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大都会25

时间: 2020-04-13    进入日语论坛
核心提示:コルサコフ症状群「何!? 渋谷が廃人になったと」さすがの花岡俊一郎も蒼白になった。デスクの上に置いた指の先が震えている。「
(单词翻译:双击或拖选)
コルサコフ症状群

「何!? 渋谷が廃人になったと」
さすがの花岡俊一郎も蒼白になった。デスクの上に置いた指の先が震えている。
「生命だけは辛うじて取りとめましたが、強度の精神錯乱をおこして全くの痴呆状態になっています」
報告する進も声が上ずり、両脚が立っていられないくらいにがくがく震えている。
「一時的なものではないのか?」
俊一郎は辛うじて声を出した。
「もう少し経過を見なければ何ともいえないそうです。家族が目の前で焼け死ぬのを見たショックからだろうと医者は言っておりますが」
「癒《なお》せ、どんなことがあっても。MLT—3はようやく大量生産方式に入ったばかりだ。是が非でも彼が要る」
「はっ、しかし……」
進はこればかりは自分の力ではどうにもならないと言おうとして、その言葉をのどの奥に呑みこんでしまった。
何も俊一郎にいわれるまでもなく、渋谷を必要とすることは分りきっている。協電のためというよりは彼ら自身の保全のために必要なのである。
渋谷がいなければ俊一郎が自社株を売ってまで星電研を傘下におさめた意味がない。強電側は俊一郎が社長の座にありながら、自社株を操作したことを察知していても、勝てば官軍の結果論で、現実に星電研を系列化して破竹の勢いで進む弱電に沈黙している。が、もし、系列化の主眼目である渋谷が、利用価値を喪えば、それを絶好の足がかりにして�大反攻�に転じてくることは火を見るよりも明らかであった。
三日前、東京の岩村から渋谷遭難の報をうけてより、進のすべての時間とエネルギーは渋谷の生命を取りとめることに費されたといってよかった。
秩父から特別にチャーターしたヘリコプターで重態の渋谷を大阪に運び、H大病院の特別個室に収容して、協電の金とH大の医術のすべてが注ぎこまれたおかげで、一時は危うかった彼の生命は取りとめられた。
しかし、協電や花岡が欲しいものは渋谷の生命ではなかった。生命の包含する彼の頭脳が欲しかったのである。
頭脳の伴わない彼の生命など、そこにもここにも転がっている安サラリーマン一人にも値しない。
どうにか危機を脱した渋谷が、生まれもつかぬ痴呆になってしまっては元も子もないのである。
まして彼の頭脳に己らの生命のかかっている俊一郎や進にしてみれば、その頭脳をよみがえらすことがそのまま、自分達の生きる道につながっているのだ。
進は協電家電事業部長という重責の職務を放擲《ほうてき》してH大病院へ通いつめた。
中の島の西はずれにある広大なH大病院の最新特別病棟、888号室、これが渋谷の収容されている病室であった。
完全冷暖房、バス・トイレ、オールカーペット、バルコニーまでが付設され、専属看護婦が常|添《てん》している。一日の入院費が七万円という、豪華ホテル顔負けのデラックス個室である。
全室個室のみによって構成され、一日の入院費が最低でも三万円というこの特別病棟の中でも最高の部類の病室であった。
「今日の具合は?」
付き添い看護婦に花岡はいつもと同じような問をかけた。
「ただ今、お目覚めになったところです。食欲だけが相変らず旺盛ですわ」
看護婦は首を振りながら苦笑した。
進はベッドのそばへ歩み寄った。
「どうだ? 渋谷」
ベッドに横たわった渋谷は進に話しかけられても全く反応を示さない。口角に涎《よだれ》を流しながら、焦点の定まらない眼を宙に投げている。
「渋谷!」
進は声に力をこめた。情けない姿だ。冷たい光沢をたたえてピンと張りつめた、日本のエジソンの目は何処へ行ってしまったのだ!
「あわわ、めしはまだか?」
「さっき、お昼を召上ったばかりじゃありませんか?」
「俺は朝から何も食べていないぞ、俺をひぼしにする気なんだろ。何かおくれよ、腹がへったよお」
渋谷は唇からだらだら涎を流しながら看護婦にせがんだ。まるで幼児が母親におやつをねだっている図である。これを強電側やライバル社に見せたら踊り上がって喜ぶだろう。
「記憶力が極端に低下しておりますわ。二時間ほど前にお昼を食べたことを、もう忘れてしまっているのです」
看護婦が進へ言った。
「今日はね、楽しかったなあ。このお姉さんと一緒に町へ行って、映画を見たり、うな丼やビフテキを鱈腹食べたんだ」
渋谷はまた、おかしなことを言い出した。
「これを作話症と言います。健忘をまぎらすために、単なる思いつきをでたらめ言ってその場をとりつくろおうとしているのですわ。間もなく院長回診がはじまりますから、先生から詳しくご説明があると思います」
看護婦は突然、渋谷のデートの相手方にされて苦笑した。
 間もなく回診が始まった。特別病棟は院長の保科博士が直々に診て回る。インターンや看護婦を大名行列のように従えて保科博士は廻って来た。
「はは、また、やってますな」
保科博士は渋谷の作話を聞いて磊落《らいらく》に笑った。
「一体、これはどういうことなのですか?」
「ああ、まだ説明してなかったですかな」
保科博士は進の方へ向き直った。
「はい、若い先生から簡単な説明を聞いただけで」
「渋谷さんの場合、意識の変化はほとんどないのですが、記憶力に著しい障害があります。食事をしても忘れてしまう。年月日を教えても一分も覚えていない。中央診療室まで何度も往復したことがあるのに、その道順を覚えない。渋谷さんは全く現在という一時点において平面的生活を営んでいるだけであって、過去も未来もありません。
この作話症も記憶が悪いために、時間及び空間に対する見当識が喪われ、その空虚を補うために空想的な嘘を言っているのです。我々はこれをコルサコフ症状群と呼んでおります」
「やはり、家族を喪ったショックからでしょうか?」
「そうともかぎりません。この症状は老人性痴呆や、酒毒性精神病などからも生じますが、渋谷さんの場合は遭難の際に受けた脳外傷によるものと思われています。とすれば……」
「とすれば何ですか?」
進は思わず唾を呑みこんだ。
初めて渋谷の精神異常を告げた医師はそんなことは言わなかった。
「とすれば、この症状は一過性に現われることもあります」
「一過性に!」
みるみる、進の瞳が輝いた。
「脳血腫は開頭手術により除去してあります。専門的な説明は省きますが、遺伝などによる内因性のものがなければ、患者の症状は一過性のものと考えています」
(助かった!)
進は長い息を吐いた。安堵の吐息である。
もし、渋谷の錯乱状態が保科博士の言う如く一過性のものであれば、自分の社会的生命も安泰である。しかも、それを言う保科は世界でも有数の脳外科の権威であった。
彼はしずしずと立ち去って行く�大名行列�を土下座して伏し拝みたかった。
 しかし、保科博士の言葉にもかかわらず、渋谷の症状はいっこうにはかばかしくならなかった。むしろ、ますます悪化してきたといってもよい。
最近では作話症がますますひどくなり、相手の見境いもなく卑猥な言葉を口走るようになった。ぼんやり何もせず、一日中坐っていることがあるかと思うと、人前もなく泣き出したり、わめいたりする。いわゆる感情失禁が見られるようになった。
所有欲や、独占欲が強まり、見舞い客が置いていった見舞品を後生大事にしまいこみ、食物などは腐らせてしまうことが多くなった。
一度、看護婦が強制的にロッカーを調べたところ、見舞品に混って、ボタンや糸屑、また、どこから取って来たのか、女性用下着などがしまいこまれてあった。
「これはいけない」
進は暗然として頭をかかえこんだ。事故からそろそろ二ヵ月にもなろうとしているのに、渋谷の症状はますます悪化の一途を辿っている様子である。
その間、H大が現代医学の粋を尽くして治療にあたっている。さすがの保科博士もいささか、さじを投げ気味であった。
「おい、渋谷は相変らずの調子か?」
俊一郎は進の顔を見る都度、焦燥の色を露骨にあらわして聞いた。
「渋谷の異常はそういつまでも隠しおおせないぞ。強電の中にはうすうす感づいた奴もいるらしい。近いうちに病院を変えた方がいいんじゃないのか?」
その日も俊一郎は進の顔を見るなり、責めるように言った。
「私もそれを考えております」
「MLT—3の発売日は十二月二十日に決定した。それまでに何とか回復できないか?」
「今の様子ではとうてい、無理と思われます」
「医者は何と言っておる?」
「火傷と脳外傷はもう危険期を脱していますが、遭難時のショックがよほど大きかったらしく、それがいまだに精神に影響を及ぼしているらしいとのことです」
「大阪ロイヤルホテルでのMLT—3の発売記念パーティには、是が非でも、彼に出てもらわなければならん。たとえ、頭はおかしくても、一時的に第三者にそれと分らぬように仕立て上げられないか?」
——今の状態ではとうてい無理ということは分っていたが、進は結局、そのような形をとってもその場しのぎをせざるを得ない破目になるだろうと悲しく悟った。
MLT—3の発売日には、是非とも、その生みの親、日本のエジソンの元気な姿を大衆の前に見せなければならなかった。
万、止むを得ない場合は、そうせざるを得ないだろうことは分り切っていたが、花岡進は大阪ロイヤルホテル大宴会場を埋めつくした、無数の代理店や招待客の眼前で突然、けたけたと狂気の笑いを撒き散らす渋谷夏雄の姿を彷彿させて慄然とするのであった。
しかし、そんなことをさせてはならない。
十二月二十日までには是が非でも癒さなければならない。
しかし、今の状態では? 現代医学の粋を尽くしても回復できないものを、医学のいの字の心得もない自分がどうして癒すことができよう?
結局はでく[#「でく」に傍点]のような渋谷につきっきりで記念パーティを乗り切る以外にないように思えた。だが、その後は? 渋谷の異常は水の洩れるように社の内外へ洩れるだろう。H大側には堅い箝口令《かんこうれい》をしいてあるが、そういつまでも続くものではない。
遭難以来、一度も姿を見せぬ渋谷に、強電側では不審を抱き始めた者が多いのである。
「どうですか、その後の渋谷さんの容態は?」
「いやあ、おかげで大したこともなく、発売日には元気な姿を見せるでしょう」
強電部や、社外の者のさぐりにきわめて無雑作に答えながらも、進は脂汗をじっとりとかいているのであった。
「社長」
進は思い定めたように俊一郎を呼んだ。
「何だ、改まって?」
「実は現在の状態では、発売日まで回復する可能性は全くありません」
「そんなに悪いか?」
「最悪です」
強電側の目をはばかって、俊一郎はかまえて、渋谷に近づかなかった。保科からの報告によれば彼の精神障害は一時的なもののはずであったが、どうやら、現実の容態とは大きな差がありそうである。
「発売日に一般客の目はごまかせても、強電の目は欺けません。彼らは事故の日以来、姿を見せぬ渋谷に大きな疑惑を抱いております」
「それで?」
俊一郎は大きな目をぎょろりと剥いて話の先をうながした。
「渋谷がでく[#「でく」に傍点]人形だということが分れば、強電の連中は星電研買収時の自社株売買にかみついてくるに相違ありません。その前に少しでも奴らにかみつかれる材料を少なくしておくべきではないでしょうか?」
「……?」
「つまり、星川副社長をはじめ、旧星電研の横すべり組を全部整理してしまうのです」
「そ、それは」
「まあ、お聞き下さい」
進はまるで人が変ったように話をつづけた。いつもの俊一郎と進の立場が逆になった形であった。
「発売日の前に渋谷の心証を害してはまずいとおっしゃりたいのでしょう。しかし、今の渋谷に心証なんてありません。心を喪った痴呆です。当分の間、回復の見込みもありません。いや、よしんば回復したとしても、強電にかみつかれた後では何にもならないのです。何故ならその時には我々の地位はないでしょうから。
渋谷が利用価値を喪えば、渋谷の余光で命を永らえている、しかも高禄を喰んでのうのうと生き残っている旧星電研の横すべり組などごみ[#「ごみ」に傍点]です。彼らの給与だけでも協電は毎月三百万円近い金を喪っている。これは強電側の絶好の言いがかりとなるでしょう。渋谷が半永久的痴呆化した現在、少なくとも、衆目にその姿を晒す発売日までに回復の見込みがたたないかぎりは、少しでも我々の防禦を固めておくべきではないでしょうか? ただし、渋谷そのものはどんなに痴呆化してもまだ当分の間は利用価値があります。協電に渋谷ありということはやはり大きなメリットですからね」
花岡進は品物を片付けるように無雑作に言った。確かに彼の言う通りである。俊一郎はいつの間にか自分の後継者としてのほとんどすべての条件を備えてしまった進に、逆境の中に一つの光明を見出したおもいであった。
「星川らを馘にするのはたやすいが、馘にした後、発売日の前に渋谷が回復したら困ったことになるだろうな」
さすがに俊一郎は冷静であった。星川を優遇したればこそ、渋谷は星電研と変らぬ忠勤を協電に捧げたのである。
もし、発売日前、彼が常態に復して星川社長らの追放を知ったならば、どんな態度で発売記念パーティに臨むか明らかであった。かといって、このままで行けばますます強電側に乗ずる隙を与えることになる。
いずれにせよ、星川馘首は危険な両刃の剣である。
しかし、進は俊一郎の逡巡を一言にして解決した。
「発売日の前日に切ればいいではありませんか」
「よし、決まった。お前はそれまでに渋谷回復に全力を尽くせ。金はいくらかかってもかまわん」
俊一郎はきっぱりと言った。
星川を切るまでに渋谷回復に全力を尽くす。その期間が長ければ長いほど、可能性は高くなる。しかし前日に至ってもなお回復しない場合は星川らを切る。たった一日の間に渋谷が回復する可能性はほとんどない。また、よしんば、回復したにせよ、一日くらいのことならば渋谷に知らせずにすませる。第一、その時は星川一族の馘首を取り消してもいいではないか。
渋谷の痴呆を見破った強電側は、発売パーティ後徹底的にかみついてくるであろう。
ライバル事業部とはいえ、同一社のことだ。まさか、発売パーティの席上でかみつくような真似はしないだろう。
嵐はパーティの後にくる。しかし、その時は星川らを切り捨てた後だ。たかが渋谷一人のために、無用の人間を大勢、抱えこんだとは思わせない。解雇月日はいくらでも粉飾がきく。系列化に巨額の金を注ぎこんでも社金を流用したわけではない。攻撃点は専ら自社株売買にかかる。それさえ何とか言い逃れれば、当分の地位は安泰である。
俊一郎と進は互いの腹を読みながら、以心伝心の作戦をたてたのである。
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