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ある日、ある午後03

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:ワインのことずいぶん前の話だが、軽井沢でそれは贅沢《ぜいたく》なワインパーティーをやった事がある。何が贅沢かって、ロマネ
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ワインのこと

ずいぶん前の話だが、軽井沢でそれは贅沢《ぜいたく》なワインパーティーをやった事がある。何が贅沢かって、ロマネコンティやらムートン・ロストチルト級の超と名のつく高級ワインが十五本、ズラリと並んだのだ。神様みたいなひとがいて、自分のコレクションを、私のパーティーに寄贈してくれたというわけなのだ。私は普通、食卓で飲むテーブルワインは、千円どまりのものを、当時飲んでいた。だから一本が小売りで五万円も十万円もするワインなんて、紀ノ國屋や明治屋でも横目で睨《にら》んで通り過ぎたものだ。
さて、ワインパーティーの夜、十五人の人間が集まった。単純に一人が一本の割りである。全《すべ》てのボトルが食事の二時間前に、そっとコルクを抜かれた。試飲前に、ワインに呼吸させようというわけ。
私は考えに考えて、料理はごくシンプルなものにした。レバーパテにローストビーフ。もちろんレバーパテは自家製だ。今宵のワインに合わせて、パテに使うブランデーもレミーマルタン。生クリームもたっぷり入れ、バターも無塩の高いやつ。このレバーパテは、フランスの田舎風だが、田舎風と言っても農家風ではない。フランスの田舎に狩りなどのために別荘を持っている貴族たちが、一日の終わりに燃え盛る暖炉の前で、シャトマルゴーのワインと共に食べる、ちょっと気取ったパテなのである。私はこれを、食通のお料理上手な女友達から教わって、私のレパートリーにしてしまった。フォアグラなんて足元にも及ばないくらい美味なのである。しかもワインにはぴったり。
メインの方は、ローストビーフだったが、軽井沢のデリカテッセンへ行き、営業用ではない極上のフィレを三キロおがみ倒して譲ってもらったのだ。これをミディアム・レアに焼き、グレイビーソースを添えただけ。もう天国なんてものではなかった。ワインは何種類も少しずつ飲み分けて、味の違いを楽しんだ。その時、ワイン通がグラスをゆっくり、ぐるりぐるりと回して見せ、天使の涙なるものを見せてくれた。グラスのふちについたワインが、底へ向かって流れていく時、水アメのように糸を引くのだ。ブランデーも天使の涙が見れるのだが、ワインは本当に良いワインでないと、この天使の涙は見えない。ワインをレストランなどで一本頼むと、ソムリエが、ちょびっとグラスに注《つ》いで試飲をすすめてくれる。たいてい二人だと、男性の方にすすめるが、ワインの味がわからないと形式みたいなものだ。私と夫も若い頃はそうだった。でも十年も十五年もワインを飲んでいると、味もわかるようになるもので、ワインの美味《うま》い、不味《まず》いは口に含んだ途端、二人共わかる。何が美味《おい》しくて、何が不味いかが、わかるようになるためには、ワインに限らず、不味いものばかり食べていては駄目なのだ。美味いものとの比較において、あれは不味かったのだという事がわかるからだ。高い物が必ずしも美味《うま》いとは限らないが、美味《うま》いものはだいたい高いものだ。普段千円のテーブルワインですましていても、誕生日だとか結婚記念日とかに一万円とか二万円のワインを飲んでみる。週に一度、土曜の夜だけ、一本三千円のワインを自分におごる。そんなふうにして、いろいろあれこれ試しているうちに、舌が美味いワインの味を学ぶのである。別にワインの仕事をしているわけではないから、一口含んで「あ、これは一九八二年のボルドーの……」なんて、パッとわからない。私にわかるのは、美味いか不味いかだけである。
レストランなどへ行って、ソムリエが夫の前のグラスに、ちょびっと注《つ》ぐ。夫はおもむろに、それを鼻に運ぶ。口ではなく、まず鼻に運ぶのは香りをかぐためだ。ふくいくとした香り。暖かくて、幸福感に浸れる一瞬。話はとぶけど、幸福な思いって次に起こる事に対する甘い期待の感情の事をいうんじゃないかしら。ワインの香りを胸一杯吸いこんだだけで、幸福感が味わえるなんて素敵じゃないと思う。香りを充分に胸に吸いこんだら、次に一口、口に含んでみる。ワインを舌で転がすようにして奥へと少しずつ流し込む。喉《のど》ごしの味が大事なのだ。と、いったやり方をするので、女のする事ではない。女がしては色気を損なわれる。試飲はあくまでも男の役割なのだ。私の歳《とし》になると、色気もあまり関係ないので、相手がまだ若い男だと私が、その役割を取り上げたりすることがある。レストランで注文するワインが一本一万円を越えるものだったら不味《まず》いのを我慢して飲みたくないからだ。もしもその時、味が妙だと思ったら、どうするのか? ソムリエは気難しく口を結んでいる。抗議などしたら、逆にバカにされるのではないか。と、たいていの人がこの段階でひるんでしまう。でもね、ちょっと首を傾けて、「一口、飲んでみてくれますか?」と、ソムリエに聞けばいい。相手はそれが商売なのだ。喜んで飲んでくれる。「どう思いますか」と、頃合を見計らって質問する。今度は、こちらが相手を試しているわけだ。「そうですね。少し酸化していますかね」とかなんとか、ソムリエは正直に言うはずだ。そして、新しいのを運んで来てくれる。その反対に、たいそう美味《うま》いワインに当たった時も、「一杯飲んでみて下さい。素晴らしいよ」と、ソムリエにすすめるのも素敵なマナーだと思う。ワインはリラックスして楽しむのにかぎるのだ。日本酒やビールを飲むのに、いちいち緊張しないのと同じだ。お酒の中では、ワインって一番色気があるような気がする。日本酒の色気にはある意味で譲らなければならないけど、ワインの方は気取った色気とでもいうか。深いルビー色の色合いも美しいし、第一、ワイングラスの型がきれいだ。薄口の、唇をつけると切れそうなグラスから、ワインを飲む時のスリルの味は捨て難い。
私はワインを飲む時は、ドレスの色に気をつけることにしている。紫や橙色《だいだいいろ》は避ける。ワインの色と重なって、両方とも汚く見えるからだ。一番無難なのは、黒のドレス。ワインの赤さが深みを増す。白いドレスの時は、パッと明るくなる。
よく食事に行く時に、フランスの香水をプンプンとさせている女性がいるけれど、あんまり香りが強いと、お料理の味を損なうから気をつけて。ワインの香りにも香水は敵。以前、香港《ホンコン》の夜景を眺めながら、高台にあるホテルのフランス・レストランで食事をした事があった。ナプキンをぐるりと巻いてある黒い光った紙に、金色の文字で私の名前が印刷してあった。その夜のお相手は、私の人生の中で巡り合った男性の中で、最高にハンサムなフランス人だった。エレガントで、優しくて、美しくて。その時の彼のワインを飲む姿が、これまた一枚の絵であった。彼はソムリエに向かって、鷹揚《おうよう》に頷《うなず》いて微笑した。ワインは素晴らしかった。もしかしたら、そんなに良いワインでなかったかも知れない。香港のきらめく夜景と、世にも美しい男性と、磨き抜かれたクリスタルグラス。そうしたものたちが、ワインの味を甘美にしたのかもしれない。恋は魔法使いなのだ。もっとも、その男性と私はその夜、握手をして別れた。彼は私の妹の男友達なのだ。世の中には、しても良い事と、してはいけない事がちゃんとある。してはいけない事が沢山あって、それに取り囲まれて生きるのが、私は好きだ。手を出してはいけない男とか、食べてはいけないもの、やっちゃいけない事、行ってはいけない場所等々。
好奇心を刺激され、私の中で飢餓感が高まって行くと、私はそれを満たすべく原稿用紙に向かうのだ。原稿用紙の上の作業なら、何事も私の自由自在だ。ステキな男とも出逢《であ》ってその夜のうちにベッドへ行けるし、特上のワインのコルクだってポンと抜ける。自分では足を踏み入れたこともないような、お城のようなマンションで、燃え盛る暖炉の火。その火の前でくりひろげられる情事。床に置かれたロマネコンティ。クリスタルグラスの中で血の色をしている赤ワイン。そんなシーンが次々と映画のシーンのように浮かんでくる。そうなのだ。小説とは作り事なのだ。でも、根っ子や葉っぱのある嘘《うそ》。可哀想《かわいそう》な私は、味も素気もない仕事机に向かって、ひたすら美しいシーンを書きまくる。せめてワインの入ったグラスをひとつ手元において。
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