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ある日、ある午後25

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:愛について小説は作りごとだけど、やっぱり知らないことは書けない。これは当たり前だ。自分がまだ一度も見たこともなければ行っ
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愛について

小説は作りごとだけど、やっぱり知らないことは書けない。これは当たり前だ。自分がまだ一度も見たこともなければ行ったことのない町のことを、どう書けば良いのだろう?
同様に自分の知らない人のことや人生のことも書けない。
私が書きたいのはまず第一に、私自身のことだ。次に、私が好きで深く魅《ひ》かれる人のことだ。正確にいうと、その人と私とのかかわりについて書きたいのであって、単に遠くから見て素敵だというのでは話にもならない。
鶏が先か卵が先かになってしまいそうだが、少なくともこれから先私が深くかかわって行く人間がいるとすれば、男であろうと女であろうと、彼らは全《すべ》て私の小説の素材である。
私はまだこの先、恋愛をするかもしれないが、もしするとしたら、そういう状態に自分を置き、私自身を素材にすることに他ならない。
もしも小説を書くようなことをしていなければ、私の年齢ではもはや他人に対していかなる影響力ももちたくはない。これが本音だ。そのような感情の重荷を、今更、背負いたくはないのだ。愛は決して感情ではないし、相手を所有することでもないし、自分を与えることでも、相手から奪うことでもないということが、今ではよくわかるからだ。愛というのは、その闘いのためにもう一度——何度でも——裸になること。愛は成長すること。だから個人的には、もう充分なのである。
けれども書き手としてなら、私自身を場合によっては、恋愛にかりたてることはあるかもしれない。私は自分を間近に観察しながら、感情的になったり、所有の真似《まね》ごとをしたり、涙で相手を脅迫したりするだろう。子供じみた貪欲さとエゴイズムを発揮するだろう。
ある時私は、今一番大事に思っている友だちに、こう言ったのだ。
「私の前で気取らないでちょうだい。いいところばかり見せたり格好つけないで欲しいのよ。私にあなたの弱味を見せて。あなたがカンシャクを起こしたり、時に泣いたり、怒鳴《どな》ったりするところが見たいのよ。あなたの卑劣さや、弱さや女々しさも見たいのよ。格好のいいあなたじゃなくて、破綻《はたん》しているあなた、傷口やらウミやらを見せてもらいたいのよ」
すると彼は答えたのだ。
「嫌だね。絶対に断るね。どうしても男のそういう部分が見たいというのなら、他をあたればいいよ、僕はごめんだ」
他の男になんて、興味はないのだ。私は失望した。
「それにさ」と彼はつけ加えた。「もしも仮りに僕があなたの前に僕の女々しさや卑劣さのかぎりを露呈したとするよね。当然、あなたはそいつを書く。待ってましたとばかり書きまくる。それはいい。書かれるのはいいとして、その後は? 多分、僕はお払い箱だよね。用済みってわけ。やっぱり他をあたってくれよね。頼むよ」私は、私のずるさ、残酷さをつきつけられたような気がして、絶句した。そうなのだ。作家とは、自分にとって一番大事な人たち——夫や子供や友人や親などを——喰《く》らいつくして骨までしゃぶり、最後に用済みの骨をポイと放りだして棄《す》てる食人鬼なのだ。ああ怖い。
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