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大都会26

时间: 2020-04-13    进入日语论坛
核心提示:安曇野《あずみの》列車が塩尻峠のトンネルを越えると、一気に展望が展《ひら》いた。トンネルと切り通しの単調なくりかえしの中
(单词翻译:双击或拖选)
安曇野《あずみの》

列車が塩尻峠のトンネルを越えると、一気に展望が展《ひら》いた。トンネルと切り通しの単調なくりかえしの中を長い間登りつめて来た旅客は、突然、眼前に展けた錯覚のような展望に歓声をあげる者さえいた。
蒼すぎて暗い空に雪を戴いた中部山岳国立公園の連峰が銀鎖のように流れ、山麓を青霞の平原に薄みどりの夢のように溶かしている。
山にさして興味のない者もしばらくは車窓に釘付けにされる展望であった。
彼らの乗る長野行急行『第一信濃』は速力を増して、その平原—『安曇野《あずみの》』へ向かって下り始めていた。
「渋谷、わかるか? あれが穂高、あれが槍だ。ほら、常念のピラミッドも見える」
花岡は一々指呼しながら、渋谷の目をじっと見守った。
「あわわ」
渋谷はおとくいの奇妙な音声を発すると、それでも花岡の指の先に視線をやった。
(思い出してくれるか?)
彼は祈るように渋谷を見た。
発売日まであと数日、一向に回復の萌しを見せない渋谷に半ば、諦めかけた進に、ふと閃めいた考えがあった。
遠い青春の日、渋谷、岩村、花岡の三人で胸を熱くして放浪《さすら》った旧き山々を訪れてみれば、渋谷の喪われた記憶に囁きかける何物かが、よみがえるかもしれない。人間は自分にとって最も楽しい時期を忘れるものではない。一見、忘れたように見えても、心の襞の奥深く郷愁となってしまわれている。
自分にとっても、喰うか喰われるかの酷しい現在においてもあの旧き山々の日々が久遠の郷愁となって生き続けているように、渋谷の狂った脳髄のどこかにも必ず、共に分かち合った青春の断片は生き残っているにちがいない。それを引張り出すのだ。
俺達の青春の形見こそ、渋谷をよみがえらすよすがとなるかもしれない。——そんなはかない希望を抱いて、この旅に出た。
「渋谷わかるか? この道はずい分通ったものだぞ。今日はまた、よく晴れて山がよく見える。どうだ、思い出したか?」
進は幼児の記憶をゆり起こすようにゆっくりと語りかけた。
「山だね」
「そうだ、山だ」
進の目が輝いた。渋谷は�山�と言ったのだ。
「きれいだね」
「新雪が来たばかりなんだ。今年は雪が遅い」
「何か甘い菓子が欲しいな」
「え?」
「砂糖菓子が欲しいよ」
みるみる進の顔が失望に曇った。何のことはない、雪を塗《まぶ》した山体が渋谷には砂糖を塗したケーキを連想させたのである。
「菓子よりも何か他に思い出すことはないか?」
進は諦め切れなかった。
「まだ、弁当を喰っていなかった」
「渋谷!」
弁当は木曾福島で買って与えたばかりだ。渋谷はそれを驚くべき速さでしかも、二個も平げてから、まだ三十分たつか、たたないかである。
「ねえ、弁当、買ってくれよお、朝から何も食べていないんだぞ」
渋谷が痴呆化していることを知らない周囲の旅客の中でくすくす笑う者もいた。彼がつい三十分ほど前に二個の汽車弁を平げたのをおぼえていたからである。
進は腹立たしさを覚えるよりも情けなくなった。この痴呆化した男のどこに、かつて日本のエジソンといわれた天稟の才があったのか? 憧憬に胸を熱くして天に近い径を共に登りつめた、以前の山仲間の羚羊《かもしか》のような姿は何処へ行ってしまったのか?
急に周囲の旅客がざわめき始めた。第一信濃は松本に近づいたのである。
 松本で大糸線に乗りかえる。重装備の連中が鋲靴の音も重々しく跨線橋を渡って行く。花岡や渋谷も何度、同じように�武装�して、胸を躍らせながらこの橋を渡ったことだろう。
今、花岡進は狂える渋谷に付き添って、スーツケース一つ持っただけの軽装でその橋を渡っている。
幾多のアルピニストの夢と想い出が沁みついているようなこの跨線橋を、よもや、このような形で渡ることがあろうとは、数年前に思ってもみなかった。
列車が信濃大町に近づくにつれて、旧い山々の展望はますます、広がってきた。安曇野の果に屏風のように立ちふさがる白馬、五竜、鹿島槍の後立山連峰は、前山の遮蔽を完全に振り切って、眉を圧するばかりに近々と車窓に迫ってきた。碧瑠璃の空を限る稜線には、新雪が巨大な銀の鞍のようにおかれ、スゲ類のくすんだ橙黄色に被われた山体に最後の微かな紅葉が花火のように映える。
「来たな」
たとえ、山登りのために訪れたのではなくとも、自分の青春の想い出がいたる所に象眼のように鏤《ちりば》められている場所に還って来て、花岡は軽い興奮を覚えないわけにはいかなかった。
大町駅前広場からは見覚えのある針ノ木が素晴しい迫力で見る者の目に迫る。猫も杓子もアルプスといわれるほどの、この十年間の登山人口の激増ぶりも、季節外れに訪れてみれば、花岡らの知る旧き良き山々と何ら変るところがなかった。
駅前から車を拾い、木崎湖の西にある丘陵地帯に向かった。ここは後立山の雄峰群を一望にする絶好の展望台である。丘陵の頂き近くまで車が入る。
丘陵に着いたときは傾くに早い初冬の陽が稜線にかかっていた。
「渋谷、着いたぞ」
花岡は渋谷の身体をゆすった。彼は何と眠っていたのである。
車が帰ると、耳を圧するような静寂が落ちた。沈み行く斜光を受けて、枯れたススキの草原が金色に光った。稜線から吹きおろす風がそれをはろばろと吹き分けていく。
「渋谷、帰って来たんだぞ」
花岡の言葉に渋谷は虚な瞳を上げた。その瞳に落日が映って、一瞬きらめいたように見えた。
「わかるか?」
渋谷の瞳に落日が燃えている。両眼に一つずつ赫《あか》い陽を宿して渋谷はうっそりと立ち続けていた。
ややあって、
「寒いな」
とただ一言つぶやいた。
周囲には二人以外に人影はなかった。この世の中から忘れ去られたような静かな一角であった。
夕陽が稜線に近づいた。逆光の巨大なシルエットとなった後立山連峰の、正に陽を呑みこもうとする稜線のあたりが血の色のように滲んだ。
雲一つない研ぎ澄まされた空は、夕映えるよりはむしろ、蒼氷のような硬い青みを帯びてきた。
  ソレハハルカナ日
読ミ捨テラレタ物語リカ
密度ノ濃イ青春ヲ
忘レジノ記憶ニ刻ミツケテ
名モナキ山里ノ夕マグレ
旧キ山仲間ハ別レテ行ッタ。
蒼白キ通夜ノヨウナ
都会ノ営ミヲ生キルタメニ。——
 花岡が口吟《くちずさ》んだ。かつての日、彼らが好んで口吟んだ「旧き山仲間の唄」の一節だった。別に何という意味もこめられていない、単純な青春の感傷を歌ったにすぎない詩だったが、彼らはそれが好きだった。
弱肉強食の世界を他人《ひと》を陥れることによって生きのびている今日の花岡にしても、この詩は、唇に何気なくよみがえることがあった。むしろ、そのような日々を送っているからこそ、一個の柔かい救いとして忘れられないのかもしれない。
その詩を渋谷が忘れるはずがない。今の花岡は自分の救いのためではなく、渋谷をよみがえらすために口吟んだのである。
日本のエジソンは死んでもよい。旧き山仲間よ、よみがえれ! その瞬間の花岡の心にはそんな純な願いがこめられていた。
「あは、あったかいぞ!」
突然、けたたましい笑声が周囲の静寂を破った。
「あたれ、あたれ、みんな来てあたれ、焚火だ焚火だ、あたろうよ」
後の方の言葉は節をつけて歌っている。
見れば、渋谷は草原の中央に何物かを積み重ねて燃やしている。花岡は火の周囲《まわり》を土人のように踊り廻る渋谷の異様な風体に愕然とした。
彼は自らの服を脱いでそれを燃料としていた。花岡が気づいた時はすでにズボンも�焚火に�くべられていた。
「渋谷、よせ!」
暗然として馳け寄った花岡が、制止しなかったならば、渋谷は下着や、パンツも火の中へ投げ込むところであった。
——だめだ——
花岡は全身の力が脱けていくのを感じた。渋谷夏雄は永久に死んだ。ここにいるのは彼の形骸《むくろ》にすぎない。思考も判断も知力も、そして青春の記憶すら喪った単に人間の形をしただけのでく[#「でく」に傍点]にすぎない。
自身が宝物のように慈んでいる青春の追憶に訴えれば、或いはよみがえらすことができるかもしれないと思ったのは、文字通り、青春への甘えであった。
渋谷は諦めよう。これ以上の努力はもはや時間と労力の浪費になるだけだ。
花岡は暗い眼で渋谷の衣服から周囲の枯れ草に燃え広がりつつある炎に見入っていた。折りから落日を呑んだ稜線から、茜色の余光が金線のように天心を放射していた。
 星川副社長はじめ、旧星電研幹部が一斉に解雇予告をうけたのはその翌日、即ち、発売日の二日前であった。
「渋谷は大丈夫なのだろうな?」
盛川達之介は心配そうに念を押した。
「誓って」
答えたのは岩村である。例の如く菱井電業の社長室である。壁の電気時計はすでに八時を廻っている。さしも、広大な菱電ビルにもこの時間に居残っている人間は少ない。まして、昼でも静かな社長室の一角はオフィスアワーを過ぎると、廃墟のような感じさえ受ける。
「明日はいよいよ協電のMLT—3の発売日だ、気になるな」
「社長、おまかせ下さい。渋谷を廃人にしたのはこの私です。アマメクボ以来ずっと目をつけております。協電ではMLT—3の発売にどうしても渋谷が必要なので、彼の治療にベストを尽くしました。しかし、だめだったのです。私の部下が昨日、渋谷と花岡を信濃大町まで尾けて確かめて参りました」
「昨日?」
「はい、渋谷からは片時も目を離しておりません。もし、昨日以後、回復するようであればすぐ手は打てるようになっています」
「どんな手だ?」
「それはそうなってからのお楽しみにしておきましょう」
「頼むぞ、協電と渋谷が結びつけば、絶対に太刀打ちできない。何としても彼らの仲を割くのだ」
「渋谷が生き残り、痴呆化してくれたのは、むしろもっけの幸いでした。おそらく、協電側は渋谷を正常らしく糊塗《こと》して、発売パーティを何とか乗り切ろうとするにちがいありません。
しかし、そうはさせない。買収した業界新聞や、もぐりこませた私の部下が、渋谷の正体をひん剥いてやる。協電の誇る日本のエジソンがバカであるということが知れ渡ったらどんなことになるか、こいつは面白い見物《みもの》になりますよ」
「お前も行くか?」
「今夜、JAL—129便で大阪へ飛びます。顔を知られているのでパーティには出られませんが、ロイヤルホテルに泊まりこんで�破壊工作《オペレーシヨン》�の直接指揮をとります」
「よし、思う存分やってこい。ただし、警察沙汰にはならぬようにな」
「かしこまりました」
岩村元信は深く一礼すると、社長室を出た。盛川達之介の期待を寄せた視線を背中に感じながら、一歩、ピラミッドの頂へ向かって登りつめている興奮の中に、これから行なおうとする友の破滅工作の陰惨さを忘れてしまった。
もちろん、そんな彼は、社長室の扉を閉じると同時に、盛川達之介がこぼした冷たい笑みを、知る由もなかった。
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