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死体は生きている37

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:怪《け》我《が》の功名 私達は日常生活の中で、いろいろな外《け》傷《が》を経験する。たとえば、転んで膝をすりむくとか、包
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怪《け》我《が》の功名
 
 私達は日常生活の中で、いろいろな外《け》傷《が》を経験する。
たとえば、転んで膝をすりむくとか、包丁やナイフで指を切ったりするが、原因によって出来る外《き》傷《ず》の形もまちまちである。
それと同じように、検死の際死体にもいろいろな外傷を見ることがある。
殺人事件はもちろんのこと、交通事故、転落事故あるいは行路病死などに、様々な損傷をみることがある。
その外傷の形状から原因となった凶器(成傷器)を推定するのも法医学の重要な役割なのである。
果物ナイフで胸をひと突きにされた刺殺事件などでは、左前胸部中央にナイフによる刺創があり、深く胸の中に創洞をつくり、心臓に達していることがわかることがある。
たとえば、果物ナイフを粘土に刺し、引きぬけばそこに刃物の形が残る。刃物の刃側はV字形の切れ込みとなり、峰の側は[字形をしている。この形状や創洞の形などを合せ考えれば、ある程度凶器(成傷器)を推定することが可能である。
ところが実際には、刃物を刺したときと引きぬくときでは、加害者も被害者もともに格闘するなどの動きがあるので、一つの刺し外傷をみても、刃側の方には刺した際の切れ込みV字形とぬいた際の切り外傷がV字形となり、W字形になっていることが多いので、単純に考えることはできない。
また刺創といっても、刺しながら切っている場合もあるから、創《きず》口《ぐち》から凶器を推定するといっても、むずかしいのである。
その他に被害者は、手や腕をつかって攻撃をかわすから、そこに多くの切り外傷や刺し外傷をみる。これを防御創というが、刃物を手のひらでつかんだりすると、手のひらの防御創は大きく深くなる。
このように外傷の多い検死をしていると、犯行時の模様がそれなりに見えてくる。だから、まだつかまらぬ犯人に向かって、こんなひどいことしやがって、許せないなどと憤る刑事もいる。
これが捜査の原動力になっているのかも知れない。

警察の霊安室で、ある殺人事件の検死をしていたときのことである。
前頭部に手拳大の打撲傷があり、顔面には刺創、切創が沢山あって外傷には生活反応がみられた。
刺創、切創の形はそれぞれまちまちで、凶器が一つとは思えなかった。それ以外の部位に外傷はない。
「状況はどうなんですか」
と私は、立会官に尋ねた。
「昨夜、何者かに襲われたらしいのですが、はっきりした状況は目下捜査中であります」
との返事であった。
凶器の推定は、事件の解決上きわめて重要である。ましてや凶器発見の有無は、証拠裁判上不可欠のものである。
だから犯行後、凶器を山に捨てたといえば山を、川に捨てたといえば川を、大勢の警官が探しているテレビ報道をみることがある。
凶器は何んだろう。
検死のあとで、警察官からきっと質問されるに違いない。わからない、では法医学者として恥かしい。だからといって、でたらめをいうわけにもいかない。
少年のころ読んだ江戸川乱歩の推理小説に、犯人が高い所から頭めがけて氷塊を落として殺し、死体が発見されたときは、凶器は溶けてなくなっていた。
難解な凶器なき殺人事件を、見事に解決していく名探偵を思い出す。
しかし、現実はそうはいかない。
この事件は、私にとって難解であった。
わからない。
気ばかり、あせっていた。
待てよ。一個の打撲傷と刺創、切創が沢山ある。
もしかすると、犯人は一人ではなく複数なのかも知れない。凶器も複数。
それならば、ばらばらな外傷ができても不思議はない。
そう思ったとき、少し気が楽になってきた。
落着きを取り戻して検死をはじめた。
先ず、頭髪の上から頭を触って損傷の状態を観察した。毛髪には顔面刺切創から流出した血液が付着していたので、私の手のひらは血で汚れてしまった。それでも両手で丹念に頭を触ってみると、打撲傷のある部位の頭皮は少し腫《は》れている。しかもその付近の頭《ず》蓋《がい》骨《こつ》に骨折があることがわかった。
そうしている中に、指先にチクッと痛みが走った。
何んだろうと手を引き寄せ、よく見ると指先に小さい何かが刺さっている。
少し出血していた。
すぐに消毒しないと梅毒、B型肝炎、エイズなど感染の危険がある。その意味では不用意な検死は危険である。
補佐に簡単な手当をしてもらい、中断した検死を再開した。
三十分位で一応の検死を終え、監察医としての見解を立会官に伝えた。
「凶器はビールびんだと思いますが」
というと、周りにいた警察官達は作業の手をとめ、驚いたような顔をして私を注目した。
犯人はビールびんの口の方を握って、被害者の前頭部を一撃。びんは割れガラス片と中身のビールは現場に飛散する。犯人の手に握ったびんの先端はギザギザに割れ、鋭利な刃物のようになっている。これで意識不明になって倒れている被害者の顔を突いたものと推定するが、どうだろう。
警察では、大《おお》凡《よそ》の状況はつかんでいたが、何も知らない監察医が死体をみただけで、ここまでいい当てることに驚いたのであろう。
立会官は、現場の状態は正に先生のご指摘の通りですが、どうして凶器がビールびんであることが判ったのか、不思議そうに尋ねるので、私は手当をしたばかりの指を見せて、頭を検死しているときに、ビールびんの小さいかけらが指に刺さったので、と種明かしをした。
補佐は私の方を見てニヤニヤ笑っていた。
びんの割れた面で突き刺しているので、顔に形成された外傷の形状はまちまちである。
翌日、犯人は逮捕された。
複数ではなく、単独犯であった。
複数人による、複数の凶器などといっていたら、今ごろは笑いものにされていたに違いない。
それにしても、検死しただけで現場の状況から凶器まで、いい当てることが出来たのは、怪我の功名というほかはない。
思い返しても、こんな形で事件が解決したのは、後にも先にもこれしかなかった。
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