近頃の新聞に、アメリカで、醤油が大変賞用されると、出ていたが、私は驚かなかった。
今から四十年も前に、アメリカにいた私の友人は、雇入れた女中が、醤油の盗み飲みをして困ると、語ってた。それも、生《き》のままの醤油を、盗み飲みするというのだから、よほど好きだったのだろう。何か、醤油の味が、アメリカ人の舌に合うのだろう。
でも、フランス人だって、ずいぶん醤油の味を解した。パリのマドレーヌ寺院の近くに、世界の珍味屋のような店があり、そこで、二合ビン入りの醤油を、売ってた。値段は高かったが、小豆島製の醤油で、味はなかなかよかった。私たちはそれを、スキヤキにする時に用いるのだが、フランス人の友人でも、アトリエへくるモデルのような女でも、醤油の味を悪くいうものはなかった。
しかし、何しろ、値段が高いので、スキヤキをするにも、鍋の中へ醤油を入れず、つけ醤油にして食うことを、考えついた。鍋といっても、フライ・パンであるが、その中で、肉やネギ(日本風のネギも、ポアローといって、八百屋で売ってる)をイタめて、醤油をつけて、食うのである。この方が味もよく、醤油のウマさもわかった。ポアローの代りに、サラダ用のクレッソンにすると、大変ウマかった。フランス人も、それを好んだ。