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フィリップ・ロスとの最初の出会いが『ポートノイの不満』(集英社文庫)だった。解説者の言によれば「次第に錯乱状態に陥ってゆく男根の物語り」であり、同時に「ユダヤ人として育てられた主人公が足場を見失う話」である。強烈なパンチを胃のあたりに一撃打ちこまれたような気がしたものだ。ある種の嫌悪感から吐き気まで覚えた。
私の夫はロスをして、メソメソした感傷的な文学だ、とけなすが、感傷的であっても、どこか乾いていると、私は反論したことがあった。その後、ロスの作品を次々と読み続けて思うことだが、彼はその作品のいかなる細部においても、文学的絶頂感というものを自分に許していない作家なのだ。文体が叫びたてていたら、文学の香りは飛び散ってしまう。ロスも私に強い影響を与えた、そして現に与え続けている作家である。
私の夫はロスをして、メソメソした感傷的な文学だ、とけなすが、感傷的であっても、どこか乾いていると、私は反論したことがあった。その後、ロスの作品を次々と読み続けて思うことだが、彼はその作品のいかなる細部においても、文学的絶頂感というものを自分に許していない作家なのだ。文体が叫びたてていたら、文学の香りは飛び散ってしまう。ロスも私に強い影響を与えた、そして現に与え続けている作家である。