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食味歳時記34

时间: 2020-04-20    进入日语论坛
核心提示:実  る04 村松が梢風という文士は、若い時に結婚し、名を成す前に、かなり、貧乏な生活をしてたのである。前にも書いた、私と
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実  る04

 村松が梢風という文士は、若い時に結婚し、名を成す前に、かなり、貧乏な生活をしてたのである。
前にも書いた、私と空腹美味否定論を闘わした友人は、三田の文科に学び、梢風と親しく、その貧乏時代も、よく知ってた。
「梢風の家で食わされたサンマ、あんなウマいサンマを、食ったことないね」
と、度々、私に語った。
その友人は、富家の息子で、家では、あまり、サンマなぞ、食わなかったのだろう。そして、ある日の午前に、梢風を訪れ、文芸談に熱中して、午食の時間になったのも、忘れた。彼は梢風を誘って、食事に出るつもりだったのである。
その頃の梢風の家は、見る影もない、貧弱な小屋で、細君と二人暮しだった。その細君というのが、良人と話に夢中になってる友人の前に、いかにも恥かしそうに、
「こんなもの、ほんとに、失礼なんでございますけど……」
というようなことをいって、焼きたてのサンマと、炊きたての飯の貧しい膳を、ささげてきたのだそうである。
それを食べて、友人は驚異的美味を、発見したのである。サンマとは、これほどウマい魚かと驚き、熱い飯とひどく調和することに驚き、少食の彼が、三椀を替えたというのである。
「腹がへってたんだろう」
と、私はヒヤかした。
「いや、おれは、滅多に、腹がへらない男なんだ。それなのに……」
「じゃァ、梢風の家は、目黒にあったんだろう」
落語の�目黒のサンマ�にかけて、私は、再びヒヤかした。事実、梢風の家は、目黒でなくても、そんな郊外だったので、結局、笑い話になった。
しかし、私は、その時のサンマは、ほんとにウマかったろうと、想像するのである。
サンマなんて、海から上ったのを、すぐ食べなければという魚ではないし、料理法といって、特にむつかしいことはない。煮物は上手でも、焼き魚は不得手というような奥さんもいるが、サンマだけは黒焦げにしても、食べられるのだから、技術を要さない。梢風の新妻も、べつに、苦心はしなかったろう。そして、大根おろしを添えるぐらいのことは、知ってたろう。
それに、来客のために、飯を炊いて、熱いのを出したのも、サンマと調和したのだろう。ウナギの蒲焼と同様、脂肪の多い魚には、冷飯は向かない。それよりも、私の友人は、話に時移るのも忘れて、空腹だったのも、知らなかったのだろう。
まったく、サンマなぞというものは、空腹を待つべきである。空腹美味論を持ち出さずとも、あの多脂肪の魚は、胃が健やかになる秋に、向いてるのだろう。
サンマの味も、形も、どう考えたって、高級な魚と思えない。また、値段も安い。でも、そこが、親しみと愛嬌を感じさせ、焼く時のモーモーたる煙りも、一脈の滑稽味さえある。
しかし、あの煙りに食欲を催すには、私の胃袋は、衰え過ぎた。秋になれば、一度ぐらい、サンマを食いたくなるが、なるべく、あのすさまじい煙りを、嗅がない距離を隔てて、焼いてもらう。
その点、イワシも同様で、夏から秋へかけて、味がよくなることを知ってるが、そして、塩焼が一番と、わかってるが、煙りは、閉口である。
ずっと以前に、私は、九十九里浜の片貝に、一夏を送ったことがあるが、イワシの名所であって、実に沢山獲れる。獲れたイワシを、砂浜の砂の中に埋めて、多量の潮水を、上からそそぐ。何のためかと、疑ったが、それは潮水の蒸発によって、砂中のイワシが冷却するので、短時間の冷蔵庫の役をするものとわかった。
それにしても、毎日、イワシばかり食わされて、私は、すっかり飽きてしまった。そして、イワシ網の中に混ってくるアジや、カレイや、その他の魚を物色した。それらは、どれも、ウマかった。
しかし、土地の人は、そういう魚に、見向きもしないのである。
「やはり、イワシですねえ。朝から食ってても、飽きないんですよ」
懇意になった、土地の呉服屋の主人が、そういった。
その時は、腑に落ちなかったけれど、後になって、わかるような気がした。片貝の人は、イワシの真味というものを、知ってるのだろう。イワシという一つの魚に限って、非常な食通なのだろう。他の魚では、その真味に、到達できないのだろう。
変ったものばかり漁《あさ》るのが、食いしん坊の道ではないと、思い当るのである。
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