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死体は語る28

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:死者の側に立つ医学医師国家試験に合格すると、私は臨床の経験をもたぬまま法医学教室に入ってしまった。将来は臨床医に戻るとし
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死者の側に立つ医学

医師国家試験に合格すると、私は臨床の経験をもたぬまま法医学教室に入ってしまった。将来は臨床医に戻るとしても、二〜三年研究生活を味わうのも決して無駄なことではないと考えた。
動物を使って中毒や血清学的実験を四年ばかりやってみたが、自分が期待していた法医学とは違っており、何となくもどかしさを感じたので、事件の現場に立って検死や解剖をする実践法医学の方を選ぶことにした。ちょうどそのころ、死体解剖保存法第八条という法律のあることを知った。
「政令で定める地を管轄する都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑いのある死体、その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置きこれに検案をさせ、または検案によっても死因の判明しない場合には解剖させることができる(以下略)」
これが監察医制度の基盤であり、東京には監察医務院という役所があって、異状死体(不自然死)の検死、解剖が行われている。
普通患者は医師に、咳が出る、熱がある、などと症状を訴え治療をしてもらうが、ときとして元気な人が突然死するようなことがある。周囲の人も家族も、あるいは本人自身も、恐らく納得のいかない死亡であろう。病死なのか災害死なのか、あるいは自殺か他殺かと、考えれば疑惑は残る。その疑問に答え、もの言わずして急死した人々の人権を擁護するのがこの制度である。以来、この道にのめり込んでしまった。
 借金の取り立てに行き、借用人と交渉中に、取り立て人が急死したケースがあった。二人きりでの押し問答に疑惑がないとは言いきれない。検死後、監察医務院で行政解剖したところ、心筋梗塞であった。交渉中、興奮して心臓発作を起こしたのである。
また自動車を運転中、同乗者に、「ブレーキのききが急に悪くなった。おかしい」と語りつつ電柱に衝突してしまったという事故があった。同乗者は軽い外傷であったが、運転者は意識不明のまま、収容先の病院で間もなく死亡した。検死の結果、死因になるような外傷はなく、スピードもさほど出ていない。
納得のいかない交通事故であったから、行政解剖したところ、左の脳出血であった。そのため右下肢の動きが悪くなり、ブレーキを踏めなかったのだ。本人はそれをブレーキのききが悪いとしか理解できなかったから、同乗者にそう話をしたのである。誰もがブレーキ故障の事故と思ったが、実は脳出血という病的発作のためであった。
監察医制度があって、このような突然死あるいは不自然死の原因が明らかにされるから問題はないが、もしもこのような制度がなかったら、混乱は避けられない。行政改革によって、大都市にしか施行されていないこの制度も見直しの対象となり、廃止の危機に見舞われたが、重要さが認められて、存続することになった。医学は主として生者のためであろうが、死者の側に立つ医学もまた必要なのである。
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