返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 作品合集 » 正文

死体は語る04

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:赤坂心中赤坂で心中事件が発生したから、検死してほしい、と連絡を受けたのは、早春の午後二時を少し過ぎたころであった。監察医
(单词翻译:双击或拖选)
赤坂心中

赤坂で心中事件が発生したから、検死してほしい、と連絡を受けたのは、早春の午後二時を少し過ぎたころであった。
監察医は、検案車に乗って検死に出動する。運転手と補佐員がつき、三人一組になって検死の依頼があった警察へ直行する。
一組が、一日五〜六件の事件を消化するのが日課である。四組か五組の編成で朝九時半ごろ出発するが、帰りは午後の四時ごろになってしまう。交通渋滞もさることながら、検案業務そのものが、原因不明の死を解明しなければならないために、警察官との綿密な協力のうえに、自殺か他殺か災害事故死か、それとも病死なのかと、あらゆる方向から検討して、唯一の真実を見いだし、もの言わぬ死者の人権を十分に擁護しなければならないので、思いのほか時間がかかるものである。
この日も、幼児の交通事故死、一人暮らしの老人の死、青年の首つり自殺、けんかの刺殺事件と、四件の検死を終えようとしているときであった。心中事件が追加されたのである。春は自殺の多い季節でもある。
警察官に案内されて、マンションの一室に入ったとき、まだ部屋の中はガス臭がたちこめていた。
当時は石炭ガス(6B)を使用していたので、現在の天然ガスと違い、生ガスを吸うと一酸化炭素中毒から死の危険につながった。あまり苦痛を伴わず容易にできる自殺と思われてか、睡眠剤に次いで多い手段であった。
ダブルベッドに、男と女の頭だけが見える。掛け布団の赤い花模様が、事件を象徴しているかのようであった。長いゴム管が女の口元まで引き込まれている。布団をはがすと、ピンクのネグリジェを着た女は横向きに、浴衣の寝巻きを着た男は仰向けになって死んでいた。心中のなまめかしさがただよっている。
現場の状況は、逐一鑑識係のカメラにおさめられる。監察医の検死には、風情も情緒もない。ただ二人が、なぜこういう結果になったのかを冷静に観察し、死因が何であるのかを医学的に解明し、死亡時間の推定などを行うのである。
このような仕事をしているので、初対面の人は、珍しい医者もいるものだと思うのか、
「死体を検死したり、解剖して気持ち悪くないですか」
と、よく質問されるのである。
即座に、私は、
「生きている人の方が恐ろしい」
と、答えることにしている。
生きている人は、痛いとかかゆいとか、すぐに文句を言う。そして何よりも死ぬ危険があるので、私にとっては、生きている人を診るよりは死体の方がはるかに気が楽なのである。
死体がこわいとか、気持ちが悪いという感覚は、医学を志したときからすでに持ち合わせていなかったような気がする。
ベッドの二人を全裸にして、死体をくまなく観察する。手足の関節に軽度の硬直があり、背中には鮮紅色の死斑があった。まだ死体には、ぬくもりがある。死後、五〜六時間、たっているようだ。
ガス中毒の死斑は、鮮紅色をしているので、赤褐色の他の死因とはすぐに区別はつく。二人は疑いもなく一酸化炭素中毒死であった。そのとき、女の枕の下から二通の遺書が発見された。一通は母親宛であり、あとの一通は何やら男の名前が書いてある。
警察官の調べが進むにつれ、遺書の宛名の男というのは、女とここに同衾《どうきん》し、死亡している男であることがわかって、びっくりした。一体どうなっているのだ。
遺書を遺して自殺するのはわかるとしても、なぜその男が自殺した女のベッドの中で死んでいるのであろうか。
 以前、似たような事件があった。アパートで一人暮らしの女がガス自殺をした。届けを受けた警察では、事実の確認と型通りの捜査をすませ、明日監察医の死体検案(検死)があるから、それまで現場をそのままにしておくようにと、家主に頼み鍵をかけて部屋の出入りを禁止した。
翌日、検死のため警察官に案内されて、女のアパートへ出向いた。家主から鍵を借りて刑事は戸を開けた。
「あっ!! 失礼しました」
部屋を間違えたのである。
あわてて、廊下へ出て回りを見渡したが間違ってはいなかった。あらためて、中を覗《のぞ》き込むと、一つの布団にやっぱり二人が寝ている。
どうもおかしい。昨日は確か、女一人が布団の中で死んでいたはずである。声をかけたが返事がない。刑事は恐る恐る、そばまで行き、顔を覗き込んだ。女に寄り添うようにして、男も死んでいたのである。
刑事はすぐに家主を呼び、この事実をただした。鍵は保管していたし、訪れた人もいないので、家主も腑《ふ》に落ちない顔付きである。そのうちに男の遺書が見つかり、謎《なぞ》は解けた。
二人は愛し合っていたが、結婚を強く反対され、女は一人でガス自殺をした。知らずにアパートを訪ねた男は、死んだ彼女のあとを追って青酸カリを飲んだのである。男は合鍵を持っていたのだ。人騒がせな事件であった。
 ところでこの事件も、そのような意外性をもっているのだろうか。事実はこうである。
彼女は二十八歳。バーのホステスである。四年前、店で知り合った実業家の愛人になった。その実入りとホステス業で、生活はかなり派手であった。
男は三十一歳。彼女の勤めるバーの雇われ支配人である。しかし、旦那《だんな》の目を盗んでは時々情交を結んでいた仲であった。ところが、最近旦那に別の愛人ができて、彼女はお払い箱になってしまった。精神的ショックもさることながら、月々のお手当もなくなり、収入も激減した。
この挫折《ざせつ》を自ら切り開いていくだけの気力は、もはや四年間という堕落した生活の中ですっかり失われていたに違いない。ちょうどそのころ、バーの支配人も解雇され、二人は期せずして同じ境遇になり、意気投合した。彼女に誘われるまま、男はマンションにやって来たのである。
彼女は、今後の生活を男に求め、二人で資金を出し合ってスナックでもやろうと、結婚を迫った。しかし、男は彼女に内緒にしていたが妻子があって、この愛を受け入れるわけにはいかなかった。男はただ、女を求めに来たにすぎなかったのである。
彼女の愛の告白は、なおも続いた。男の相槌《あいづち》はいつの間にか、寝息に変わっていた。遺書の終わりに、
こんなに真剣に告白しているのに、あなたは寝てしまったのね。やはり私は天涯孤独なのです。あなたのお幸せをお祈りして。さようなら。
と書いた。書き終えた女は、ベッドにガス管を引き入れ、自殺をはかった。同じ部屋で、同じベッドに寝ている男の生命はもはや時間の問題であった。……
このようにして、心中事件は心中ではなくなったのである。女は自殺であるが、男は寝ているうちに巻き添えをくったので、不慮の中毒死になる。二人とも死んだのだから、そんな区別はどうでもよいと思うかも知れない。
しかし、それが違うのである。
後日、わかったのであるが、二人は生命保険に入っていた。彼女は、加入後間もない自殺であったため、保険金の支払いはなかった。男の方には死ぬ意志はなく、たまたま自殺者のかたわらに寝ていて巻き添えをくった、いわば不慮の中毒死であったから、災害事故扱いになり、倍額保障付きの契約をしていたため、家族は多額の保険金の支払いを受けたという。
 ひところ、自動販売機にしかけられた除草剤入りドリンク剤を知らずに飲んで、死亡する事件が頻発《ひんぱつ》した。その中には、自分で除草剤を入れて服用し、あたかも犠牲者のように見せかけて自殺をするケースも出てきている。災害事故死扱いになれば、自殺と違い、世間の同情もあれば、生命保険などの支払いも有利になる。どうせ死ぬならと考えてやったとすれば、これも一つの事件に便乗した悪質な犯罪であろう。
警察の捜査はしつこいといわれるが、事実をつきとめなければ意味はない。警察官は真相を、監察医は医学的実態を解明し、協力して社会秩序を擁護するのである。
事件の裏には、いろいろな事情が隠されている。検死によって、それらが徐々に明らかにされ、死者の人間像が浮き彫りにされていく。仕事とはいえ、たまらない気持ちになることもある。
その日の仕事は終わった。
何となくずっしりした疲労を覚えながら、検案車は混雑する夕暮れの街を帰路についた。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

[查看全部]  相关评论