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ある日、ある午後59

时间: 2020-03-31    进入日语论坛
核心提示:あなたに似た人私の読書歴はジャンル別にかなり集中する傾向があるみたいだ。小学生の時はとにかく全集と名がつくものをほとんど
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あなたに似た人

私の読書歴はジャンル別にかなり集中する傾向があるみたいだ。小学生の時はとにかく全集と名がつくものをほとんど全部。世界子供文学全集とか、父の書棚にズラリと並んでいた昭和五年発行の新潮社版世界文学全集とか、これはやたらと漢字の多い旧かな遣いの難解な本だったが、他に読みたいものもなかったので、片っぱしから読みふけっていった。
大学時代にサガンやサルトルやカミュを読み、結婚して子育ての六年間は、ミステリー一点張り。文庫のミステリーを一日一冊、多い時は二冊のわりで読み飛ばした。
三十五で自分が小説を書き始めるまで、読んだのはほとんど九九・九パーセント西洋文学やミステリーで日本のものは読まなかった。だからすごく片寄った読書傾向だったのである。
ロアルド・ダールの作品にめぐりあったのは、三十三、四の時で、私自身が書き始める直前の時期にあたる。サキとかブラッドベリとか、ダールの時代と自分で呼んでいる短期間である。
私の最初の小説『情事』の一ページ目にも、ダールやブラッドベリの名が出てくるから、記憶にまちがいはないと思う。
サキにしてもブラッドベリにしてもダールにしても、共通なのはブラック・ユーモア。日本人の血の中にあまり流れていないもの。当然日本人の文学にもないジャンル。
これこそ短編小説のきわみ。ドキドキして、ニヤリとして、そして最後にぞっとして背中の生毛が逆立つ文学。
ぞっとするのも血が流れたりグロテスクであったり怪奇だからではなく、人間が本来的にもつ欲望の醜さ、その滑稽《こつけい》さを切りとって、スパッと見せてくれるのだ。そして何よりも恐ろしいのは、ごく普通の人間が、ごく普通の状況の中で、ふと魔がさして、それをさかいにごく普通の状況から異常な世界へ踏みこんでしまうという、そのあまりの簡単さに、私は唖然《あぜん》としてしまったのだった。
普通の人が怖いんだ、とつくづくと思った。普通の人々の心の中に、ある時突然起こることや、普通の人ともう一人の普通の人が出会うということが……。
だから『あなたに似た人』というタイトルになるわけなのだ。これはあなたのことなのかもしれないし、もしまだ起こっていなければ明日か明後日にあなたの上に起こるかもしれないし、この私のことかもしれない。
たとえばこんな話がある。道に迷ったか、人を訪ねたのか忘れたが、若い男がある家を訪ねる。かなり大きな館(マンション)だ。太った中年の金持ちふうの男が出て来てちょっとした立ち話になる。どちらかが煙草をすう。訪ねて来た男がライターを取りだして、カチッと火をつける。
太った金持ちがふいにこう言う。「そのあんたのライターをたて続けに十回火をつけられたら、そこにあるロールスロイス(だったと思う)をくれてやろう」
つまり賭《か》けを申しこんだわけだ。道に迷った若い男は心をそそられる。それはそうだロールスだもの。それにそのライターはめっぽう着火がよくて、一度も火がつかなかったことなんてなかった。(思うにジッポウのライターみたいな感じ)。その気になってこっちは何を賭けたらいいかときいた。すると太った男の答えは「指」である。失敗したら指を一本切り取ってくれろというのである。
ロールスロイス対指一本。若い男は考える。うまくいけばロールスが転がりこむ。その上ライターの調子はすこぶる良好だ。万が一のことがあったにしても失うのは小指が一本。若い男はついに決意する。(あなたならどうする?)
さて勝負。一発、二発、三発、四発と楽々と火がつく。が、次第に若い男の顔が青ざめていく。冷たい汗が流れ、手が震える。五発、六発、おっとあぶない七発。このあたりのスリルは本を読んで臨場感というのを味わって頂きたい。手に汗を握るとはこのことだ。映画を見ているみたい。自分がその場にいるような感じ。そしていつのまにか、私自身がその主人公になって、ライターをカチカチやっている気になってしまう。カチッと八発目。もう嫌だ。止めてくれ。ライターを投げだして逃げだそう。背骨に添ってツツーと一滴の冷たい汗がしたたり落ちる感じ。
最初の五発まではひたすら頭にあったのは、手に入るかもしれないロールスのことだった。ところが後半六発目からは、失うかもしれない小指のことが頭を占領してしまうというこの心理の逆転。
ストーリーの最後は、言わないのがルールだろう。とにかくあっと驚く結末だ。唖然《あぜん》として、ぞくっと寒くなる。しばらく心臓の動悸《どうき》が止まらない。
そういう話がいくつもつまった短編集。今の話は確か『南から来た男』というタイトルだと思ったが。
ひとつ読むと次が読みたくなる。全部読むともっと他のも読みたくなる。麻薬みたいな短編なのだ。毒があって、蜜《みつ》があって、キラキラしていて。
人間の心の底にある欲望を切りとり、毒や蜜やキラキラでまぶし、見事な一皿にしてしまう。ダールは小説の料理人。それもとびきり腕の良い料理人。その包丁さばきの切れること。選びぬかれた素材、素材を選り分ける眼、嗅覚《きゆうかく》。手早い料理っぷり。ほとんど芸術だ。そして仕上げをごろうじろ、一皿の絵のような盛りつけのセンスの良さを。
味はもちろん、ちょっぴり毒があって、タップリ蜜があるのだから美味なのにきまっている。一度食べたら病みつきになるというわけだ。
ロアルド・ダールってどんな人だろうとずっと想像していたら、TVのダール劇場というので初めて実物を見た。予想に反して、毒気のない、さらりとした長身のイギリス紳士といった風貌《ふうぼう》。ますます熱烈なるダールのファンとなった。
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