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ウィリアム・ゴールディングがノーベル賞をとった時は、私はほんとうにうれしかった。多分これは父の影響だと思うのだが、子供のころから私は海洋冒険小説が好きで、ずいぶん心をときめかせてきたが、『蠅《はえ》の王』(集英社文庫など)は、そのきわめつけ。最も文学の香りの高い海洋冒険小説だと私は信じている。これは絶海の孤島にとり残された子供たちのなんとも絶望的な冒険の話だが、純粋|無垢《むく》ゆえに子供心のなんという冷酷さ。子供というものは決して無邪気ではないと背筋が凍りつくような、しかしあくまでも美しい小説なのである。無人島にたった一冊をもって行くとしたら、何を選ぶかという質問があれば、私は断然『蠅の王』である。