英国を訪れる機会は少なくないので、泊まるホテルもピンからキリまである。
キリはBBという、言ってみれば日本の民宿のようなもの。ベッド&ブレックファーストの略である。
BBはイギリス中いたるところにあって、文字通り一夜のベッドと朝食を提供してくれる。一番安くって千五百円くらいから四千五百円どまり。
その昔娘や息子が使っていた部屋を、カーテンやベッドカバーもそのまま、可愛《かわい》い感じで使用しているところが多かった。
ホテルに比べるとはるかに安いし、家庭的な温かいサービスが受けられるしで、私たち一家はよくBBを利用する。
特に混み合うシーズンでもないかぎり、予約なしで飛びこめるところが気軽で良い。風景のいい場所にとても感じの良い田舎家風のBBがあったら、その前で車を停《と》め、一夜の宿を頼めばいいだけである。
ピンの方は、ロンドンでは、サヴォイホテルのスウィートに滞在したことがある。こちらの方はBBのゆうに五十倍もする値段で、しかも朝食代は別だ。
玄関のところに、一見まるで大臣かどこぞの国の大使ででもあるかのような立派な風体の男性が、燕尾服《えんびふく》など着て、シルクハット姿で厳しくそそり立っている。おかげでそういうところに泊まる時は、こっちまで貴婦人か女王さまになったような気分が味わえる。
何もびくびくすることはない。高い高いお金を出して泊まるのだから、堂々としておれば良い。
イギリスのホテルで良いのは、朝食の豊かなこと。英国式朝食だけは、世界のどのホテルにも引けをとらない。なにしろ、朝から、魚料理や、モーニングステーキやつけあわせのポテトが出てくるのだ。私は、ホテルの朝食の中では特に、スコットランド製のニシンのくんせいと、キドニーのオニオンソテーが好きで、この二つには目がない。それで英国に旅すると、必ず三キロは太ってしまうのである。