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死体検死医23

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:23 色風《シエクホン》われわれが一度は経験しなくてはなちない厳粛な儀式死というものが、ときとして悲しみの中におかしさを含
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23 色風《シエクホン》

われわれが一度は経験しなくてはなちない厳粛な儀式“死”というものが、ときとして悲しみの中におかしさを含んでやってくることがある。
ある会社の課長が、宴会を終えほろ酔い機嫌で帰宅した。風《ふ》呂《ろ》に入り就寝したのが午前零時少し前であった。それから小一時間経ったころ、突然大学生の娘と高校生の息子が母に起こされた。
「お父さんが!! 早く来て!!」
いつにない母のうろたえぶりに、子供達は眠さもすっとび、ただ困惑するばかりであった。
間もなく救急車が来た。近くの医師もかけつけ強心剤、人工呼吸を施したが間に合わなかった。どこといって悪いところもなく、医者にかかったこともない父が、突然死んでしまったのだ。驚きで涙も出ない。
母はそのときの様子を、寝ていたら急にウーンとうなり声を上げ、息絶えたと説明している。
このような元気な人の突然死は、原則として医師は死亡診断書を発行せず、警察へ変死届を出すことになっている。警察ではなぜ死に至ったかを調査する。
本当に病死なのか、それとも自殺や他殺の心配はないのかと、状況などを捜査すると同時に、変死体を専門に診《み》る監察医に検死を依頼する。いろいろな角度から調べが始まる。
会社では仕事が忙しいので疲労気味であったが、元気であったし、仕事上の行き詰まりもない。家庭も家のローンはあるにせよ、平穏な生活でトラブルなどもないらしい。
顔面はややうっ血し、眼《がん》瞼《けん》結膜下に溢《いつ》血《けつ》点《てん》が数個出現していた。ただ青酸カリのような猛毒を飲んで自殺をしても、飲まされて殺されたとしても、急死するような場合には、顔面のうっ血や眼瞼結膜下の溢血点が出現する。また病的発作の急死でも、呼吸困難から心停止になるので同様の症状は現れる。
したがって、外見から死因を特定することはできない。
死人に口なしだから、亡くなられた人の人権を擁護する意味でも、どうしても生き残りの人々に事情を詳しく話してもらわなければならない。死亡前後に居合わせた妻は、真相を知っているはずである。しかし奥歯にものがはさまったような説明で、要領を得ない。警察は奥さんに疑いを持つ。
結局このケースは、いくつかの疑問を残したまま、死因を含め真相究明のために解剖することになった。
心《しん》筋《きん》梗《こう》塞《そく》と診断がつくのに、そう時間はかからない。他殺や自殺ではなかった。警察もほっとする。
解剖終了後、監察医は警察官立ち会いで、奥さん一人を呼んで心筋梗塞であることを告げた。すると、
「申し訳ありません。実は子供や親《しん》戚《せき》の手前、お調べのときはっきりお答えできなかったもので」
と性行為中の急死であることを、恥ずかしげに告白した。
予感は的中していた。私どもは経験していることなので、奥さんの様子から察しはついていた。
事柄の性質上、生き残った当事者は驚きと精神的ショックに加え、恥ずかしいから事実を話したがらない。調べる方は死に立ち会っていながら明確な説明がないので、かえってあやしむことになる。
これが一般家庭での、いわゆる腹上死の経過である。
あるいは、あわてた奥さんはパンツを裏返しや前後を逆にはかせていたりするから、検死のときにわかる場合もある。
ともかく、セックスをするような元気な人が、その行為中に突然死するのは、いかにも不思議な現象である。冷静に考えれば不審、不安のある死に方でもある。
それゆえに監察医制度のある都内では、すべて変死扱いになるから、このような実態を調査することは可能であった。
状況がはっきりしているケースを集めてみると、年間十件から二十件はある。
腹上死というとわれわれは、行為中に男が女の腹の上で死ぬようなことを想像する。文字がそう思わせているから仕方がないが、そうとばかり限ったことではない。行為が終わって睡眠中、突然心臓発作を起こして急死する例が非常に多く、医学上はこれも行為に誘発されたものとして、腹上死に入れている。
昔の資料をたどってみると、語源らしいものが見つかった。
世界最古の法医学書ともいわれる、中国の『洗《せん》冤《えん》録《ろく》』(一二四七年)に「作過死」という項目がある。
男子があまりにも行為が多すぎると、精気が失われて女子の身の上で死亡することがある。真偽を見分けることができる。行為中の急死は、陰茎が勃《ぼつ》起《き》しているが、偽りの場合は萎《い》縮《しゆく》しているとある。
この鑑別法は一見ありそうなことで、思わずふき出してしまうが、死んでなおかつ勃起していることはない。なぜならば、死ぬと神経は麻《ま》痺《ひ》するから、からだの緊張はゆるむ。勃起していた陰茎も例外ではない。また若い男は誰でも過《か》淫《いん》の傾向があるだろう。だからといって、そのために死亡するものはほとんどいない。自制心があれば死なずにすんだものをと、反省をうながすような表現になっているのがおもしろい。
間違いだらけではあるが、日本の鎌倉時代に無実の罪を洗うために『洗冤録』という法医学書を出版し、学問的形式を整えていた中国の文化は、高く評価される。
同じ中国でも、東北地方あたりでは「脱陽死《トンヤンスウ》」あるいは「上馬風《シヤンマーホン》」というそうである。やはり語源は、『洗冤録』からきているようだ。
ところが台湾では、「色風《シエクホン》」といいこれを「上馬風(行為中の急死)」と「下馬風(行為後の急死)」に分けている。色風とはまことに趣きのある表現である。そしてこれを上馬風と下馬風に分けるあたりは、心にくいほど事柄をよく理解し、適切な文字をあてている。これには驚きと優雅さを覚える。
腹上死という文字は、本来朝鮮半島の表現で、女子の身の上で死亡するという『洗冤録』に由来したものと思われ、朝鮮半島を経由していろいろな文化とともに、わが国にももたらされたものであろう。
英語ではcoition deathであり、ドイツ語ではCoitus todという。直訳すればいずれも、性交死ということになる。表現の仕方がきわめてストレートである。日本では朝鮮から入ってきたと思われる用語をそのままつかっているので、女性の身の上で急死するのが性交死とばかり思っているが、そうではなく上馬風と下馬風を含めて色風(性交死)と表現するのが、医学的に正しいのである。
だから女性が死んだりすると、よく腹下死などといって笑っているが、およそナンセンスなことである。
ラブホテルの場合などは大騒ぎになることが多い。
チェックアウトの時間が過ぎても帰らないので、掃除の都合もあって係が様子を見に行くと、ベッドの中で男が死んでいる。そういえば、女は夜中にそそくさとホテルを出て行った。事件だという事で捜査が開始される。最初のころは監察医も臨場したので、ラブホテルの実態をこの眼で見ることができた。なるほど一般家庭と異なり、色彩も照明もあでやかできわめて煽《せん》情《じよう》的《てき》であるから、気持ちは高揚し雰囲気は盛り上がる。
感心している場合ではない。解剖の結果脳出血とか虚血性心不全と判明して、行為中の病死ということで一件落着する。事件性がなく病死でも、男を介抱していては、警察に事情聴取されるので商売あがったりになるから、女は承知の上で逃げ出すのである。
これは冗談だが、恋人との場合、死んだふりをして、彼女が介抱する人間なのか、それとも逃げ出す人間なのかを見極めるのも、彼女の愛情を知る手ではないだろうか。
あるいは、男の姿がなく女が一人で死んでいる場合もある。このようなときは売春のケースがほとんどで、金銭的なトラブルから行為後、女を殺しているので色風《シエクホン》ではない。
このように、いろいろな事例を検死したり解剖しているうちに、誰もが色風になるのではなく、条件が揃《そろ》ったときが危険であることもわかってきた。病気の突然死(内因性急死)として、世にアピールする必要性を感じたので、まとめてみることにした。
このような研究を学会に発表するには、かなりの勇気がいるものである。ふりかえれば、こんな報告をしたのは、世界中で後にも先にも私しかいない。
調査の結果を簡単に述べると、
 ●男に多く、女に少ない
八〇パーセント以上は男で、セックスに対する男の欲求は、爆発的であることがよくわかる。精液を貯蔵するタンクが満タンになれば体外に排出するしかない男の構造には、生物学的に、女のそれとは比べようもない激しさが潜在している。この差がそのまま比率になって現れているようである。
 ●死因は男は心臓死、女は脳出血が多い
男は虚血性心不全つまり、心臓の栄養血管である冠状動脈が硬化しているために、心《しん》筋《きん》梗《こう》塞《そく》の発作を生じ急死するケースが多く、また若い人の場合は急性心機能不全が多かった。
女はクモ膜下出血や脳出血が多い。
この傾向はなにも色風に限ったことではない。死因にはかなりの性差があって、男は心臓死、女は脳出血系が多いのである。
色風つまり腹上死というのは死因ではない。交通事故死、墜落死などと同じで死の状態を現す用語だ。頭部を打撲し脳《のう》挫《ざ》傷《しよう》を生じて死亡したとすれば、脳挫傷が死因になるのである。したがって腹上死という生々しい用語が死亡診断書に記入されることはないのでご安心あれ。
とはいえ、男子の本懐、男冥《みよう》利《り》につきるなどと虚勢を張ることはない。健康管理が悪かったのである。
 ●頻度は春に多い
芽が出て葉が出て花が咲くように、春は植物にとって躍動的である。この春の季節、われわれ人間にとっても、きわめて活動的であると同時に、内部のバランスが崩れやすい不安定な時期である。したがって色風も、この季節に多いのかもしれない。
逆に少なかったのが、秋であった。はっきりとした理由はわからないが、なんとなくわかるような気もする。
しかし最近は、真夏にミカンを食べ、冬に西瓜《すいか》を食べることもできて、季節感はなくなった。からだも同じで、水虫は夏、神経痛は冬の病気であったのだが、そんな区別も乱れている。そのためか、最近では色風も季節的かたよりはなくなっている。
 ●男女の年齢差は大きい
平均年齢をとってみると、男四十六歳、女三十四歳で中年層に多い。また年齢差は男が十二歳も年上になっている。
極端なケースをあげると、七十五歳のご隠居さんと三十二歳の愛人というケースがあった。年齢差は四十三歳である。年齢差が一番大きかったのは、六十九歳の商店主と二十一歳のホステスで、実に四十八歳の差があった。
ところが逆に、女が年上のケースもある。六十歳のおばあちゃんが、二十一歳の大学生とついハッスルして、おばあちゃんが急死した。クモ膜下出血であった。年齢は三十九歳も離れていた。
いずれにせよ、この年齢差が非常な刺激と興奮をよび、悪い結果を導き出しているようである。
 ●男女の間柄は愛人関係が多い
単純に数だけを見れば、夫婦間に多いのは当然である。しかし、色風の発生率から見れば、愛人関係での死亡率がもっとも高いことになる。
上司とOL、学生と人妻、ホステスとなじみの客、組み合わせはいろいろだが、つまるところ愛人関係である。
愛人の場合、妻とは違って開放された快楽が主体になるので、興奮の度合は高くなり、それに伴う消耗も大きくまた危険も大となる。
色風は普通の夫婦間にもみられるが、考えさせられるケースとして、長い出張から帰った夜とか、高齢になってから若い後妻を迎え、ついハッスルし過ぎたケースが目についた。
 ●行為と死亡までの時間
行為中の急死がもっとも多く、直後、二時間後、五時間後の順で多い。総合すると、行為中の死亡(上馬風)より行為後(下馬風)のほうがはるかに多い。
脳出血死例は行為中に発症し、死亡するまでに数時間かかっている。
心臓死例は行為中に発症急死、直後に発症急死するもの、あるいは行為後眠りに入ってから突然発症急死するようなケースが多いのである。
 ●行為に先立ち飲酒は禁物
善《よ》きにつけ悪しきにつけ、人間社会の中で酒の果たす役割は大きい。
色風の場合、解剖して血中アルコール濃度を検査してみると、その三割にアルコールが認められた。
飲み過ぎると心臓や血圧に悪影響を及ぼし、さらに感覚は鈍麻になって、行為自体も長びき、体力の消耗もはげしくなる。その結果、心臓に負担がかかってくる。
行為に先立っての飲酒、飲み過ぎはどうみてもよくない。
 ●色風の頻度
病死(内因性急死)の中で、性行為に由来して発症急死したケースがどのくらいあるのか調査してみると、約一パーセントであった。思ったより少なかった。これは事柄の性質上、変死扱いにならなかったり、なったとしても犯罪性がないので詳細な検索もなされぬまま、単なる病死として扱われたケースが相当数あったためと思われる。
さらに上馬風のみをとらえ、下馬風を除外している場合もあり、色風の正確な統計はとりにくい。したがって、頻度はもっと高いはずだと私は思っている。
 ●解剖所見
色風された人々を解剖して、その所見をまとめてみると、死因となる病変として動脈硬化、脳動《どう》脈《みやく》瘤《りゆう》、心肥大あるいは副《ふく》腎《じん》皮《ひ》質《しつ》菲《ひ》薄《はく》、胸《きよう》腺《せん》残存などの変化があげられる。
このような病変をもちながら、それに気づかず健康者として日常生活を営んでいるところに、最大の原因、危険が潜んでいる。
 ●誰が色風になるのか。予防は
動脈硬化、脳動脈瘤、心肥大などは知らず知らずのうちに忍び寄ってくる病変なので、日常生活に支障をきたすこともなく、自分自身も周囲の人たちも気がつかない。健康体だと思っている。ところが過労や心労が続いたり、精神的な異常興奮があったり、階段を急いでかけあがったりすると、それらの病変に負担がかかり、はっきりと症状を現してくる。
心臓がドキドキして不整脈が現れたり、息苦しくあるいは胸苦しくなったりして、血圧が急に高くなったりする。
このように潜在的疾患をもっている人が、普通とは多少異なる環境の変化、つまり飲酒をし、年齢差の大きい愛人を連れ、ホテルなどに入ったりすると、精神的興奮が高まっているところへ、行為という生理学的興奮と消耗がいっきに加わって、潜在的基礎疾患が発症し、死という結果がもたらされるのである。
これはなにも色風に限ったことではない。
あの電車に乗り遅れたら会社に遅刻すると、急いで階段をかけのぼり、電車に飛び乗ったとたんに急死するとか、スポーツ中の急死、あるいは近所の火事におどろいて急死するなどの実例が示すとおり、その危険性はいろいろな肉体的、精神的ショック、ストレスによって誘発されるのである。
これを予防するのは、簡単である。
各自が潜在的基礎疾患に早く気づき、治療を含めて生活態度を改めていけばよい。
早期発見、早期治療によって、これらは予防できるのである。
それにしても、古女房が一番安全なのである。
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