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死体検死医24

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:24 パントマイム出勤時間なのに起きてこない。母は娘の部屋へ起こしに行った。名を呼び、からだを揺すったが返事はない。異変に
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24 パントマイム

出勤時間なのに起きてこない。母は娘の部屋へ起こしに行った。名を呼び、からだを揺すったが返事はない。
異変に驚き、すぐに救急車を呼んだが死亡していた。
元気な若い女性が寝姿のまま死亡しているのは、いかにも不思議なことである。不審、不安のある死に方であったから、変死扱いになったのは当然であった。
顔はややうっ血し、眼《がん》瞼《けん》結膜下にはわずかながら溢《いつ》血《けつ》点《てん》が出現していた。これは急死したときに見られる所見である。
彼女には喘《ぜん》息《そく》の持病があったから、もしかしたら発作を起こしての急死かもしれない。しかし、検死だけでは明確な死因はわからない。
病死か、事件か、警察は大事をとって司法解剖することにした。
結果は窒息死と判断された。
しかし、窒息の原因は、
 気管支喘息の発作(病死)
紐《ひも》で自分の首をしめた自絞死(自殺)
首を絞めて殺害された(他殺)
 の三通りが考えられるが、その区別は医学上判然としないので、警察の捜査にゆだねたいというものであった。
どう展開するのか、密《ひそ》かに事件を追っていたあるテレビ局からの取材を受けた。そのような事件があったことすら、私は知らなかった。そしてそれ以上の進展も情報もないのである。しかし、コメントしなければならない。そこで窒息死を整理し、一般論を述べることにした。
まず、気管支喘息の発作による病死と考えるならば、喘息は吸気はできるが細い気管支が痙《けい》攣《れん》して呼気が十分できないために、呼吸困難を生じ窒息死するものである。したがって、肺は風船のようにふくらんでいなければならない。
肺の解剖所見に著明な肺《はい》気《き》腫《しゆ》があったか、そして肺にメスを入れた際、ふくらんでいた肺から空気が抜けてしぼんでしまうような所見が見られたか、この二点をレポーターに尋ねると、そのような警察発表はなかったという。
もしもそれが本当ならば、病死の可能性は否定されることになる。
次に、自殺を前提に考えると、自絞死といって自分の首に紐を巻き、両端を引っ張って自殺するケースがある。
しかしこの場合、呼吸ができずに意識不明になると手を放す。そのとき紐の結び目がゆるめば、呼吸は再開し意識を取り戻して死ねない。結び目がしまったままであれば、自殺は可能である。
そこで第一発見者はどう証言していたかが問題なので、レポーターに聞くと、普段と同じパジャマ姿で首に紐が巻かれていたなどとの話はなかったという。
それが本当ならば、自殺の線も消える。
残るは他殺である。
何者かが殺害したことになる。
「先生、その家は六人家族で、深夜他人が侵入してきて、彼女を殺害し逃亡したとは到底考えられません。東京の狭い家屋構造からいっても無理な話です」
とレポーターは反論した。それならば、
「家族の中に犯人がいることになるが」
とつっ込むと、祖父母、両親、本人、弟の六人暮らしで、取材した限りでは家族の中に犯人がいるとは考えられないというのである。
話は行き詰まった。行き詰まったら、わかっている事実からさかのぼって、考え直せばよい。
彼女は死んでいる。
窒息死したことも事実である。これが原点である。状況にまどわされてはならない。状況を参考にはするが、それを主体に考えていくと、犯人の思う壺《つぼ》に誘導されてしまう。あくまでも死体所見を中心に考えれば、真相にたどりつく。
事実を観察して、死体が何を語りかけているのかを聞き取れればよいのである。
気管支喘息の病死と、自絞死の事実は否定されたのだから、残るは他殺しかない。
状況がどうであろうと、このケースは窒息による殺人事件であるとコメントして、テレビの取材は終わった。
一か月後、犯人逮捕の報道が流れた。
一方的に彼女を慕っていた中年男が、彼女に冷たくされたために、大胆にも彼女の家に侵入し、布団の上から馬乗りになって、両手で首を圧迫して殺害したと供述したのである。襖《ふすま》一つで隔てられた隣室に家人はいたのだが、熟睡していたのかまったく気がつかなかったという。
ストーカーとでもいうのだろうか。殺人事件としては、珍しいケースであった。
予想は的中した。
状況にこだわらず、死体所見を主体に真相に迫っていったからである。
監察医の仕事は、パントマイムに似ているような気がする。
平坦な舞台で道具は何一つないのだが、階段を昇り降りしたり、鏡をふいたりする。
からだの動き、演技によって見えない情景を見せてしまうからである。
ものいわぬ死体を丹念に観察していくと、死者の発する言葉が聞こえてくる。つまり見えない事実が見えてくるのである。
死体は正にパントマイムを、演じているのである。
しかし、死者の言葉は誰にも聞こえるというものではない。
医者であっても、法医学を学び、さらに検死、解剖の実務をつんだ監察医でなければ聞きとることはできない。
医師は生者の命をサポートするのが使命なのに、すでに死して治療の必要のない死者に関わるのが監察医である。だから医師になって監察医になる者は少ない。
しかし、社会にとってこの死体のお医者さんは、なくてはならない職種である。
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