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死体検死医09

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:9 宇宙人解剖私は臨床の経験のないまま法医学を専攻し、東京都の監察医になった。変死者の検死、解剖をやりながら多くの事件に
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9 宇宙人解剖

私は臨床の経験のないまま法医学を専攻し、東京都の監察医になった。
変死者の検死、解剖をやりながら多くの事件にかかわってきた。その三十数年をふりかえれば、日本の犯罪史とともに歩んできたといっても過言ではない。
事件はひとつひとつが人生ドラマそのものなので、医学以外にも多くのものを学びとることができた。
 ある日、テレビ局から電話が入った。
今から四十八年前に撮影した解剖の記録映画がある。ご覧いただきコメントしてほしいとのことであった。おおよそその内容はと聞き返したが、説明して先入観を持たれるよりも、いきなりご覧いただき感想を頂戴したほうがベターだからと、一方的に約束させられてしまった。
大学で専門分野の法医学の講義をするときでも、前もって綿密に講義内容を構成し、参考資料、文献などを用意して教壇にのぼるのがあたり前なのだが、準備なしのいきなり本番では、十分なコメントはできないと思っている私に、テレビ局はいったい何を求めようとしているのだろうか。
約束の日、五名のスタッフがカメラなどの器材をかかえて、私の家にやって来た。
これからご覧いただくビデオテープは、昭和二十二年にアメリカで撮影された、解剖記録です。先生がご覧になっているところから、撮影させていただきます。
ビデオが回りはじめた。ナレーションも音楽もない。白黒の絵が流れ出した。
解剖台に全裸の遺体が置かれている。大人の体形であるが、執刀医に比べると子供のような身長である。頭部がその他の部分に比べてやや大きく、しかも頭毛がない。乳房、外陰部がボヤケた映像なので性別もわからない。さらに手足の指は、数えて見ると六本あり、バランスがよいので奇形には見えない。
「人間なの?」
思わず私はスタッフに質問した。
「宇宙人らしいのです」
「えっ!!」
私は絶句した。
ディレクターは、ここではじめて真相を打ちあけたのである。
私の驚きの表情がカメラに収められた。スタッフは満足げに、私を撮り続けている。
宇宙人の存在など考えたこともなかった。私の知る宇宙には無限の星があり、その星は鉱物ばかりで生物はいない。それなのに、この地球上に他の惑星から宇宙人が飛んできたというので、まさかと思ったが、目の前に映し出された宇宙人の死体には、ただ驚くばかりであった。
私は人間の死体を相手に仕事をやってきた。遺体の死亡前後の状況は、まるでわからないから、なぜ死亡したのかを丹念に検死、解剖をしながら究明することに専念してきた。そして、ものいわぬ死者の人権を擁護してきたのである。あくまでも、それは人間であった。
ところが目の前に映し出された映像は、人間の形態はしているがわれわれと同じではないようだ。
宇宙人なのか? そんなはずはない。
いったい、なにものなのか?
執刀医は頭に白い帽子をかぶり、口にはマスクという姿が、普通の解剖時のスタイルであるが、ここに映っている人達は頭からすっぽりと予防具をかぶり、目のところはガラス張りになって、潜水夫のような格好である。放射能を避けるためなのか、あるいは予想もしない細菌などを防御するためなのか、ものものしい出《いで》立《た》ちである。
遺体の右手側に執刀医、左手側に解剖助手がついて解剖がはじまった。
手術用のメスで胸から腹へと、からだの中央を縦に切開する。切開部からわずかに血液が流れ出た。
胸が開かれ心臓や肺らしきものが取り出されるが、なぜか映像はボケてはっきりしない。心臓なのか肺なのか。そして人間のものなのかどうかも、コメントできないほど映像は不鮮明である。そして遺体の右手側に立っていた執刀医は、いつの間にか画面から消え、左手側に立っている人物が解剖を続けている。解剖刀は手術用のメスより数倍大きいのだが、なぜか手術用の小さいメスを使用している。
さらに、宇宙人の解剖であれば、取り出した臓器はアップで丹念に撮影し、人類とどこがどのように違うのか、似ているのかを執刀医は比較説明するのが当然だろうと思われるのだが、そのような解説はまったくない。坦々と解剖はすすめられていく。もしかすると執刀医は医師ではないのかもしれない、と疑惑さえ覚えてくる。
腹部が開けられ肝臓や腸らしきものが取り出されていく。全体の感じでは人類とほぼ同じ構造のようなので、もしもこれが宇宙人だとすれば、地球と同じ環境の惑星がこの宇宙のどこかにあって、そこから飛んできたのかもしれない。それにしても私は、宇宙の知識に乏しい。
ディレクターの話によれば、昭和二十二年アメリカの原爆基地ニューメキシコ州ロズウェルという砂漠地帯にUFOが墜落した。第二次世界大戦が終わって間もない時期であったから、宇宙人が攻めてきたとアメリカ中は大騒ぎになった。
翌日、トルーマン大統領は、宇宙人ではなく観測気球が墜落しただけだから心配しないようにと、コメントを発表し国民は落ち着いたが、なぜか噂《うわさ》が潜行した。
それは、翌日基地の兵隊がおそるおそる墜落物体の中を覗《のぞ》くと、数名の宇宙人が死亡していた、というものだ。その中の一人を基地の軍医が密《ひそ》かに解剖した。当時これを解剖したドクターらは、すでにこの世にはなく、記録映画を撮影したカメラマンだけが、高齢ではあるがアメリカに生存しているという。そのフィルムがなぜか一九九五年七月、突然アメリカをはじめ、四十四か国で一斉に発表され、センセーションを巻き起こしたという。
日本ではフジテレビがフィルムを入手し、本当に宇宙人か否かを、先生にご検討をいただきたいというのである。同時にある有名な映画監督には、約五十年前の白黒フィルムによる記録映画として、矛盾はないかを検証していただいているというのである。
画面は頭部の解剖に移っていた。
解剖術式は人体のそれと同じ手順であり、かなり慣れた手さばきである。
頭《とう》蓋《がい》骨《こつ》が開けられると、脳の表面が見えてくるが、なぜか黒ずんだ状態になっている。どうも、クモ膜下出血を生じているようであった。白黒フィルムでは、出血で赤くなった部分は黒く映るので、はっきりとはいえないが出血のようである。
取り出した脳はくずれているので、頭部に強い外力が加わって脳がくずれ、外傷性のクモ膜下出血を生じているもののようであった。しかし、画像はぼんやりして正確な所見を見ることはできない。
そのうちに解剖の画面は突然終わって、機内の壊れた機械の破片と思われるものが映し出され、中には文字らしきものも見えるのだが、何なのかはわからない。
映像は二十分ぐらいで終わった。
不思議な世界を垣《かい》間《ま》見《み》た感じで、コメントを求められたが、驚きととまどいですぐにはまとめきれない。
人体に非常によく似ているが、これは人間だときめつける映像を指摘できる箇所がない。かといって宇宙人かといえば、これもまた同様に画面がボケていて確かな所見はつかめない。それでは、宇宙人らしき模型を人工的に作って撮影したかといわれると、メスを入れるとかすかに血が流れ出たりして、かなり精巧にできており、偽物とも考えにくい。
また右大《だい》腿《たい》部《ぶ》全面から下腿部にかけ皮膚、筋肉がえぐれ大腿骨、膝《しつ》関《かん》節《せつ》部が露出し、それらの部分は黒くこげている。その他の部位には損傷は見当たらない。この外傷は墜落外傷ではできないものと思われると、私はコメントした。ディレクターは、それではどのような外傷が考えられますかと質問してきた。
飛行機が墜落したとき、あるいは交通事故などの場合に生ずる外傷は、激突外傷だから打撲傷や骨折などが主で、筋肉がえぐれ黒くこげるような外傷は生じない。これは爆発外傷だと思います。大腿部、膝関節部で爆発物が炸《さく》裂《れつ》しなければ、このようにえぐれて黒くこげた外傷はできないだろうと説明した。
私の自宅での録画どりは、三時間くらいで終わった。
ディレクターは、これからいろいろな専門家にコメントをいただき、来年早々には二時間の特別番組で放送したい、その折りには、是非先生のご出演をお願いしますといい残して、スタッフと引きあげて行った。
 人の死にまつわるトラブルを、法医学的に観察してきた自分の狭い視野の中に、突然宇宙という得体のしれない魔物のような巨大なテーマが持ち込まれた。小さな地球という一つの惑星の中で生きている人類、その中の一人の人間が自分である。
地球にはさまざまな生物が生息している。とりあえず地球は人類が征服、支配しているが、いつまでこの状態が続くのかはわからない。他の生物も生存競争をして、われわれ人類にかわって地球の制覇をねらっているのかもしれない。
それが猛獣なのか、ゴキブリなのか知る由もない。かつて地球上には人類が誕生する以前から恐竜やマンモスなどが生息していたが、いつの間にか滅亡してしまった。
パキスタン南部のインダス川下流域にインダス文明の都市として栄えたモヘンジョダロの遺跡がある。公衆浴場、穀物倉庫、荷揚げ台のある城《じよう》塞《さい》や下水道など煉《れん》瓦《が》を使用し、計画的に整備された都市になっている。しかし、歴史の中で、あるとき忽《こつ》然《ぜん》とその文明は跡《と》絶《だ》えている。
原因はペストなどの伝染病の流行によって、短期間に住民が全滅したためであろうと考えられている。真偽のほどはわからぬが、ペストは十四世紀にヨーロッパで大流行し、人口の三分の一といわれる二千五百万人の命が失われたことを考えれば、納得のいく話でもある。
ネズミにつくノミを介してペストは人に感染するのだが、彼らは地球を制圧している人類を滅ぼし、自分達がそれにとってかわろうとしたのかもしれない。もしそうだとすれば、これはおもしろい。
ペストが人間を死に追いやって、勝利したとき、菌自身は征服者として君臨したのもつかの間、生存できる基地としての人体がなくなったのだから、自分自身も滅んでしまったのである。
エイズ・ウィルスも病原性大腸菌O‐157も同じ野望をもっているのかもしれない。
生きるものの生存競争は熾《し》烈《れつ》であるが、戦いに勝つだけではだめなのである。そこに征服者としての叡《えい》智《ち》がなければ、勝ち残れないのである。
間もなく、茶の間に向けて「宇宙人は解剖されていた」というショッキングなタイトルのもとに、テレビ放送された。
解剖時の映像がそのまま流され、高視聴率が得られたようであった。
嘘だ本当だと目くじらを立てて、議論することもないだろう。現代のおとぎばなしとして、とらえればよいのである。
それにしても、宇宙人は、何を目的に地球にやってきたのだろう。
攻撃のためか?
偵察に来たのか?
親善を目的にしているのか、それともどこかの惑星にいく途中、あやまって地球に不時着したのか。あるいは惑星の中で生存競争にやぶれ、地球に逃亡して来たのか。
いずれにせよ、その目的は判然としない。そしてなによりも、この宇宙人の話から彼らの叡智を感じとることができなかったのは、残念であった。
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