最も「今風」の女優である。時代の最先端にぽっと咲きでた徒花《あだばな》といった感がないでもない。
「今風」というのは、必ずや、いずれ「時代遅れ」となる運命にある。それが三年後になるか五年後になるかの違いだけだ。
やがて消えていく運命が、誰《だれ》の眼にも明らかな女優というものは(男優もそうだが)、見るものの胸を哀《かな》しくさせる。時には、しめ上げてくる。
それゆえに、現在という刻《とき》の流れの先端にいて、キムはドキッとするほど美しい。
もしも私が男だったら、きっとすごく惚《ほ》れてしまって、それで痛い思いをし、身も心もボロボロになってしまうだろうと思う。でもたとえそうでも、男と生まれたからは、ボロボロになるほど、一度は女に惚れぬいてみたい。そういう相手としては、キムは最高ではないかと、思う。
もっともこれはスクリーンから受ける女優としての彼女のイメージであって、実生活のキムはものすごく堅物の知的スノッブかもしれない。そんなことは逢《あ》ってみなければわからないことだ。
あの永遠の我々のヒーロー、『風と共に去りぬ』のレッド・バトラーだとて同じこと。あれを演じたクラーク・ゲーブル。あんな大人の魅力をもった男だったら、もう喜んで身も心もまかせてしまいたいと、思うではないか。
が現実のクラーク・ゲーブルはどうだろうか。誰だったか忘れたが、共演した女優の自伝を読んだ時に、びっくりするようなことが書いてあった。「クラークって、すごい口臭持ちなのよ。耐え難かったわ」
私なんて、もう本当に腰を抜かしそうになったもの、それを読んで。
再びキムに戻って。いわゆる「今風」のいい女。どちらかというと汚れ役とか娼婦風《しようふふう》の役が似合う。だけど、汚れ役とか娼婦風って、演じやすい役柄なのだ。日本の女優なんて、全員この二つの役だけは、絶対に上手《うま》い。だけどこれ以外のレディの役とか、普通の女というのが演じられない。普通の女を、気負いなく演じられたら、キムは、十年後も健在だろう。そうであることを、ファンとしては祈りたい。