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死体は語る29

时间: 2020-04-14    进入日语论坛
核心提示:堕 胎日本が堕胎天国といわれたころの話である。若い夫婦が産婦人科医院を訪れ、人工中絶を希望した。簡単な手術であったから、
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堕 胎

日本が堕胎天国といわれたころの話である。若い夫婦が産婦人科医院を訪れ、人工中絶を希望した。簡単な手術であったから、夫は廊下で待っていた。長い時間待たされていたが、やっと手術室から医師が出てきた。
脂汗をふきながら夫に、「手術は無事終了したが、術後の感染予防のためペニシリンを注射したところ、突然ショック状態となった。手をつくしたが、死亡してしまった」と告げたのである。ペニシリン・ショックが社会問題になっていたころでもあり、医師の説明はわかるとしても、今の今まで元気であった妻が、わずかの間に死んでしまうなど、夫には到底考えられないことであった。
医師の発行した死亡診断書を区役所の戸籍係に提出し、これと引き換えに火葬埋葬の許可証をもらわぬことには、葬儀は出せない。やむなく夫は、区役所へ出向き診断書を提出した。
ところがこの死亡診断書は、死因はペニシリン・ショック死で、死亡の種類は病死となっていた。戸籍係は、記載の誤りに気づいた。ペニシリンは手術後の感染予防のために注射したのであるから、正しい治療行為として行われたものである。死ぬような注射薬ではない。にもかかわらずショックという異常反応を起こして急死したのだから、死亡の種類は病死ではなく、災害死、つまり事故死扱いになる。このような場合、一般の医師が死亡診断書を発行しても受理されない。医師は警察に異状死体の届出(変死届)をして、監察医の検死を受け、死体検案書(死亡診断書と同じ書式)をもらわなければならないことになっている。
素人の夫は当然のことながら、戸籍係の説明がよく理解できないまま、医院に戻ってきた。日本の医籍に登録された医師が発行した死亡診断書を区役所が受理しないとは何ごとかと、医師は戸籍係と電話でやりあった。監察医制度が施行されて十年ぐらいしかたっていなかったころだったから、医師の中にも知らない人はいたのである。医師は執拗《しつよう》に受理するように迫った。
それには、わけがあった。手術中に患者が腹腔内出血で急死したのである。廊下で待っている夫に、奥さんを自分のミスのため死なせてしまったと、医師は素直に言えなかったのである。そこで、これを隠蔽するため、患者の前腕にペニシリン・テストの皮内注射をしたのち、上腕部肩ぐちにペニシリンを筋注して、体裁のよいショック死に置き換えていたのであった。
しかし、ペニシリン・ショック死は異状死体、この場合は医療事故として警察に届出の義務があった。事実を隠蔽するために工作したが、自ら警察に届け出るはめになった。
警察官立ち会いで検死が行われた。注射部位を見ると、生きているときに注射をすれば、針の穴は赤褐色の凝血で埋まっている。ところが、注射針痕は淡黄色の皮下脂肪が見え生活反応はなかった。つまり死後に注射したものと判断された。死後、ペニシリンを注射してショックが起こるわけはない。その他、死斑が少なく貧血状態で、腹部には波動があり、腹腔内出血を思わせた。
立会官は直ちに、事件の概要を検事に連絡した。結局、検事の指揮下で司法解剖が行われ、子宮穿孔による腹腔内出血、医療過誤が明らかになった。医師の業務上過失致死、さらに事実を置き換えようとした工作もまた罪の対象となった。
医師にとって必要なのは、手術に際し万全を尽くすことであり、その結果不幸な事態が生じたら、今度はそれに適切に対応したか否かが問題で、隠蔽工作などもってのほかである。医師には医師のモラルがあり、誇りがある。しかし、このような医師の出現によって医師全体の評価を低下させ、また自分の心の中に大切に築き上げてきたものが壊されていくような、怒りと不快感を禁じえない事件であった。
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