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ある日、ある午後70

时间: 2020-04-01    进入日语论坛
核心提示:指折り数えて待つ 『笑う警官』シリーズ自分で本が買えない頃は、もっぱら父の蔵書を読みあさっていた。ほとんどが外国の翻訳物
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指折り数えて待つ 『笑う警官』シリーズ

自分で本が買えない頃は、もっぱら父の蔵書を読みあさっていた。ほとんどが外国の翻訳物の単行本か全集物であった。
やがて小遣いがもらえるようになると、それで文庫本を買うようになった。初めて自分自身の本が手に入ったわけだ。
私だけの本が少しずつ増えていくのがとてもうれしかった。
けれども私にとって本当の文庫時代ともいえるのは、三人の子供を育てることに専念した二十代の後半から三十五歳までの六、七年間。この間一日に文庫本を二冊のわりで読みあさった。育児の他に何もすることがなかったからである。
その頃集中的に読んだものは、大きく二つのジャンルに分かれる。ミステリーものと文学、これをほとんどかわりばんこに読んだものだ。
とりわけ、スウェーデンのコンビ、M・シューヴァルとP・ヴァールのマルティン・ベックもの。『笑う警官』『バルコニーの男』『サボイ・ホテルの殺人』『密室』『テロリスト』『爆破予告』など。
私は元々警察ものの推理小説はそれほど好きではないのだが、角川文庫から出た『笑う警官』シリーズは例外。次は何時でるのかと指折り数えるようにして文庫化される作品を待ったのは、このシリーズと、フランソワーズ・サガンの本くらいのものである。
とりわけ『バルコニーの男』は灰色のストックホルムの陰鬱《いんうつ》さを背景に、背筋が寒くなるほど無気味なストーリーであった。個人の好みの問題であるが、私はシリーズ中でこれが一番良いと思う。高見浩の訳もすばらしく、抑制のきいた、テンポの早いクールな文体も大好きだ。
他には、フレデリック・フォーサイスの一連の作品がそれに続く。『ジャッカルの日』『オデッサ・ファイル』『戦争の犬たち』『シェパード』『悪魔の選択』『帝王』『第四の核』と次々に角川文庫から出たが、この後半の頃には私自身作家になっていたので、単行本が買えるようになった。
それにしても文庫で読んだ『ジャッカルの日』の衝撃は忘れない。一度でフォーサイスの熱烈なファンになったほどだ。
私は一人の作家にかかると、その人の作品だけを徹底的に読む傾向があるので、従って一年に一作ずつ位しかその人の本が文庫化されないと、気が狂いそうになる。
私にとっての角川文庫とは、だからM・シューヴァルとP・ヴァールのことであり、フレデリック・フォーサイスのことである。これらの作家に出逢《であ》えたことの喜びはとても大きい。
最近の角川文庫とのつきあいも、もっぱらエンターテイメントのジャンル。主として旅行や講演会の移動中の乗りものの中で読む。昔から文庫の一|頁《ページ》を開ける瞬間のドキドキするようなうれしさは、今も変わらない。
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