エーゲ海航海誌
八月二十一日
昨夜の真夜中近くようやく、ロードス島のホテルに到着した。一足先に来ていた家族はすでに眠っており、ドアを叩《たた》いて夫を起こすのにも一苦労。ほとんど口もきかずにベッドにもぐりこんだ。
ホテルの名はパラダイス。一夜明けて、エーゲ海の明るさが室内を照らし出し、そのあまりのまぶしさにいたたまれなくなって、起き出した。
テラスに出ると、甘やかな潮風。酷熱のギリシャでも、風はかなりクールだ。生まれて初めて見るエーゲ海の蒼《あお》。雲ひとつない空。白い家々。そしてホテルのすぐ下のビーチにはパラソルが咲きほこり、その下にゴロゴロところがっている人たちで、鎌倉にいるみたい。
鎌倉と違うところは、女たちが九〇パーセント、トップレスであること。老いも若きも、デブもヤセも、実にあっけらかんと裸の胸を太陽にさらしている。私には、さらすような胸もないので、ビキニをつけたまま、パラソルの陰でほとんど一日中旅の疲れで気絶していた。
その夜、ホテル主催のコンテストで、うちの二女のマリアがミス・パラダイスの三位に選ばれた。小粒のダイヤ入りの指輪をもらって、マリア十六歳、日焼けした顔をヒマワリのようにほころばせた。