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死体は生きている06

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:蹴《け》とばされた女 派手な化粧をした若い女が、腹痛を訴えて病院にやって来た。午前一時ごろである。かなり酔っていた。宿直
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蹴《け》とばされた女
 
 派手な化粧をした若い女が、腹痛を訴えて病院にやって来た。午前一時ごろである。かなり酔っていた。
宿直の内科医は簡単な診察をすませ、痛み止めの注射と内服薬を持たせて帰した。しかし女の症状は好転しなかったとみえ、数時間後再び来院したのである。
少し肌寒さも感じられる十月、早朝のことだった。
下腹部が痛いと外科の診察を希望した。右下腹部に圧痛があり、白血球が増えていたので急性虫垂炎と診断され、直ちに入院。
その日の午後には手術の段どりがついた。
外科医長の執刀で予定通り手術が始まった。おなかを開けると、腹《ふく》腔《くう》内に少量の血液がみられた。虫垂炎が進行してやぶれ、膿《うみ》や血液がおなかにもれたのだろうか。
しかし虫垂には異常はなかった。このぐらいでベテランの執刀医はあわてない。
女性の虫垂炎の手術でよくあるあやまりに、子宮外妊《にん》娠《しん》の破裂があるからである。
さらに切開を加えて手術創をひろげ、左右の卵管を観察した。だが子宮外妊娠の事実はなかった。
早く出血部を見つけ出し、止血の処置をしなければならなかったが見つからない。あせりといらだちを抑えながらの手術は、長い時間かかったけれど、結局わからずじまいであった。仕方なく虫垂を摘出して手術を終えることにした。
手術後、女の容態はほぼ順調に回復に向かっていた。
翌朝にはガスの放出もあり、おもゆも食べ夕方にはベッドの上に起き上ったりした。
患者の経過が順調であったから、手術の際の腹腔内出血に対する不安はなくなっていた。
その翌朝のことである。
女がベッドから起き上ろうとした際、再び強い腹痛とともに顔面蒼《そう》白《はく》となり、やがてショック状態となった。
看護婦から知らせをうけて主治医と医長がとんできた。
緊急手術が始められた。
医師達は腹部中央を縦に大きく切開した。
腹腔内には多量の血液がたまっていた。
どこから出血しているのかを見つけ、素早く止血処置をしないと女の命は危ない。
輸血をしながら、出血部を探した。
やがて女の顔に赤味がさし、徐々にショックから覚めていった。
脾《ひ》臓《ぞう》破裂が確認された。しかし出血は自然に止っていたので、これ以上手を加えることはないと判断して、ゴムドレーンを三本腹腔内に装置し、手術を終えることになった。
医師達には一抹の不安があったが、患者は元気をとり戻していた。
そのころ、男が病室を出入りしていたが、夜になってから姿はなく、年格好から情夫のように思われた。
手術の結果は虫垂炎でもなく、外妊でもない。全くの誤診であり、再手術によっても完全な手当ができなかった不手際に、医師達は憂うつであった。
脾臓破裂は外力の作用によって生ずるものである。
しかし女の口はかたく、なぜこうなったのかの説明はない。
主治医と医長は病室へ行き、何かを隠している、隠していると病気は治らない、素直にいいたまえと、高圧な態度で女にせまった。
顔色はまだすぐれないが、それほど悪いということもなく、手術後の状態としてはまあまあである。
しかられてはじめて女は、男に殴られたこと、蹴《け》られたことを言葉少なに語った。
いわれてみると、右頬《ほお》と右腰部に軽度の皮下出血があるのがわかった。
それから数時間後、女はベッドに横たわったまま外傷性脾臓破裂による腹腔内出血のため、再度ショック状態になり、死の経過をとってしまった。
傷害発生より三日目であった。
病院から警察へ変死届が出されたことはいうまでもない。
警察の調べで判明したことは、三日前の夜十一時ごろバーのホステスをしているこの女は、同《どう》棲《せい》中《ちゆう》のチーフバーテンの目の前で泥酔して若い客と醜態を演じていた。
男は嫉《しつ》妬《と》心《しん》から、女を外に連れ出し客扱いが悪いといって、殴る蹴るの暴行を加えた。
女はそのまま帰宅したが、腹痛のため午前一時ごろアパートの近くの病院に出向いたのである。
腹部などを蹴った場合、その部の皮膚に皮下出血や打撲傷を残さず、内部の臓器に損傷を生ずることがある。
とくに左脇《わき》腹《ばら》を蹴られると、脾臓破裂を起こすことが多い。
けんかなどで相手が無抵抗、無防備状態で倒れているところを、蹴ったりするのはきわめて危険なことである。
同棲中の男は、傷害致死で逮捕され、女は大学で司法解剖に付されることになった。
暴行をうけても男をかばって医師に真相を語らず、それがために誤診を招き、再度の手術をするなど翻《ほん》弄《ろう》された医師達。
そして遂には死の経過をとってしまったあわれな女。
検死をしながら、私は最初にひと言本当のことをいっていれば、適切な治療がうけられ死なずに済んだものをと思った。
女は何を考え、何が女をそうさせたのか。私には理解できなかった。
歌の文句じゃないけれど、男と女の間には、深くて暗い川がある……のかも知れない。
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