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死体は生きている13

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:死因は戒名 ある寺の墓地の中で、男が死んでいた。墓の間の細い通路にあお向けに倒れていた。墓参りに来た人が発見し、すぐ住職
(单词翻译:双击或拖选)
死因は戒名
 
 ある寺の墓地の中で、男が死んでいた。
墓の間の細い通路にあお向けに倒れていた。
墓参りに来た人が発見し、すぐ住職から一一〇番されてパトカーがやって来た。
首には麻のロープがぐるぐる巻きになっている。
事件だ!
現場はすぐ立ち入り禁止となり、警察のきびしい捜査活動が始まった。
ズボンに白いYシャツ姿で、左足はサンダルをはいているが、右足のサンダルはなく裸足である。
顔は暗赤褐色にうっ血し、溢《いつ》血《けつ》点《てん》が著しい。
さらに舌を噛《か》んだ状態になっているので、窒息死したことは明らかであった。
とりあえず遺体だけをその状態のまま、警察署に運び、現場の状況はさらに細かく検証をつづけることになった。
警察の霊安室で監察医の検死が始まる。
先ず正面像を写真にとってから、背面の観察をするため遺体を裏がえしにすると、なぜかYシャツの両腕の部分だけが泥で汚れている。背中は汚れていない。
ズボンも尻《しり》の部分よりも、すその方が泥の付着が著しい。
足の裏は、サンダルがぬげていた右足も左足と同じように泥の付着はなく、きれいであった。
格闘でもあったにしては、着衣の状態と足の裏の様子が合わない。
鑑識のカメラに逐一記録しながら全裸にする。
首のロープは七重に巻かれ、左前頸《けい》部《ぶ》で男結びになっていた。注意深くほどいていくと、はじめの二条は先に巻いたロープの上を回っていたが、あとの五条は直接首の皮膚にあたり、ロープのあみ目がくい込み索溝をつくっていた。
現場には争った形跡はない。
右足のサンダルは三 《メ》米《ート》 《ル》離れた隣りの墓の植込みにひっかかっていた。
他殺か。自殺か。その区別を死体と現場から読みとろうと警察官も監察医も必死であった。
現段階では殺人事件という積極的な決め手に欠けていたため、取りあえず監察医務院で行政解剖をすることになった。
頸部圧迫による窒息と診断されたが、自殺か他殺かは今後の捜査状況と合せて考えなければ判らない。
他殺とすれば、加害者が首を絞めたとき、ロープは一重巻きにして絞め、無抵抗になってからぐるぐる巻きにしたと考えるべきで、五条の索溝の中で一条だけは索溝内に擦過傷や小出血などが出現していなければならない。
さらに首を絞められた被害者は、苦しさのためロープの下に自分の指をこじ入れ、防御するからそこに自分の指や爪《つめ》による、ひっかききずや皮下出血ができる。つまり殺しのサインとしての防御創がみられるべきである。
しかし、一切みられない。
それにしても着衣の泥の付着状態や右足サンダルの散乱などは、格闘ではないかと疑ってみたが、現場の乱れはなく、また両足のうらはきれいなのである。
ちぐはぐな様相に、事件の謎解きはむずかしかった。
自絞死というのがある。
字の如くひもなどで、自分の首を絞め自殺するものをいう。
そんなことが出来るのだろうかと思われるかも知れないが、首にひもを巻きその両端を握って引っぱり、自分で自分の首を絞める。やがて意識を失いぐったりして握っていたひもを放してしまう。そのとき、ひもがゆるめば息を吹き返すが、結び目がしまったままであれば、窒息して死ねるのである。

女医である妻を絞殺したとして懲役十三年の有罪となり、高裁で控訴棄却、最高裁で上告棄却がいい渡された夫の青年医師は、絶望してか東京拘置所の独房で自殺した。
自殺の仕方は、畳糸をぬきとり三重にして首に巻きつけ、サインペンをはさんでねじり、自分で自分の首を絞めたのである。
そんなことが出来るものなのか。不自然な気がする。殺しではないのかと疑問をもった記者から問い合せがあった。
この方法を自絞死というが、さほど珍しいものではない。
しかし、ひもがきわめて細い場合は、気管が絞まって窒息するというよりは、首の静脈が圧迫されて脳のうっ血、血流の停滞による脳機能障害が死因となることもありうる。
ともあれ、墓前であぐらをかき、用意したロープをぐるぐると首に巻き結ぶ。間もなく呼吸困難となってあお向けに倒れる。無呼吸状態が二〜三分続くと痙《けい》攣《れん》を起こす。臀《でん》部《ぶ》が地面につき手足はつっぱるようにこわばり、頭や背中もやや前かがみのような姿勢で、地面からわずかに離れて痙攣する。
手足部分のYシャツやズボンが地面にこすれて泥がつく。右足のサンダルもそのときの痙攣で三 《メ》米《ートル》ばかりふりとばされたと考えれば、現場の状況も死体所見も説明がつく。
そう考えたが、もしも殺しだったら死者にも、その家族にも申し訳がない。
どこかで殺して、運んできたのだろうか。
不安を感じながら、その日は終った。
翌日、警察から身元が判明したとの連絡が入った。
遺書はないが、家業がうまくいかずご先祖様に申し訳がないと悩んでいたことがわかった。
先生の推察通り、自殺と判断して捜査を終了するというのであった。
三週間後、胃内容、血液、尿などの化学検査に毒物なし、組織検査にも病変なしと判明して、すべての検索は終了した。
死因は頸部圧迫による窒息、死亡の種類は自殺となってこの事件は終結した。
死者とかかわって一と月あまり。
真相は解明された。
死因がつけられ、人権は擁護された。
死者は死体となり、仏様となって私から去っていく。
いうなれば、死因は私にとって戒名なのである。
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