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死体検死医07

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:7 ベロ毒素平成八年五月、わが国にも病原性大腸菌O‐157による食中毒が流行し、社会問題になった。何も今に始まったことで
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7 ベロ毒素

平成八年五月、わが国にも病原性大腸菌O‐157による食中毒が流行し、社会問題になった。何も今に始まったことではない。一九八二年アメリカオレゴン州で起きた、ハンバーガーによる集団食中毒事件が発端である。
以来、治療を中心に予防対策などが研究されてきたが、未《いま》だ十分な効果をあげるまでには至っていない。それどころか、世界各地に拡がりはじめている。これまで日本にも、散発的に発生はしていたが、あまり問題にはならなかった。
O‐157は腸内に生息し、菌そのものが人体に害を及ぼすというよりは、菌の中にあるベロ毒素が、大腸の壁を破って血管の中に入り、腎《じん》臓《ぞう》や脳の細胞を攻撃する。とくに抵抗力の弱い幼児や老齢者などに猛威をふるうようである。
菌は熱に弱く、経口感染なので食品は高熱滅菌処理すれば、安全である。
体内に侵入した菌は、四〜八日間の潜伏期があり腹痛、水溶性下痢から出血性下痢(血便)を起こす。潜伏期間が長いので、感染源がわかりにくくなる。重症になると、ベロ毒素の作用により、急性腎不全の症状を引き起こし、血尿、タンパク尿、尿量の減少などが現れ、また血液中の血小板の減少、赤血球の破壊がひどくなり、貧血が生じてくる。この状態を溶血性尿毒症症候群といっている。
同時に脳障害を生じ傾眠、幻覚、痙《けい》攣《れん》などを起こして死亡することもある。
治療には抗生物質などの投与がある。これはO‐157の繁殖をおさえ、死滅させることができるが、死滅した菌からやっかいなベロ毒素が出て、血中に入り人体に危害を及ぼす。だから、菌が少ない発病の初期には抗生物質は有効であるが、菌が一定以上に増殖した中期以降は、むしろ投与しないほうが望ましいといわれている。
現在は血液交換、輸血、血小板輸血、人工透析など対症療法が主で、ベロ毒素を抑制するような方法は確立されていない。したがって今後の治療としては、O‐157を死滅させると同時に、毒蛇にかまれたとき血清療法が有効であるように、ベロ毒素を取り除くか中和するような療法が期待される。
一方疫学的にO‐157の感染源を調査すると、菌は動物などの腸内に生息し、その糞《ふん》などに汚染された水などを使用すれば、多くの人々に感染は拡散していく。
具体的には日本で流行した地域を調査すると、小学校での集団発生が多いようなので、給食が原因と考えられ、その先を追跡したが源を突き止めることはできなかった。
疾病は源を絶つことが先決なのだが、それができない。あたかも殺された人がいて、犯人もわかっているのに、捕まえることができない事件に、よく似ている。
 善福寺川の浅瀬にうつぶせの女性死体が発見された。昭和三十四年三月十日、午前七時四十分のことである。
あとでわかったのだが、これが当時世間を騒がせたスチュワーデス殺害事件の幕開けであった。
善福寺川は、東京の西北に位置する善福寺池の湧《わ》き水が、杉並区を横断するように流れ、やがて神田川に合流する小川である。
当時は今と違い、川沿いには田畑や空地が広がり、樹《き》々《ぎ》の緑も多かった。
監察医の検死がはじまったのは、死体発見から七時間も過ぎた、その日の午後である。
身元はわからず、眼《がん》瞼《けん》結膜下に溢《いつ》血《けつ》点《てん》(点状出血)があり溺《でき》死《し》の疑いがもたれたが、入水自殺なのか過失事故か、他殺なのか、状況についての捜査は進んでいなかった。
とりあえず監察医務院で、行政解剖することになった。
当時私は、大学の法医学教室で溺死の研究に没頭していた。
溺死の診断は、解剖して肝臓や腎臓の中から、水中微生物であるプランクトンを検出することであった。
溺《おぼ》れて水をのみ、肺にまで大量の水を吸って沈み、呼吸ができず窒息死するのが溺死である。コップ二〜三杯の水が肺に入っても、大人であれば肺の毛細血管は、その水を吸収してしまうから、窒息死するようなことはない。
水の中にはプランクトンがいるので、微小なプランクトンは水と一緒に血液中に吸収され、全身を循環する。そのときプランクトンは、肝臓や腎臓などの臓器の毛細血管にひっかかる。そのうちに、からだは呼吸ができず、酸素欠乏から窒息死(溺死)する。
したがって、解剖して臓器中からプランクトンを検出できれば、溺死と診断することができる。
もしも死後、水中に死体を投棄した場合は、肺に水が流入しても、死亡しているからプランクトンは吸収されないし、肝臓や腎臓などにプランクトンが入り込むはずはない。
溺死か否かは、臓器中のプランクトン検出の有無にかかっている。
その日の夕方、監察医をしている先輩から電話が入った。
明日溺死体の解剖があるので、プランクトンの検査をしてほしいというのであった。
早速研究室の片隅に器具などを揃《そろ》え、待機した。
ところが翌日、再び先輩から電話があり、予定の解剖は監察医務院で行う行政解剖ではなく、検事の指揮下で犯罪を前提とした司法解剖に切りかわり、ある大学で行うことになったので、悪しからずというのであった。
がっかりした。
研究室は動物実験が主であり、人体の検査は少なかったから、どうしてもやってみたかった。電話の向こうで、先輩は私の気持ちを察してか、
「いや、ごめん。スチュワーデスなんだよ」
「えっ!! なんですか。それ」
私は問い返した。
二十七歳のスチュワーデスで、現場は深さ二〇〜三〇センチの小川だから、自殺するような場所ではないらしい。容姿端麗、良家の子女で才《さい》媛《えん》でなければスチュワーデスにはなれない。若い女性のあこがれの職業であったから、これが変死体で発見されただけでも、大変なニュースである。
さらに彼女のストッキングの底が破れており、靴なしでかなりの距離を歩いたものと思われ、事件に巻き込まれた可能性が高いという。
司法解剖の手続きがとられたのは、そのためであった。
 解剖時に肝臓や腎臓をクルミ大ぐらいに切り出して、フラスコに入れる。これに濃硫酸などを入れ処理すると臓器や動物性プランクトンは溶解するが、植物性プランクトンの珪《けい》藻《そう》類《るい》だけは、珪酸という丈夫な殻でできているので、溶解しないで残存する。これを顕微鏡下で見ると、ちょうど雪の結晶のような模様が見える。これが珪藻類であり、壊機法という検査方法である。
理屈は簡単だが、時間はかかるし無菌的に行うのと同じように、無プランクトン的に行わなければならない。なぜならば、珪藻類の残《ざん》骸《がい》は水の中ばかりでなく、陸地にもたくさん分散しているからである。
嵐《あらし》の波しぶきで陸地に無数のプランクトンが打ち上げられるし、魚介類はプランクトンの塊《かたまり》であるから、食卓を通じて生活の場にばらまかれている。またビルを建てるにしても、川原の砂利や砂が使われる。これらの中には無数の珪藻類の残骸や破片が存在する。乾燥して風とともに舞い上がり、研究室内にも眼に見えない珪藻類のかけらが浮遊している。検査中に、まぎれ込めばデータはくるってしまう。
警察の捜査は、進展していた。
死因は絞殺で、溺死ではなかった。
何者かに殺害され、川に捨てられたのである。
彼女はクリスチャンで、ベルギー人の神父と親しい関係にあり、死体発見の前夜から早朝にかけ二人は密会していることが判明した。
警察は重要参考人として、事情聴取のため神父の所属する修道院に出向いたが、面会を拒絶されてしまった。
彼女の足取りや身辺捜査から、彼以外に疑わしき人物は出て来なかった。警察は何度か面会を求め、やっとのことで事情聴取にこぎつけたが、無関係を主張するだけでそれ以上の厳しい追及はできなかった。
それから三か月後、体調が悪いことを理由に疑惑を残したまま、神父は突然帰国してしまった。無論、警察には無通知であった。
日本の警察の追及もそこまでである。
そんな馬鹿な!! 人命が失われているのである。犯人か否かは別としても、警察の疑問は、われわれ日本人の疑問でもある。誠意をもって対応してもらいたい。
そう思うのだが、法律や国際上の壁にはばまれて、それを乗り越えることはできなかったのである。
二度とこんなことがあってはならない。
ベロ毒素を残したまま、源を追求し得ないO‐157にも似たいやな事件の結末であった。
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