軍隊用語で|辛味入汁掛飯《からみいりしるかけはん》とは、カレーライスのことである。一世代前の人は、ライスカレーと呼ぶことが多い。カレーライスとライスカレーの差異は何かということが、よく論議の対象となったが、つまるところ家庭および一膳飯屋でつくる辛味入汁掛飯がライスカレーで、レストランでたべるのが、カレーライスということであるらしい。
一世代前の人びとには、カレーライスはハイカラな洋食で、ごちそうであるという観念がある。これが、山でのごちそう、カレーライスといった現状にまで、ひきつがれるのだろう。
ところで、日本のカレーライスは、実はフランスのカレーオリとも、インドのカレーともちがった、日本独特の発達をとげた日本風洋食である。
フランス料理では、メシはカレーのそえもの程度の少量であり、盛りつけのさいカレーソースの池をめぐる堤のようにメシをあしらったりする。インド風だったらスープはさらっとしており、粉を入れてねばりをだすことはない。日本のカレーライスは、皿いっぱいのメシにトロリとしたスープをかけ、そのなかに入っている肉は、わりと少なく、そえものに、紅しょうが、福神漬、ラッキョウがつき、ウースターソースをだぶだぶとついで食ってもよろしいということになっている。
男たちがメシをつくろうとするとき、まず考える献立が、カレーライスである。山登りのパーティーや、海外での探検調査隊など、料理人のいない男ばかりの生活に参加するとなると、二日に一食は、カレーライスを食わされる破目になるのがふつうだ。
食物に無頓着な人ほど、カレーライスですまそうとする傾向があるようだ。
南太平洋で調査をしていたとき、友人の植物学者が、一人で隣りの島ヘ一週間ほどの調査旅行に出かけた。そのあと調味料を調べてみると、カレー粉がごっそりなくなっている。いったい、こんなに多量のカレー粉をなにに使うんだろうといぶかしみ、植物学者氏が帰ってきてから、たずねてみると、「あれは全部使っちゃったよ」との答え。よくよく聞いてみると、肉であれ野菜であれ、なんでもかでも、カレー汁にしてしまい、朝、昼、晩ともカレーライスで一週間暮していたという。
カレー粉の強烈なにおいと刺激性の味で、ものの味を一切消してしまい、うまいのか、まずいのかわからないたべものにしたてあげるのは、料理のめんどうな人がよくやるごまかしの手だが一週間毎食カレーで暮した剛の者は、インドで暮している人以外にあまりいないだろう。
だが、本当はカレーも、ものの味を生かす補助役のソースであるべきである。もともとカレーとは、インドのタミール語でソースを意味することば“カリ”からきているとのことだ。
世のなかには、コショウの実から、コショウがとれるように、カレーの木というものがあって、そのカレーの実をつぶすと、あの黄色い粉末ができると信じている人がいるようだ。
日本や西欧では、カレー粉といったら、罐入りや袋入りの即製品が一般的で、各食品メーカーとも、各種香辛料の調合の割合は、社外秘のものものしい処方箋になっている。しかし、インドから東南アジア、東アフリカなど、インド商人の進出している地域では、カレー粉は、好みの調合で買えるようになっている。
インド人の乾物屋の店先は、大きな袋や樽に入れた各種のトウガラシ、白コショウ、黒コショウ、ジンジャー、シナモン、丁字、ターメリック、タイム、クミン、サフラン、ニクズクなどの香料がところせましと並んでいて、刺激性のにおいでみちみちている。ここで、粉末にした各種の香料を、薬研堀の七味トウガラシよろしく、店員に調合してもらうか、あるいは、粉末になっていない香料を買ってきて、家庭で好みの割合に香料を混ぜて、石臼でつぶして粉末とする。そこで、おのおの、わが家自慢のスペシャルカレーが出来あがるわけだ。カレー粉の黄色は、おもにターメリックの色だ。ターメリックはウコンともいい、その強烈な黄色は、昔は染料にまで使われた。市販のタクワンを黄色にそめるときに使われている。好みによっては、ターメリック、サフランを入れぬ、黄色くないカレーライスもある。トウガラシの多い、赤いカレーに、お目にかかったこともある。
インドでのカレーライスのつくり方は、みたことがないので、東アフリカに多く住む、インド人商人の家庭での料理法を記しておこう。
東アフリカのインド人は、前世紀に英領植民地経営の労働者として連れてこられた者が定着したケースが多く、国を出てから三世代くらいたっているので、あるいは本場のカレーとは違っているかもしれない。
まずヒツジ肉を骨つきのまま、ブツ切りにする。日本の肉屋のカレーライス用徳用肉のごとく、サイコロのように切ってある牛肉などは使わない。肉片の一つ一つが、骨つきステーキとして、皿のまんなかで、いばった顔をして置けるくらいの大きさに切る。ジャガイモは、皮をむいただけで、けっして切らない。ニンジン、タマネギなど野菜をやたらに入れることはしない。
深い鍋に、ヒツジ肉とジャガイモを入れて煮る。味付けは塩だけ。肉が充分やわらかくなった頃、好みの香辛料をミックスして家庭でつくったカレー粉を入れる。香辛料のなかでも、一番量が多いのは、何といっても、トウガラシである。このまま、弱火で二時間くらい煮こんで、カレー汁ができ上る。長時間煮こんで、さまざまの香辛料がよくなれあって、一体となった味を出すのがコツである。ヒツジ肉のほか、皮つきのトリ肉のブツ切りも使う。ヒンズー教徒は、牛をたべないので、ビーフカレーはない。
カレーライスにするときは、メシがいるわけだが、ライスは、これはこれで独立した一皿の料理である。コメは、丁字、あるいは肉桂の香料と油を入れてたく。たべるとき丁字はそのままたべ、木片のような肉桂は、皿のはしによせておく。
カレーライスにするほか、カレーには、チャパティをそえることが多い。簡単なチャパティのつくり方は、小麦粉をよくこねて、団子状にした一塊りをとって麺棒で円盤状にのばせるだけ広げて、紙のように薄くする。フライパンに油を少量ひいて、片面に焦げ目がつくかつかぬ程度に焼く。
カレーをたべるとき、カレー汁は深い皿に入れてスプーンをそえて出す。カレーライスのときは、スプーンで、ライスの皿に好きなだけ汁をかけて、手づかみでたべる。油入りのポロポロしたメシに、さらりとしたカレー汁をかけたものを、手づかみで口に入れるのは、熟練を要する。下手をすると、口ヘもっていくまでに指の間から、メシツブがこぼれてしまう。
チャパティで、カレーをたべるときは、チャパティを引きちぎって、これを指先で折り重ね、中央の折目に人差指をさし入れて、親指と中指で両端をささえたもちかたをして、チャパティをスプーンのように使い、汁をすくいあげるようにして、口に入れるとたべやすい。肉は、骨つきの塊りのまま、むしゃぶりつく。
カレーのそえものとしては、タマネギ、ニンジン、トマトを生のまま薄切りにした小皿が出る。これに塩をかけ、ライムをしぼりこむか、酢をかけて、サラダとしてたべる。ちゃんとしたごちそうの場合には、マンゴーのピックルスがそえられる。これは、思い出しただけでも、つばのでるほど酸っぱい代物である。
ナイロビの町など都会の西洋人向けの高級カレー料理店では、カレーを注文すると、マンゴーのピックルスのほか、ココヤシの脂肪をすりおろしたもの、バナナの輪切り、タマネギ、ニンジン、トマトのみじん切り、種々の酢漬野菜など十数種のそえものを出してくれる。このなかから好みのものを小さじでとってカレーライスのうえにかけてたべる。
東アフリカのバンツー系農耕民の間でも、一種のカレーライスがある。これは、アラブ風料理の影響をうけて、最初に肉、野菜を油いためして用いる。その地方で入手できる野菜の種類によってことなるが、タマネギ、トマト、クッキング・バナナなどが用いられる。何種類かの野菜を油いためにして、つぎに肉を入れて、さらにいためる。これに水をそそぎ、塩味をつけたうえに、トウガラシの粉、その他の香料をほうりこむ。インド人のカレーのように、多種の香料をミックスすることはない。ときには、スワヒリ語でビンザリと呼ばれる市販のカレー粉を入れることもある。
肉をいためないインド風カレーは、汁にうまみが残り、最初肉をいためておく料理法では、いためられた肉の表面からエキスが逃げないので、肉のうまさが味わえる。
さて、手軽につくれるトロリとした日本風カレーの上等品のつくり方。ニンニク、ショウガなしに、とくにニンニクなしに、トロリとしたカレーのうまいものはつくれない。ニンニク、ショウガ、タマネギをみじん切りにして、深いナベを用いて、油をたっぷり使っていためる。次に、ここに、ニワトリの骨つき肉、あるいは、牛肉、ブタ肉を入れて、肉に焦げ目がつくまで焼く。肉には、あらかじめ、塩、コショウをしておく。肉が焼けてきたら、水を加え、大きく切ったジャガイモ、ニンジンを入れ、インスタントスープの素を溶かして煮こむ。できれば、これに月桂樹の葉を一枚ほうりこむ。ニンジン、ジャガイモは、肉といっしょにいためておいてもよい。
熱したフライパンに小麦粉を入れ、ハシで手早くかきまわし、狐色になり香ばしいにおいがでてきたところで火を止めて、カレー粉を加えてかきまぜ、カレー粉と、炒った小麦粉のミックスをつくる。あるいは、バターで小麦粉をいためて、火を止めてからカレー粉を入れたルーのようにしてもよい。ここに、ナベのスープを少しずつ入れて、よくかきまぜ、ツブツブができないようにしてから、またナベにもどす。
こうして、出来あがったカレー汁で気長に煮こんだあと、塩、コショウを入れて味をととのえる。粉チーズをふりこむか、固形チーズを薄く切って加えると味に深みがでる。ナベをおろすちょっと前に、カレー粉をふたたび、ぱらぱらとふりかける。インド式に強烈な香辛料を石臼でくだいて使う場合には、長く煮ても、香りがおとろえないが、機械で細かな粒子に|搗《つ》いてある市販のカレー粉を使うときには、長く煮るとどうしても気がぬけた香りになってしまう。そこで、最後にまたカレー粉を入れなおすことが大切だ。このとき、好みの辛さに仕立てあげるのだが、あなたが痔疾ではなく、また、子どもに食わせる必要がなかったら、カレーは思いっきり辛くしてたべることだ。
野外で手軽に、カレーをつくるためには、あらかじめ、カレールーを用意しておくことだ。簡単なルーのつくり方は、ラードあるいはヘットをたっぷり使って、ニンニク、ショウガをいためたうえに、小麦粉を入れ、泡立ったところヘカレー粉を入れて火を止める。また、塩、コショウをした肉をいためて、最初からルーにほうりこんでおいてもよい。動物性の油脂を使っているので、涼しい季節ならすぐかたまる。これをポリ袋にでも入れておき、いざ料理というときに、材料をスープ煮したうえに溶かしこんだらよい。
山行のときなど、長期にわたる肉の保存に、カレーを使うのもよい。塩をした肉に、カレー粉をたっぷりまぶして、多量の油でいためるというよりは、油で煮こむようにする。ときどきカレー粉をおぎなって、肉が小さく縮み、カラカラになるまで火にかけておく。このとき、カレー粉をこげつかせると、毒ガスのように刺激性の煙がでて、これにやられるとセキ、ナミダがひっきりなしにでるので御用心。火からおろしたら、紙のうえにならべて油をすいとり、半日くらい干すとよい。このようにしておいた肉は、一カ月くらいおいても味がかわらない。そのまま、つまみにかじってもよく、カレーライスにほうりこんでもよい。
カレーライスにだけカレー粉を使うのが芸じゃない。このスパイスのかたまりのようなものを上手に応用すると、いくらでも平凡な料理を、手をかえた味でたべさすことができる。たとえば、魚のムニエルをつくるとき、小麦粉にカレー粉を加えるとか、魚、貝をフライにするときに、カレー粉を小麦粉にまぶして使うとよい。
カレー粉は、皮の青い魚によくあい、その生ぐささを消す。サバの皮をむき、生ずしのようにつくったものを、酢と塩でしめておき、サラダオイルにカレー粉、化学調味料をかきまぜたものをかけて、しばらくおくと、うまいマリネードができる。
また、フレンチドレッシングにカレー粉を入れるのもよい。だいたいにおいて、西洋料理風の料理にカレー粉を使うときには、カレー粉の量をひかえ目にして、辛くするというよりは、香りをつけるためにカレーを使うようにしておいたら、まちがいがない。
一世代前の人びとには、カレーライスはハイカラな洋食で、ごちそうであるという観念がある。これが、山でのごちそう、カレーライスといった現状にまで、ひきつがれるのだろう。
ところで、日本のカレーライスは、実はフランスのカレーオリとも、インドのカレーともちがった、日本独特の発達をとげた日本風洋食である。
フランス料理では、メシはカレーのそえもの程度の少量であり、盛りつけのさいカレーソースの池をめぐる堤のようにメシをあしらったりする。インド風だったらスープはさらっとしており、粉を入れてねばりをだすことはない。日本のカレーライスは、皿いっぱいのメシにトロリとしたスープをかけ、そのなかに入っている肉は、わりと少なく、そえものに、紅しょうが、福神漬、ラッキョウがつき、ウースターソースをだぶだぶとついで食ってもよろしいということになっている。
男たちがメシをつくろうとするとき、まず考える献立が、カレーライスである。山登りのパーティーや、海外での探検調査隊など、料理人のいない男ばかりの生活に参加するとなると、二日に一食は、カレーライスを食わされる破目になるのがふつうだ。
食物に無頓着な人ほど、カレーライスですまそうとする傾向があるようだ。
南太平洋で調査をしていたとき、友人の植物学者が、一人で隣りの島ヘ一週間ほどの調査旅行に出かけた。そのあと調味料を調べてみると、カレー粉がごっそりなくなっている。いったい、こんなに多量のカレー粉をなにに使うんだろうといぶかしみ、植物学者氏が帰ってきてから、たずねてみると、「あれは全部使っちゃったよ」との答え。よくよく聞いてみると、肉であれ野菜であれ、なんでもかでも、カレー汁にしてしまい、朝、昼、晩ともカレーライスで一週間暮していたという。
カレー粉の強烈なにおいと刺激性の味で、ものの味を一切消してしまい、うまいのか、まずいのかわからないたべものにしたてあげるのは、料理のめんどうな人がよくやるごまかしの手だが一週間毎食カレーで暮した剛の者は、インドで暮している人以外にあまりいないだろう。
だが、本当はカレーも、ものの味を生かす補助役のソースであるべきである。もともとカレーとは、インドのタミール語でソースを意味することば“カリ”からきているとのことだ。
世のなかには、コショウの実から、コショウがとれるように、カレーの木というものがあって、そのカレーの実をつぶすと、あの黄色い粉末ができると信じている人がいるようだ。
日本や西欧では、カレー粉といったら、罐入りや袋入りの即製品が一般的で、各食品メーカーとも、各種香辛料の調合の割合は、社外秘のものものしい処方箋になっている。しかし、インドから東南アジア、東アフリカなど、インド商人の進出している地域では、カレー粉は、好みの調合で買えるようになっている。
インド人の乾物屋の店先は、大きな袋や樽に入れた各種のトウガラシ、白コショウ、黒コショウ、ジンジャー、シナモン、丁字、ターメリック、タイム、クミン、サフラン、ニクズクなどの香料がところせましと並んでいて、刺激性のにおいでみちみちている。ここで、粉末にした各種の香料を、薬研堀の七味トウガラシよろしく、店員に調合してもらうか、あるいは、粉末になっていない香料を買ってきて、家庭で好みの割合に香料を混ぜて、石臼でつぶして粉末とする。そこで、おのおの、わが家自慢のスペシャルカレーが出来あがるわけだ。カレー粉の黄色は、おもにターメリックの色だ。ターメリックはウコンともいい、その強烈な黄色は、昔は染料にまで使われた。市販のタクワンを黄色にそめるときに使われている。好みによっては、ターメリック、サフランを入れぬ、黄色くないカレーライスもある。トウガラシの多い、赤いカレーに、お目にかかったこともある。
インドでのカレーライスのつくり方は、みたことがないので、東アフリカに多く住む、インド人商人の家庭での料理法を記しておこう。
東アフリカのインド人は、前世紀に英領植民地経営の労働者として連れてこられた者が定着したケースが多く、国を出てから三世代くらいたっているので、あるいは本場のカレーとは違っているかもしれない。
まずヒツジ肉を骨つきのまま、ブツ切りにする。日本の肉屋のカレーライス用徳用肉のごとく、サイコロのように切ってある牛肉などは使わない。肉片の一つ一つが、骨つきステーキとして、皿のまんなかで、いばった顔をして置けるくらいの大きさに切る。ジャガイモは、皮をむいただけで、けっして切らない。ニンジン、タマネギなど野菜をやたらに入れることはしない。
深い鍋に、ヒツジ肉とジャガイモを入れて煮る。味付けは塩だけ。肉が充分やわらかくなった頃、好みの香辛料をミックスして家庭でつくったカレー粉を入れる。香辛料のなかでも、一番量が多いのは、何といっても、トウガラシである。このまま、弱火で二時間くらい煮こんで、カレー汁ができ上る。長時間煮こんで、さまざまの香辛料がよくなれあって、一体となった味を出すのがコツである。ヒツジ肉のほか、皮つきのトリ肉のブツ切りも使う。ヒンズー教徒は、牛をたべないので、ビーフカレーはない。
カレーライスにするときは、メシがいるわけだが、ライスは、これはこれで独立した一皿の料理である。コメは、丁字、あるいは肉桂の香料と油を入れてたく。たべるとき丁字はそのままたべ、木片のような肉桂は、皿のはしによせておく。
カレーライスにするほか、カレーには、チャパティをそえることが多い。簡単なチャパティのつくり方は、小麦粉をよくこねて、団子状にした一塊りをとって麺棒で円盤状にのばせるだけ広げて、紙のように薄くする。フライパンに油を少量ひいて、片面に焦げ目がつくかつかぬ程度に焼く。
カレーをたべるとき、カレー汁は深い皿に入れてスプーンをそえて出す。カレーライスのときは、スプーンで、ライスの皿に好きなだけ汁をかけて、手づかみでたべる。油入りのポロポロしたメシに、さらりとしたカレー汁をかけたものを、手づかみで口に入れるのは、熟練を要する。下手をすると、口ヘもっていくまでに指の間から、メシツブがこぼれてしまう。
チャパティで、カレーをたべるときは、チャパティを引きちぎって、これを指先で折り重ね、中央の折目に人差指をさし入れて、親指と中指で両端をささえたもちかたをして、チャパティをスプーンのように使い、汁をすくいあげるようにして、口に入れるとたべやすい。肉は、骨つきの塊りのまま、むしゃぶりつく。
カレーのそえものとしては、タマネギ、ニンジン、トマトを生のまま薄切りにした小皿が出る。これに塩をかけ、ライムをしぼりこむか、酢をかけて、サラダとしてたべる。ちゃんとしたごちそうの場合には、マンゴーのピックルスがそえられる。これは、思い出しただけでも、つばのでるほど酸っぱい代物である。
ナイロビの町など都会の西洋人向けの高級カレー料理店では、カレーを注文すると、マンゴーのピックルスのほか、ココヤシの脂肪をすりおろしたもの、バナナの輪切り、タマネギ、ニンジン、トマトのみじん切り、種々の酢漬野菜など十数種のそえものを出してくれる。このなかから好みのものを小さじでとってカレーライスのうえにかけてたべる。
東アフリカのバンツー系農耕民の間でも、一種のカレーライスがある。これは、アラブ風料理の影響をうけて、最初に肉、野菜を油いためして用いる。その地方で入手できる野菜の種類によってことなるが、タマネギ、トマト、クッキング・バナナなどが用いられる。何種類かの野菜を油いためにして、つぎに肉を入れて、さらにいためる。これに水をそそぎ、塩味をつけたうえに、トウガラシの粉、その他の香料をほうりこむ。インド人のカレーのように、多種の香料をミックスすることはない。ときには、スワヒリ語でビンザリと呼ばれる市販のカレー粉を入れることもある。
肉をいためないインド風カレーは、汁にうまみが残り、最初肉をいためておく料理法では、いためられた肉の表面からエキスが逃げないので、肉のうまさが味わえる。
さて、手軽につくれるトロリとした日本風カレーの上等品のつくり方。ニンニク、ショウガなしに、とくにニンニクなしに、トロリとしたカレーのうまいものはつくれない。ニンニク、ショウガ、タマネギをみじん切りにして、深いナベを用いて、油をたっぷり使っていためる。次に、ここに、ニワトリの骨つき肉、あるいは、牛肉、ブタ肉を入れて、肉に焦げ目がつくまで焼く。肉には、あらかじめ、塩、コショウをしておく。肉が焼けてきたら、水を加え、大きく切ったジャガイモ、ニンジンを入れ、インスタントスープの素を溶かして煮こむ。できれば、これに月桂樹の葉を一枚ほうりこむ。ニンジン、ジャガイモは、肉といっしょにいためておいてもよい。
熱したフライパンに小麦粉を入れ、ハシで手早くかきまわし、狐色になり香ばしいにおいがでてきたところで火を止めて、カレー粉を加えてかきまぜ、カレー粉と、炒った小麦粉のミックスをつくる。あるいは、バターで小麦粉をいためて、火を止めてからカレー粉を入れたルーのようにしてもよい。ここに、ナベのスープを少しずつ入れて、よくかきまぜ、ツブツブができないようにしてから、またナベにもどす。
こうして、出来あがったカレー汁で気長に煮こんだあと、塩、コショウを入れて味をととのえる。粉チーズをふりこむか、固形チーズを薄く切って加えると味に深みがでる。ナベをおろすちょっと前に、カレー粉をふたたび、ぱらぱらとふりかける。インド式に強烈な香辛料を石臼でくだいて使う場合には、長く煮ても、香りがおとろえないが、機械で細かな粒子に|搗《つ》いてある市販のカレー粉を使うときには、長く煮るとどうしても気がぬけた香りになってしまう。そこで、最後にまたカレー粉を入れなおすことが大切だ。このとき、好みの辛さに仕立てあげるのだが、あなたが痔疾ではなく、また、子どもに食わせる必要がなかったら、カレーは思いっきり辛くしてたべることだ。
野外で手軽に、カレーをつくるためには、あらかじめ、カレールーを用意しておくことだ。簡単なルーのつくり方は、ラードあるいはヘットをたっぷり使って、ニンニク、ショウガをいためたうえに、小麦粉を入れ、泡立ったところヘカレー粉を入れて火を止める。また、塩、コショウをした肉をいためて、最初からルーにほうりこんでおいてもよい。動物性の油脂を使っているので、涼しい季節ならすぐかたまる。これをポリ袋にでも入れておき、いざ料理というときに、材料をスープ煮したうえに溶かしこんだらよい。
山行のときなど、長期にわたる肉の保存に、カレーを使うのもよい。塩をした肉に、カレー粉をたっぷりまぶして、多量の油でいためるというよりは、油で煮こむようにする。ときどきカレー粉をおぎなって、肉が小さく縮み、カラカラになるまで火にかけておく。このとき、カレー粉をこげつかせると、毒ガスのように刺激性の煙がでて、これにやられるとセキ、ナミダがひっきりなしにでるので御用心。火からおろしたら、紙のうえにならべて油をすいとり、半日くらい干すとよい。このようにしておいた肉は、一カ月くらいおいても味がかわらない。そのまま、つまみにかじってもよく、カレーライスにほうりこんでもよい。
カレーライスにだけカレー粉を使うのが芸じゃない。このスパイスのかたまりのようなものを上手に応用すると、いくらでも平凡な料理を、手をかえた味でたべさすことができる。たとえば、魚のムニエルをつくるとき、小麦粉にカレー粉を加えるとか、魚、貝をフライにするときに、カレー粉を小麦粉にまぶして使うとよい。
カレー粉は、皮の青い魚によくあい、その生ぐささを消す。サバの皮をむき、生ずしのようにつくったものを、酢と塩でしめておき、サラダオイルにカレー粉、化学調味料をかきまぜたものをかけて、しばらくおくと、うまいマリネードができる。
また、フレンチドレッシングにカレー粉を入れるのもよい。だいたいにおいて、西洋料理風の料理にカレー粉を使うときには、カレー粉の量をひかえ目にして、辛くするというよりは、香りをつけるためにカレーを使うようにしておいたら、まちがいがない。