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ある日、ある午後23

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:文 字世の中には惚《ほ》れぼれとするような文字を書く人がいるものだ。ほんとうに惚れこんでしまって、ぽうっと長いこと眺めた
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文 字

世の中には惚《ほ》れぼれとするような文字を書く人がいるものだ。ほんとうに惚れこんでしまって、ぽうっと長いこと眺めたり、さすったり。なぜかそういう上手《うま》い字に出逢《であ》うと、胸が痛くなる。
編集者に二人、絵描きに二人、グラフィックデザイナーに一人、私が無条件で惚れてしまった文字の書き手がいる。
達筆というのではない。むしろ絵心のある字である。空間の処理が実に良いのだ。
彼らは例外なく、ペンであろうと鉛筆であろうとボールペンであろうと、破綻《はたん》のない字を書く。弘法《こうぼう》筆を選ばず、とは彼らのような人たちのことをいうのだろう。
不思議なことに、彼たちは味わいのある文章をそろいもそろって書く人たちだ。プロの作家ではないが、多分プロとしても通用するくらい、良いエッセイや手紙や雑文を書く。
さて私のことであるが、冷静に見て字は上手《うま》くない。なんとか格好がつくのは、万年筆で書いた文字だけである。鉛筆だと稚拙になり、ボールペンだとこれが同じ人間の書いた文字かと思うくらい変型した文字になってしまう。
万年筆の太目のペン先で、ゆっくりと叩《たた》くような感じで書くと、一時間に二枚くらいのペースで原稿がすすむ。このペースと頭の中で作文をしていくリズムとがぴったりと合うのである。
頭が疲れてくると、何故《なぜ》か逆に書くリズムが速くなる。そのとたん文字面が変わってしまう。文字が破綻してくるのである。
大体三時間続けて集中すると、頭が疲れ、文字に乱れが生じてくる。『週刊文春』連載の『ベッドのおとぎばなし』は十六枚の読み切り短編だが、私はこれを二日に分けず一日で、しかも一気に書き上げるので、たいてい後半のほうは、文字が崩れている。書き始めと終わりとでは、自分の眼で見ても同一人物の文字とは見えないくらい、違ってしまう。
ということは、文字が乱れだしたらその日の原稿はそれで打ち切るのが良いということだ。疲れた頭でいくら書いても、手は動くが、精神がこもらない。私が一日に破綻なく書ける枚数はこの計算でいくと、八枚から十枚ということになる。
万年筆で書く文字を見ると、自分のその時々の健康状態や精神的な状況が、実によくわかるものである。
けれども、先に上げた文字の上手《うま》い知人たちというのは、字面に一糸の乱れもないから、いつみてもクールで、抑制がきいていて、スキがない。
書きなれた万年筆は目下のところ命の次に大事なので、私は同じものを二本常備している。
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