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死体は生きている31

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:提《ちよう》 燈《ちん》 監察医は明けても暮れても、検死と解剖の毎日である。連日、死者との対面というような仕事をしている
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提《ちよう》 燈《ちん》
 
 監察医は明けても暮れても、検死と解剖の毎日である。
連日、死者との対面というような仕事をしていると、精神的にも疲労し息がつまる思いがする。
週一〜二回は研究日として大学に出向いて、自分の研究をしたり、学生の講義をするような時間がないと、長続きはしない。
大学との連携は自分自身の充電になり、気分の転換にもなり、また大学にとっても新しい事件から研究のヒントを得たりして、持ちつ持たれつの関係が保たれ、人事交流もあって、慢性的な監察医不足の補充などにも役立っている。
監察医は朝九時すぎ、検死に出発する。
二十件近い事件は、検案車五台分にふり分けられ、しかも車で廻りやすい地域別に五つの検死班が編成される。
監察医、補佐、運転手が一組になって車にのり込むが、誰れがどこへ検死に行くかは、朝監察医が事件の内容をみて選択する。
窒息に興味のあるドクターは首つりを選び、頭部外傷を研究しているものは交通事故を、自殺の研究者はとび降り、とび込みなど自殺事例を選んで出かける。
しかし、出発してからもカーテレフォンで次から次へと事件が追加されるから、ありとあらゆる事例を消化することになる。
その日、私は選ぶ事例もないまま車にのり込んだ。
病死のような事例二件は、死因不詳のため、行政解剖の必要ありとして医務院に連絡。遺体は別の搬送車によって監察医務院に運ばれ、解剖当番の監察医らによって解剖されることになった。
私達は、次の検死へと移動する。
交通事故、とび降り自殺と四件を処理し、疲れ気味で私は車の中で居眠りをしながら、次の現場へと向かっていた。
「先生、つきました」
と運転手に起こされた。
遺体はすでに警察署に運び込まれていた。
裏庭へ案内されると、大勢の作業服を着た警察官が遺体をとり巻くように立ち、脚《きや》立《たつ》の上にのった鑑識係がカメラのフラッシュをたいていた。
「どうも、ご苦労様です」
と金ピカの制服を着た顔なじみの刑事課長が挨《あい》拶《さつ》した。
「係長。先生がお見えだよ。状況を説明して」
課長にいわれて遺体の傍らで作業していた警部補が、事件簿をひろげながらこっちへやってきた。
検死の立会官である。
男と女がビニールシートの上に並べられているのが見えた。
若そうな服装である。
心中か。母子心中はときどきあるが、若者の心中はめったにない。
わけのありそうな話でも、あるのかと期待した。
立会官は、会社の独身寮の車庫ですといいながら三枚のポラロイド写真を私に示した。
古い木造の二階建て家屋の玄関を改造した車庫であった。一台しか入れないスペースである。ガレージの戸を開けると車が入っていて、運転席にこの男性が、助手席にはこの女性が、このようにして発見されたのですと、写真とビニールシート上の遺体を交互に指さしながら説明し出した。
運転席の男は、助手席の女によりかかるような姿勢で死亡していた。
暮から正月にかけ、会社は休みになり、独身寮は三十日から三日まで閉鎖されることになっていた。
五日から仕事が始まったが、車の持ち主は戻らない。おかしいと同僚が車庫をのぞきに行くと、このありさまであったという。
女は婚約者で、男は休暇を利用し、郷里の両親や姉弟らに彼女を引き会わせるため、二十九日の夜、寮で待ち合せた。そこまでは、はっきりしている。
「車は車庫に置いたままですが、とりあえず遺体だけは詳しく調べる必要がありましたので、署へ運びました。男は右側の運転席に、女は助手席で服を着てますが、この状態なんです」
ビニールシート上に置かれた女性は、なぜかズボン、パンティーストッキングそれにパンティーまでが足元までずり落ち、下半身は裸である。露出された下半身の皮膚は赤褐色に乾燥し、上半身はセーターを着用していた。
口からは嘔《おう》吐《と》物《ぶつ》があって、顔に乾燥附着している。
男は背広を着ているが、ズボンのチャックだけが開いたままになっていた。
顔は暗赤褐色に腐敗し、そのためかややふくらんでみえる。
写真をとり終えると、刑事の一人が、
「先生、服をぬがせますがよろしいでしょうか」
二人とも、全裸になった。
正面像、背面像の写真をとり終えると、立会官から、
「お待たせしました」
と声がかかった。
私の出番である。
男は顔と同じように、全身に腐敗は進行して暗赤褐色に変色していた。
女は、露出された下半身は赤褐色に乾燥し、着衣に被《おお》われていた上半身には腐敗はなく、蒼《そう》白《はく》な皮膚の色を保ち、背面にはガス特有の鮮紅色の死《し》斑《はん》が出現していた。
車のトランクには、みやげものが入ったままで、調べによっても郷里に帰った形跡はない。
結局、二十九日夜二人は寮で待合せ、出発しないままなのである。
しかし、満タンのガソリンは半分まで消費されている。
それよりも不思議なのは、二人の死後変化に大きな差があることであった。
男は五〜六日前に死亡したようであり、女は二日位前の感じである。
状況、死体所見がそれぞれにちぐはぐで、どう解釈すべきか、警察でも頭を悩ませていた。
服装の状態から推定すると、出発する前ガレージ内の車に、二人は乗り込んだ。エンジンをかけ、ヒーターを入れた。
寮にはもう誰れもいない。
ガレージの戸をしめ、密室にして若い二人は愛を確かめ合ったのではないだろうか。
女は下半身をむき出しに、男はズボンのチャックをはずしても不思議はない。
夢中になっている中に、狭いガレージに排気ガスは充満する。
車内にもガスが入って気がつかぬ間に、二人とも一酸化炭素中毒状態から死亡したのではないのか。
女が嘔吐しているのも中毒のためであろうと思われる。
狭いガレージはやがて酸素欠乏となり、満タンのガソリンは半分を残して、エンジンは切れた。
自殺や殺しの状況は出て来ない。
「捜査上はそう考えたいのですが、先生。二人の死後変化があまりにも違い過ぎるので、不安は残るのですが、いかがなものでしょうか」
と立会官の説明に課長も補足を加えながら、私に問いかけた。
見事な推理である。
納得出来る内容であった。
ただ残る疑問は、二人の腐敗差をどう説明するのか。これが事件のカギであり、警察は監察医の判断待ちといった様子で、私を眺めている。
私も二十数年前に運転免許証を取得しているが、はじめから運転をするつもりはなかった。交通事故の検死をするのに車の構造や道路交通法などを知っておく必要があったからで、実際に運転したのは免許取りたてのころ、二〜三度だけであとは殆《ほと》んどペーパードライバーであった。
ポラロイド写真を手にして、私はそこにとめてあったパトカーの運転席にのった。
隣りの助手席に立会官をのせ、死亡した二人と同じような姿勢をとりながら、運転席の構造を見直した。
実際にエンジンをかけ、ヒーターを入れてみようとパトカーの運転者に席をゆずり、私は後部座席に座って中腰で、運転者の操作するのを見ていた。
ヒーターをつけると間もなく温風が吹き出てきた。丁度運転席と助手席の間の足元あたりからであった。
男の所有する車も、ヒーターの位置はほぼこのパトカーと同じであった。
大体の様子はつかめた。
温風は下半身裸の女の皮膚に直接吹きあたって、からだの水分を蒸発させ、乾燥させているから、腐敗はおこりにくい。
ところが男は着衣におおわれているから、温風によって着衣は温ためられ、体温は高くなるので、腐敗の進行は早いと考えられる。
車の排気ガスの一酸化炭素含有量は多い。
小さいガレージにガスが充満し、車内にも入って二人が中毒するのは三十分とはかからないだろう。
ほぼ同時刻に死亡したと考えても矛盾はない。
その後、酸欠になってエンジンが止まるまでには三〜四時間はかかるはずである。
その間、車内の温度は高くなり、やがてエンジンが切れたところで今度は、徐々に温度は低下して外気温に近づいていく。
発見されるまでに七日間という期間があった。たとえ同じ環境の車の中とはいえ、裸と着服という条件が違っているので、その間の腐敗の進行にはかなりの差が生じておかしくない。
「これらの条件を加味すれば、二人の死亡時間を同時刻と考えて、一向に差支えないと思いますがね。
どうですか。課長さん」
と私は、警察側の反応をうかがった。
「いや、ありがとうございます。同時刻じゃないと、これをどう解釈するのか困っていたところです。専門の先生のご意見ですから、私どもは何もいうことはございません」
と課長は安心したようにいう。
「ありがとうございました。腐り方があまりにも違いすぎていたので、余計なことまで考えて心配していましたが、よかったですよ。いや、疲れました」
と立会官もホッとした様子であった。
検死は思いのほか、時間がかかった。
冬の日は短かい。
検案車はライトをつけて、帰路についた。
このような遅い帰りを、私達は提燈をつけて帰るといっている。
「お疲れさま。今日もまた提燈をつけてのお帰りだね」
と私は、運転手と補佐にねぎらいの言葉をおくった。
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