蚊の目玉よりも集めやすく、しかも膨大な未開発の食糧資源、プランクトン。漂流した人びとは、水はあっても、魚をつかまえる手だてがなくて餓死することがある。プランクトンをたべることを知っていたら、プランクトンが、海面のいたるところにいることを知っていたら、助かったろうに。
こまかくて目にとまらないような、この生物も、その正体は小さなエビやカニの仲間や海藻類なのだから、栄養満点の食品である。プランクトン・ネットがなくてもシャツをひきさいて、適当な工夫をした網でつかまえることができる。女性のナイロンストッキングは、絶好のプランクトン採集具として使えるだろう。
ポリネシアの海で、小舟の後にプランクトン・ネットをひきずっていた。細かい目の捕虫網の枠に引き網をつけた吹き流しのようなものである。袋の先についた金具のネジをゆるめると、網で海水をこしてたまったプランクトンが、どろどろと流れ出すようなしかけになっている。フォルマリンの入ったビンへプランクトンを移す寸前に、ちょっと待ったと手をのばし、標本の一部を横取りして、口に入れてみた。ズルズルとして、舌にはたよりがないが、のみくださずにかんでみると味はよい。もずくのような磯のにおいがした。酢のものにしたらオツな料理になるだろう。
「コンチキ号探検記」によると、小さなエビジャコの類のプランクトンは、キャビアやカキのような味がするという。
また、伊谷さんと東さんのはなし。夜二人がかりで、タンガニイカ湖のプランクトンを集めた。一人が石油ランプを持って水のなかをあるく。光をしたって集まってきたプランクトンは、ランプが移動するにつれて、これについて動く。もう一人が絹の捕虫網でもって、プランクトンの群れをすくう。岸を三十メートルもひくと、捕虫網の底に五合はたまったそうだ。ショウガ醤油で煮ると、アミのつくだにの味になる。いや、日本のアミのつくだによりもうまいとのことだ。
タンガニイカ湖畔で二年間をすごした東さんによると、プランクトンにも、|しゅん《ヽヽヽ》があるそうだ。雨季のはじめが、プランクトンの|しゅん《ヽヽヽ》である。
プランクトンのように、すばらしい食糧資源がほとんど利用されていないのは、ふしぎである。採集も簡単であるのに、目にとまらないというだけの理由で、人類の食卓から無視されつづけていたのだ。もっとも、プランクトンを乱獲して、魚が少なくなっても困るので、プランクトンの宣伝はひかえめにしておいたほうがよいかもしれない。
こまかくて目にとまらないような、この生物も、その正体は小さなエビやカニの仲間や海藻類なのだから、栄養満点の食品である。プランクトン・ネットがなくてもシャツをひきさいて、適当な工夫をした網でつかまえることができる。女性のナイロンストッキングは、絶好のプランクトン採集具として使えるだろう。
ポリネシアの海で、小舟の後にプランクトン・ネットをひきずっていた。細かい目の捕虫網の枠に引き網をつけた吹き流しのようなものである。袋の先についた金具のネジをゆるめると、網で海水をこしてたまったプランクトンが、どろどろと流れ出すようなしかけになっている。フォルマリンの入ったビンへプランクトンを移す寸前に、ちょっと待ったと手をのばし、標本の一部を横取りして、口に入れてみた。ズルズルとして、舌にはたよりがないが、のみくださずにかんでみると味はよい。もずくのような磯のにおいがした。酢のものにしたらオツな料理になるだろう。
「コンチキ号探検記」によると、小さなエビジャコの類のプランクトンは、キャビアやカキのような味がするという。
また、伊谷さんと東さんのはなし。夜二人がかりで、タンガニイカ湖のプランクトンを集めた。一人が石油ランプを持って水のなかをあるく。光をしたって集まってきたプランクトンは、ランプが移動するにつれて、これについて動く。もう一人が絹の捕虫網でもって、プランクトンの群れをすくう。岸を三十メートルもひくと、捕虫網の底に五合はたまったそうだ。ショウガ醤油で煮ると、アミのつくだにの味になる。いや、日本のアミのつくだによりもうまいとのことだ。
タンガニイカ湖畔で二年間をすごした東さんによると、プランクトンにも、|しゅん《ヽヽヽ》があるそうだ。雨季のはじめが、プランクトンの|しゅん《ヽヽヽ》である。
プランクトンのように、すばらしい食糧資源がほとんど利用されていないのは、ふしぎである。採集も簡単であるのに、目にとまらないというだけの理由で、人類の食卓から無視されつづけていたのだ。もっとも、プランクトンを乱獲して、魚が少なくなっても困るので、プランクトンの宣伝はひかえめにしておいたほうがよいかもしれない。
伊谷さんや東さんが、いつもゴキブリやゲジゲジ虫のたぐいばかりたべていると思われたら気の毒なので、ご両人にかわって弁明しておこう。お二人とも、家庭では実にうまい奥さんの手料理を楽しんでいるのである。
たとえば、マドリッド大学に留学していた東夫人は、日本における数少ないスペイン料理のエキスパートだ。東家でたびたびごちそうになった献立のなかから、わたしが伝授をうけた手軽にできるスペイン料理三種のつくりかたを紹介しよう。
たとえば、マドリッド大学に留学していた東夫人は、日本における数少ないスペイン料理のエキスパートだ。東家でたびたびごちそうになった献立のなかから、わたしが伝授をうけた手軽にできるスペイン料理三種のつくりかたを紹介しよう。
ガスパッチョ——火を使わない野菜スープ。
南スペインの料理である。昼のあついときに、食欲をそそるによい。
材料——トマト、キュウリ、ピーマン。
南スペインの料理である。昼のあついときに、食欲をそそるによい。
材料——トマト、キュウリ、ピーマン。
トマト、キュウリ、ピーマンを薄く切る。パセリのみじん切りを加えてもよい。コップに氷を入れて、そのうえに切った野菜をのせておく。大きな容器に人数分だけの水を入れ、これに塩と酢を同量入れて味付けをする。味付けをした水に、コショウ、好みによってはガーリックパウダーをふりこみ、サラダオイルを数滴入れ、味をととのえてかき回す。冷たいスープのことゆえ、サラダオイルの量が多いと、表面に浮んでギラギラと油ぎって、しつこい感じがするようになるので御用心。
刻み野菜と氷の入ったコップに、この味付けした水を入れて、レモンの輪切り、パンの小片(クルトンではなく生パン)をうかしたら、それでおしまい。あとはたべるだけ。
野菜をミキサーにかけて、ポタージュ風にすることもある。このスープは、野菜の量の配分でもって味がいろいろと変化する。氷が溶けるので、味付けをいくぶん濃い目にする必要がある。冷たいものなので、多量にたべると腹がガブガブになって、あとの料理が入らなくなるから、コップ一杯が適量である。
不精者向きの、なんとも手のかからないスープである。
刻み野菜と氷の入ったコップに、この味付けした水を入れて、レモンの輪切り、パンの小片(クルトンではなく生パン)をうかしたら、それでおしまい。あとはたべるだけ。
野菜をミキサーにかけて、ポタージュ風にすることもある。このスープは、野菜の量の配分でもって味がいろいろと変化する。氷が溶けるので、味付けをいくぶん濃い目にする必要がある。冷たいものなので、多量にたべると腹がガブガブになって、あとの料理が入らなくなるから、コップ一杯が適量である。
不精者向きの、なんとも手のかからないスープである。
トルティーア・ディ・バタタ——ジャガイモのオムレツ。
材料——卵、ジャガイモ。
材料——卵、ジャガイモ。
皮をむいたジャガイモを手で持ち、宙でもってそぎ切りにする。そのあと、水にちょっとさらして、あく抜きをする。フライパンのうえにひろげたとき、底面いっぱいにしきつめるくらいの量のジャガイモが一回ぶん。
油をフライパンにたっぷりひいて、ジャガイモをいためる。油をケチしたら、ジャガイモがフライパンにひっつくので御用心。塩をふりながら、弱火で十分から十五分くらいかけて、ジャガイモのしんまで火が通るよう炒める。
できあがったジャガイモが、フライパンいっぱいにひろがるようにして、このうえに卵に塩を入れてかきまぜたものを流し込む。
ジャガイモの量が多いので、かなりボリュームのある食物である。ピクニックの弁当などによく使われるそうだ。スペイン以外の国では、トマト、グリーンピースを入れたオムレツを、スパニッシュ・オムレツと称しているが、東夫人によると、スペインでは、そんな料理を見たことがないそうだ。
油をフライパンにたっぷりひいて、ジャガイモをいためる。油をケチしたら、ジャガイモがフライパンにひっつくので御用心。塩をふりながら、弱火で十分から十五分くらいかけて、ジャガイモのしんまで火が通るよう炒める。
できあがったジャガイモが、フライパンいっぱいにひろがるようにして、このうえに卵に塩を入れてかきまぜたものを流し込む。
ジャガイモの量が多いので、かなりボリュームのある食物である。ピクニックの弁当などによく使われるそうだ。スペイン以外の国では、トマト、グリーンピースを入れたオムレツを、スパニッシュ・オムレツと称しているが、東夫人によると、スペインでは、そんな料理を見たことがないそうだ。
ポィヨ・コン・リモン——ニワトリのレモン煮。
材料——骨つきのニワトリの股あるいは手羽、レモン、タマネギ、ニンニク。
材料——骨つきのニワトリの股あるいは手羽、レモン、タマネギ、ニンニク。
骨つきのニワトリのブツ切りに塩をふっておく。フライパンに油をひいて、ニンニクのミジン切りをいためたのち、ニワトリを入れて、皮がカリカリになって、焦げ目がつくまで焼く。
厚手のナベにレモンの汁をしぼりこみ、タマネギのミジン切りを加え、ここへ焼いたニワトリを入れて煮る。水は一切使わない。レモンの果汁と、タマネギから出る水だけで煮るのだ。四人分で、レモン一個を使う。ナベにはフタをして、弱火で十分から十五分程度煮るが、その途中で一度ニワトリをひっくりかえす。レモンのにおいが肉にしみて、それでいてあまり酸っぱくない。プレーンな味の料理である。だいたい、西洋料理でのニワトリの使いかたは、見てくればかりで、味の点ではどうかと思う皿が多いが、このニワトリのレモン煮は傑作である。
厚手のナベにレモンの汁をしぼりこみ、タマネギのミジン切りを加え、ここへ焼いたニワトリを入れて煮る。水は一切使わない。レモンの果汁と、タマネギから出る水だけで煮るのだ。四人分で、レモン一個を使う。ナベにはフタをして、弱火で十分から十五分程度煮るが、その途中で一度ニワトリをひっくりかえす。レモンのにおいが肉にしみて、それでいてあまり酸っぱくない。プレーンな味の料理である。だいたい、西洋料理でのニワトリの使いかたは、見てくればかりで、味の点ではどうかと思う皿が多いが、このニワトリのレモン煮は傑作である。