越後屋《えちごや》という店は、寛政年間から続いていて、今が八代目だそうだが、実にガンコに伝統を守り、またガンコな商売をしてる。
予約註文の品物しか売らない。主人と家族だけで、手づくりの菓子だから、沢山できないのだろう。店に看板を出さず、菓子商の構えもしてない。商人でなく、職人が菓子を頒けるといった様子で、東京の一部の茶人を顧客としてる。
こんな店が今の東京にあるのも、面白いと思うが、京都の菓子に対し、江戸の菓子の誇りを残してる唯一の店ではないのか。東京の和菓子は堕落したが、江戸の菓子は案外水準が高く、材料も京都とちがって、関東に仰いでる点も興味がある。製法も京菓子より、質実な風がある。
この店の水羊羹は絶品と考えるが、秋の菓子も栗や長芋を用いたネリキリが自慢らしい。
そして栗も貯蔵品を用いて、季節より早く売り出すことをせず、シュンを待つという態度が、古風でよろしい。
代々の主人が、越後屋平七を名乗るそうだが、古いノレンをきびしく守っている。
文化財の指定を受ける資格があるだろう。