9
ある時、テレビの洋画劇場でクリス・クリストファーソン出演のなんとも美しい映画を観《み》た。それが三島由紀夫の原作を映画化したものだとは、学のない私は知りもしなかった。とにかくすごく美しい映画だし、船乗りと、美しい女と、その子供の奇妙な関係が面白かった。何かの折、それが三島の文学だとわかった時、驚愕《きようがく》して本屋へ走った。映画と同じタイトルの『午後の曳航《えいこう》』は、新潮文庫にあった。私はこの作品における少年たちの残酷さに、激しいショックを受けた。少し後になって思ったのだが、ウイリアム・ゴールディングの『蠅《はえ》の王』の、あの無邪気な少年たちの残酷さに、相通じるものがある。『午後の曳航』の後、続けさまに三島作品を全部読んだ。私はそんなふうに何かのきっかけで一人の作家を集中して読む傾向が強い。