子供たちまで一せいにふき出して遠野君は来年ねずみになるのともう一度笑ふのにつれて遠野君もをかしさうに笑つたがやつぱりよくはわからぬらしかつた。遠野君に会ふのは二年振りで、背広をきちんと着てあたまを美しくわけた遠野君を見てゐると、もうすつかり一人前の月給取りらしく、むかしブリツヂを一しよにやると切札をみんな捨ててしまつたり、お使ひに出すと行く先きざきから、ただいま此処へつきましたと電話をかけてよこした頃の面影は更にない。
遠野君はハイカラになりましたよと昔から御存知の志道先生に吹聴すると、さうでせうねと一応合づちを打たれてから、遠野君といへばいまでも眼鏡をかけてゐますかと問はれた。眼鏡に何か事件があつたのかもしれないけれど、私は思ひ出せなかつた。何しろ遠野君は東京へ出てきてまもない時分志道先生のお宅まで使ひにやると、森田さんからまゐりましたが志道といふ人はゐますかときいてみんなを仰天させた英雄なのだから何処にどんな話が残つてゐるかわからない。
一しよに夕飯の卓へつきながら私は志道先生のお言葉を思ひ出して遠野君の顔を眺めた。ちやんと眼鏡をかけてゐた。ただ以前はたしか鉄ぶちのちひさなものだと思つたのに、いま見るとべつかふのロイド眼鏡である。何となく思ひの外の気もちで私はわざわざ、遠野さんあなたのかけてゐるのはロイド眼鏡ねと念をおしてみた。はいロイド眼鏡ですと遠野君は言下に答へ、ああ遠野君もロイドめがねを愛好する程に進歩したのだなと私の考へた瞬間、遠野君はつづけて云つた。セルロイドめがねです。友達にもらひました。
遠野君はやつぱり来年はねずみになつて、もつと素ばしこく立廻つた方がよささうである。もつとも私は遠野君がねずみにならなくともこのままで就職出来る事を望んでゐるのだけれども。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

[查看全部]  相关评论