私の10点
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私の親しい友人の男優がある時、鶴屋南北《つるやなんぼく》の四谷怪談の民谷伊右衛門を舞台で演ずるのが夢なのだと私に語った。
「え? あのお岩さまの?」私は一瞬深い断絶感を覚えて言った。彼がテネシー・ウィリアムズというのならすんなりと受けとめられるのだ。断絶感を埋めようという作為がとっさにわき、私は思わず言ってしまった。
「台本、私書きたいわ」
数日後、岩波文庫の鶴屋南北『東海道四谷怪談』を買った。私がかつて聞いたことも読んだこともない科白《せりふ》で埋まっていた。歌舞伎も古典も全く知らない私には、外国語みたいなものだった。一行ずつ翻訳しながらくりかえし読み進めているので、台本はいつの話になるかとんとわからない。
「え? あのお岩さまの?」私は一瞬深い断絶感を覚えて言った。彼がテネシー・ウィリアムズというのならすんなりと受けとめられるのだ。断絶感を埋めようという作為がとっさにわき、私は思わず言ってしまった。
「台本、私書きたいわ」
数日後、岩波文庫の鶴屋南北『東海道四谷怪談』を買った。私がかつて聞いたことも読んだこともない科白《せりふ》で埋まっていた。歌舞伎も古典も全く知らない私には、外国語みたいなものだった。一行ずつ翻訳しながらくりかえし読み進めているので、台本はいつの話になるかとんとわからない。