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ある日、ある午後53

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:旅はほんとに道連れ食いしんぼうの友人たちと例によって、何か美味《おい》しいものを食べようよ、という話になった。もちろん二
(单词翻译:双击或拖选)
旅はほんとに道連れ

食いしんぼうの友人たちと例によって、何か美味《おい》しいものを食べようよ、という話になった。もちろん二つ返事である。
では何を食べようかという段になって、季節柄、上海《シヤンハイ》ガニと異口同音できまった。親しい友だちのいい点は、趣味が一致しているということである。
「どうせカニ食うなら、いっそのこと香港《ホンコン》まで行こうよ」
と一人が言い出した。
「香港までねぇ」
みんなはそれぞれ自分のスケジュールを頭に浮かべながら溜息《ためいき》をついた。
「土曜の午後一番に飛べば、夕方には香港に着く。それから鯉魚門《レイユームン》あたりへくり出してカニをたらふく食う。翌日の飛行機で帰って、六本木の福寿司で口直しをする。どうこの案?」
ひどく魅力的に聞こえる。気も食指もそそられる。
「日帰りに毛が生えたようなものだよ」
言い出しっぺは尚《なお》も言い張る。
「たとえ毛が生えたようなもんだって、一応外国だからねぇ」
またしても溜息《ためいき》が広がる。
「だけど六月にみんなで京都へハモ食いに行った時のこと覚えてる?」
「あぁ、あれは実に美味《おい》しかった」
「違うよ、費用だよ。新幹線のグリーン車に乗って、宿屋に泊まって、料亭でハモ三昧《ざんまい》やって、一人で軽く十万円は吹っとんだよ」
香港の一泊旅行なら、十万円でたっぷりお釣りが来る。中国産のカシミアセーター買って、スワトーのハンカチーフくらい買えてしまうかもしれないと言われて、段々みんなその気になって来た。
「しかし、いきなり今週末の飛行機が取れるかな」
「当たってみなければわからんよ」
というわけで言い出しっぺが当たることにした。二、三日して、電話があり、このシーズン満杯でどの航空会社もだめ。
「残念だね」
と内心ほっとしながらも、行けないとわかるとやっぱり残念。
「まだ希望を捨てるなよ、何とかなるかもしれないから」
言い出しっぺは、私の残念そうな声に同情したのか、もう一度当たってみると言って電話を切った。
「いいニュースだよ」
とまたしても電話が入った。
「友だちに専用ジェットを持っている男がいてさ、この話に乗るって言うんだ」
「え? 専用ジェットをわざわざ、カニ食い仲間のために飛ばすっていうの?」
「本人がカニ食いたいんだから勝手だろ」
そのひと、ミュージカルが観たいとニューヨークまで専用ジェット飛ばすのかしら? ハロッズで買いものしたいと言うと、ロンドンへジェット飛ばすのかしら。へぇ、日本にもアラブの金持ちみたいな人がいるのねぇ。
「でも、ホテルはどうなの? どこも一杯だって断られたじゃない」
行きたいくせに、なぜか反発してしまう。
「ところが、その友だちのまた友だちが香港にホテル持っててさ、十人くらいどうにでもなるって」
「へぇ……」
「行こうよ。全部|只《ただ》だぞ。自前はカニ代ぐらいのものさ。行かないって手はないぜ」
「そうよね」
と私はハタと考えた。只ほど高いものはないと言う。それに自分のお金を払って行くからカニも美味《おい》しいのだ。他人の専用ジェットに乗り、他人のホテルのスウィート・ルームに只で眠るなんて、何かが違うんじゃないか。
というわけで、この夢の企画は流れた。流れても良かった。私たちはもう少しつつましくやりたい。身分相応のところで。で結局、恒例の六本木の中国飯店でこの秋もカニ食い会は行われた。
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