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ある日、ある午後05

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:延々とフローズン・ダイキリをあそこで飲んだあのお酒が最高に美味《おい》しかったという思い出が、ひとつふたつと増えていく。
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延々とフローズン・ダイキリを

あそこで飲んだあのお酒が最高に美味《おい》しかったという思い出が、ひとつふたつと増えていく。
もっともそういう特別の美酒の思い出というのは、五年に一度とか、七年に一度くらいの割りにしか生まれない。だからそれほど多くもない宝石箱の宝石類よりも、更にもっとその数は少ないということになる。
ニューヨークのトップ・オブ・ザ・ホテルというところで飲んだフローズン・ダイキリは、フローズン・ダイキリの中のピカイチだった。エンパイア・ステイトビルが確かオレンジとピンク色に輝いていた日だった。毎月だか何かあるごとにだか知らないが、エンパイア・ステイトビルは時々色を変えるのだ。
そのオレンジとピンクのエンパイア・ステイトビルを眺めながら、私はフローズン・ダイキリを建築家の鈴木エドワードと彼の秘書とニューヨークの友人とで飲んだのである。私は鈴木エドワードに恋をしていなかったが、もし彼に恋をしていたら、あの味はまた数段上がっただろうが、残念。エンパイア・ステイトビルのオレンジ色が、鈴木エドワードの浅黒い細面を染めて、それは絵になる風景ではあったのだが……。
たとえ同席者の一人に恋をしていなくとも、その味は抜群。氷の量といい、甘み、酸味、コクといい全《すべ》てパーフェクト。
もっともフローズン・ダイキリの作り方なんて、ものすごく易しいのだ。私は夏になると三浦三崎の海の家で、よく自分で作ったものだ。とても簡単だから、みなさんも是非作ってみて。
まず、バカーディ・ラムという白い透明なラム酒が必要だ。それにレモン。砂糖。氷。材料は以上。
シェーカーなんて洒落《しやれ》たものはいらない。ふたのきっちりしまる手頃なビンが一本あればいい。私はマヨネーズの入っていた一番小さなビンを、よく洗って使用した。ネジぶたなのでしっかりしまるし、手の掌《ひら》に握れる大きさが具合が良いからだ。
では作り方。氷を適当に砕いたらそれを清潔なフキンで包む。冷蔵庫の氷なら、そのまま包めばよい。氷が飛び出さないようしっかりと包んだら、マナ板の上に力一杯|叩《たた》きつけるか、あるいはカナヅチで軽く叩く。フキンの中の氷が小指の先くらいの大小になれば、理想。これをクラッシュト・アイスと呼ぶ。つまり、叩きつぶした氷片という意味。
このクラッシュト・アイスを、大きめのクリスタル・グラスに七分目までつめておく。これで用意の半分がすんだ。
さてダイキリの作り方。マヨネーズのあきびんに、レモンのしぼり汁一コ分を入れる。砂糖を大さじ一杯、バカーディ・ラム酒を大さじ三杯。この三つをいれたらフタをきっちりとしめ、片手で中味が白濁するくらい、振って混ぜ合わせる。
よく混ざったら(三十秒くらい振ればいい)、先に作っておいた |砕 氷《クラツシユト・アイス》 の上に全部注ぎ入れる。これで出来上がり。そこいらのバーで飲むよりはるかに美味《おい》しいフローズン・ダイキリとなる。
以上であるが、レモン一コに対して砂糖を大さじ一にするか二にするか、あるいはもっと少なくするかは、好みの問題。ラム酒の量も大さじ二杯でもかまわないわけだ。私は酸味の強いのが好きだからレモンを一コ分しぼってしまうが、多分普通の場合、一コは多いかもしれない。半分から一コの間のレモン汁を適量に。
疲れている時には、砂糖の量を倍にして飲んだり、臨機応変にできるところがホーム・カクテルの良いところだ。
いつだったか、青山のレストランにつづいているバーで、フローズン・ダイキリを頼んだ。出て来たのは涙が出るくらい小さな三角のカクテルグラスに氷がつめてあって、中味は二口《ふたくち》でなくなるくらいの代物。
私は我がホームバーのダイキリのあのずっしりと手に重い、バカラのタンブラー入りのタップリの味を、しみじみと懐しんだ。
「アレ?」と思った。甘味がないのだ。辛口を粋《いき》とする風潮がカクテルにも及ぶのは、ナンセンス。
「悪いけど、もう一杯ちょうだい。そして更に悪いけど、お砂糖を小さじ一杯入れて作ってくれる?」
私は遠慮がちに頼んだ。
するとバーテンダー、憮然《ぶぜん》として何て言ったと思う?
「そういうことはいたしません」
ですってさ。プライドが許さないんだって。
「うちのは正統ですから」
ほんとかな。こう言っちゃ嫌味だけど、少なくとも眼の前にいる若造のバーテンダーよりも、フローズン・ダイキリの場数はふんでいるつもりだ。キューバのヘミングウェイ行きつけのバーで、無口なバーテンダーが作ってくれるものこそ飲んではいないが、世界中のあちこちで試してみた。ニューヨークのトップ・オブ・ザ・ホテルのフローズン・ダイキリの味も知っている。何が正統派の味なものか。スズメの涙くらいの量で千五百円もふんだくって、ヘミングウェイなら、
「こりゃなんだ」
と、床に放りだすお粗末な代物。お粗末なプライド。しかしそこで腹を立てるのは、私の趣味じゃない。こういう店へは二度と飲みに来なければそれで済むことだ。私は自分にとってどうでもいいことや、どうでもいい人たちに対して腹を立てることはめったにない。ただ黙って関係を切ってしまうだけのことである。
でもその人が素敵だったり、好きだったりしたら、一生懸命説得しようとする。というわけで、その店は二度と行っていない。
ここまで原稿を書いて、私は取材旅行に発《た》たねばならなくなり、残りは旅先の伊豆《いず》の宿でということにする。
 さて、伊豆の温泉宿。|湯ヵ島《ゆがしま》の白壁荘というところ。すぐ前を川が夕立のような音を立てながら流れていく。
そうそう、新幹線の中で、ダイキリを作るのにぴったりのものをみつけてしまった。百円のお茶のパック。最新のデザインのものは、お茶の葉をパラパラと入れられるようになっていて、口の半分が茶こしになっている。大きさといい、ふたのしまり具合といい、茶こしといい、もうこれ以上のものは望めない。私は三つも買いこんでしまった。レモン汁を入れると、タネがどうしても入ってしまうのだが、この茶こしでタネの問題は見事に解決である。今年の夏休みはカナダの島で過ごすつもりなので、このお茶のパックを持参するつもり。ほんとにグッドタイミングの出逢《であ》いであった。
本題に戻ろう。思い出のドリンクの二つめは、ホンコンのリパルス湾にあるリパルス・ベイ・レストランで注文したフローズン・マルガリータの味。もう最高。
そこへは、加藤タキと黒川|雅之《まさゆき》、内田繁夫妻、弁護士の木村|晋介《しんすけ》夫妻といったメンバー十人で出かけていった。爆笑的|贅沢三昧香港《ぜいたくざんまいホンコン》旅行と銘うって、私が企画したのだ。
スパイシーなタイ風料理を注文し、それを待つ間のアペリティフであったが、量もタップリ。勘どころのキリッとした美味に、甘い酒はドーモなんて言っていた木村晋介弁護士まで四杯もおかわりしたほど。
結局、ワインは止《や》めて食事をフローズンのマルガリータで通してしまったのだが、特辛のタイ料理には、ぴったりの味であった。今でも顔を合わせると、あの時のマルガリータ、美味《おい》しかったねぇと、伝説的な語り草。
あの味が忘れられなくて、また十二月に香港旅行を企てている。
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