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死体は生きている38

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:逆探知 裏通りの道路わきに中年の男が、口と鼻から血を流して死んでいた。朝の五時ごろ、新聞配達人によって発見された。届けを
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逆探知
 
 裏通りの道路わきに中年の男が、口と鼻から血を流して死んでいた。
朝の五時ごろ、新聞配達人によって発見された。届けをうけた警察では現場をひと通り調べた上、交通事故の可能性もあるとして慎重に捜査を開始していた。
体温の下降度や死体硬直の程度から、死亡は午前一時から二時の間とみられていた。付近の聞き込みでも、夜中の異状に気づいたものはなく、また目撃者もいなかった。
遺体は間もなく警察の霊安室に運び込まれ、監察医の検死がはじまったのは、午前十時をすぎていた。
裸にすると、左の腰から大腿部外側面にかけて淡青藍色の皮下出血がみられ、左側胸部に数本の肋《ろつ》骨《こつ》骨折があり、さらに後頭部に打撲傷があって、口と鼻から少量の血が洩《も》れていた。
死体の左側に外傷が集まっていることと、後頭部に打撲傷があることから考えれば、交通事故の可能性もある。つまり、自動車の前面と歩行者の左側面とが接触し、はねとばされて歩行者は路上に転倒して、後頭部を打ったと考えられるからである。
その際の加害車両は、被害者の外傷から衝突した前面は、ほぼ平坦と思われるので乗用車タイプではなく、ボンネットのないボンゴ型のものと推定される。しかも、轢《れき》過《か》されたような外傷はない。
「現場はどんな状態ですか」
と私は尋ねた。
「いや、それが路面にブレーキ痕もなく、車の部品やガラス片も落ちていないので、交通事故と断定しにくいのです」
と立会官はいう。
刑事事件か交通事故か、わからないのでとりあえず、両面から捜査は行われていた。
もしも交通事故でないとすれば、死体所見から墜落なども考えてみる必要があった。
私は現場を見ていないから、はっきりしたことはいえないが、交通外傷は横から外力が作用し、転落は上から作用する。その違いはあるけれど、人体に生ずる外部の損傷は、ほぼ似たような場合が多いから、注意すべきであろうと意見を述べて検死は終った。
明確な死因とくわしい死体所見をつかんでおく必要があったため、監察医務院で行政解剖を行うことになった。
午後一時から解剖は行われた。
本庁から検視官、所轄からは立会官をはじめ鑑識係など数名の刑事、それに交通の警察官も立会っていた。
からだの外部にみられる出血の部位に一致して、筋肉内出血がみられた。内臓は左《さ》腎《じん》、脾《ひ》臓《ぞう》の破裂があり、左骨盤の骨折もみられさらに右側にある肝臓も、破裂していた。
後頭部に頭皮下の出血があり、頭《ず》蓋《がい》底《てい》にわずかな骨折があって、軽度の脳《のう》挫《ざ》傷《しよう》があった。
全体的にからだの左側を強打しているのに、右側にある肝臓までが破裂しているところをみると、交通事故というよりはもっと衝撃の強い、墜落のような外力が作用したと考えた方が合理的のようであった。
そのころ、身元が判明した。
同時に現場には道路に沿って、四階建ての会社があり、その屋上に一足のサンダルがあって、身内の人に見せたところ本人のものと確認されたというのである。
四十九歳の自営業者であったが、最近営業不振でノイローゼ気味になっていて、死にたいなどと語っていた。
昨夜来、帰宅していなかったこともわかり、遺書はないが自殺と思われるとの連絡が、解剖室の立会官の元によせられた。
ビルの外階段から屋上にのぼり、裏通りに向かってとび降りれば、コンクリート塀の外側の道路わきになるというのである。
交通事故は否定され、とび降り自殺として落着した。

似たような事件があった。
老母が道端で倒れていた。
息子が抱きかかえ、救急車で病院に収容したが間に合わなかった。
車にはねられたと事情を説明していた。
警察はすぐ対応したが、交通事故らしい状況は出て来ない。
検死してみると、からだの外傷は思ったよりひどく肋骨骨折、骨盤骨折それに手足の骨折もある。高齢者は骨がもろいから、外力が加われば簡単に折れてしまう。
それにしても、右大《だい》腿《たい》部《ぶ》背面に辺《へん》縁《えん》性《せい》出血がある。
これは、おかしい。交通事故などではない。
辺縁性出血というのは、硬く平坦な路面などに手足が強くたたきつけられたような場合に、形成されるものである。
具体的には路面に大腿部が強くたたきつけられると、路面と大腿部の骨が強く速く圧迫される。するとその間にある皮下の血管内血液は、圧迫部分の辺縁に向かって圧出され、そこに皮下出血を起こす。
だから強い圧迫をうけた骨の部分には、出血は起こらず蒼《そう》白《はく》で、その周辺の皮下に出血が生ずるから、骨の形が鮮やかな紋様となって見えてくる。これが辺縁性出血であり、墜落外傷の特徴ともいえるもので、交通事故などには出来る外傷ではない。
息子は老母がとび降り自殺をしたことを、隠したかったために、嘘《うそ》をついていたことをすぐに白状した。
またあるとき、お年寄りの検死に行った。
布団にねたまま死亡していたというのである。しかし、首には首つり様の索溝がみられ、どう見ても縊《い》死《し》であった。
息子夫婦に聞いても、昨夜ねたままで今朝布団の中で死亡しているのが発見されたものだから、病死ではないかと思いますというのである。
老妻も寝室が別だから、詳しいことはわからないとのことであった。
そんな馬鹿な話はない。
もしも、それが本当であるならば殺人の可能性もあるから、解剖してはっきりさせましょうと、解剖の話を進めていたとき、奥座敷から老妻が出て来て、
「先生、申し訳ありませんでした。実は朝起きると、夫がかもいに腰ひもを巻き、首をつっていました。自殺では世間体が悪いと思い、すぐにひもを切って布団にねかせたのです」
とあやまった。
これらの話は、いずれも人騒がせの事件であったが、警察の捜査と監察医の共同作業によって、真相は解明され社会の秩序は保たれたのである。
それにしても、一つの事件を逆探知して、不透明な状況を明らかにしていく。
職務とはいえ、大変な作業である。
とくに警察官の努力には、本当に頭が下がる思いである。
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