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死体は生きている01

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:匿名の電話 私は停年を待たずに退職した。医師の中でも、とくに保健所の医師と監察医はなり手が少ないためか、他の医師よりも停
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匿名の電話
 
 私は停年を待たずに退職した。
医師の中でも、とくに保健所の医師と監察医はなり手が少ないためか、他の医師よりも停年が五年延長され、六十五歳と優遇されていた。
公務員というぬるま湯の中で、三十年も監察医として検死や解剖をしていると、たしかに特殊な仕事ではあるが、やはりマンネリズムに陥りがちである。
しかし、死者から学びとることは多い。
死人に口なしというけれど、丹念に死体を観察するとものいわぬ死者が真実を語りだす。
死者ほど雄弁なものはない。
この体験をまとめ、生者に伝えるのも自分の仕事であろうと思ったとき、とても停年まで待ちきれなくなり、五年を残して退職し、著書『死体は語る』(時事通信社)を上《じよう》梓《し》した。
公務員というしがらみや、勤務時間というようなわくに制約されることなく、自適な時間と自在な活動のできる場がなければ、今までやってきたことを集大成することはできないと考えたからでもあった。

ある事件を担当したときのことである。
ビルの工事現場で墜落事故があった。
救急車で病院に収容されたが、鼻や耳からも血を流し意識不明のまま、開頭手術をすることもできず、数時間後に死亡した。
真夏のできごとであった。
墜落という外力による死亡であり、また業務中でもあったから労災保険の適用になるので、当然警察に変死届が出された。
捜査の結果、事故の発生状況は本人があやまってバランスを失い、五階部分の足場から墜落したことがわかった。
翌日、監察医の死体検案(検死)が行われることになった。
その夜、警察に、
「事故ではない。けんかで突き落された」
という匿名の電話が入った。
警察の霊安室に遺体は保管されていた。
ゆかたを着せられ、頭部には血液がにじんだ包帯が巻かれていた。これをほどき、全裸にして検死がはじまる。
後頭部に墜落外傷と思われる打撲と頭《ず》蓋《がい》骨《こつ》骨折がみられた。それ以外に外傷はない。
突きとばされたぐらいの外力では、からだに外《き》傷《ず》がつくはずはない。しかしからだはよろけバランスを失い、柵《さく》のようなものがなければ墜落の危険はある。
少しの外傷も見逃さぬよう慎重に死体を観察したが、それ以上の外傷は発見できなかった。
「着衣はどうですか。見せてください」
ズボンはニッカボッカー、上着はアンダーシャツ一枚、地下タビをはいていた。
うす汚れた汗まみれのアンダーシャツを丹念に調べると、右脇《わき》腹《ばら》付近に鶏卵大の範囲にギザギザ模様の泥がついていた。
地下タビの底の模様のようであった。
警察はアンダーシャツを証拠に、けんか相手を問いつめ事件を解決したのである。
口論のすえ、腹部を足《あし》蹴《げ》りにしたのであった。
死体を含めて着衣なども、検死の対象として重要な資料となる。
この事件は、事実を隠し、口裏を合わせ、たくみに偽装したにも《か》拘《かわら》ず、その不正義を許せない仲間から、匿名の電話という思いもよらぬ手段によって、あばかれてしまった。
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