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ユーモアの鎖国04

时间: 2020-04-24    进入日语论坛
核心提示:果実私の家庭は複雑だった。といったら無責任な言葉になる。そこにもし私一人いなかったら、家の中はどれほど単純明朗になってい
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果実

私の家庭は複雑だった。といったら無責任な言葉になる。そこにもし私一人いなかったら、家の中はどれほど単純明朗になっていたかわからない。妻が四人変った、それだけで父の不幸は手一杯だったはずである。
その中で私は物書くことに熱中した。小学校の教科書より少女雑誌のほうが面白かったので、早くから投書などした。上級学校へ行かず銀行に就職し、受け取る給料は小遣いにして好きなことだけに精出す、親にとって迷惑な娘であった。
投書仲間十何人かで女性だけの同人詩誌「断層」を出したのは、私が十代の終りごろ、投稿詩の選者、福田正夫氏の指導に寄りかかって出来たことであった。毎月編集に集まる師の家で、詩と関係があるようでないような話も出る。未婚者がほとんどだったから、
「いいかい? 自分から落ちてはいけないよ。落ちた木の実は鳥もつつかない。枝の上で待つことだ。ああおいしそうだなあ、と思って人がそれをもぎとるまで」
聞いていて自分が、からだごと小枝の先で重くなるりんごのような気がした。
当時男女間の交際は戦後ほど自由を認められていなかったし、私の勤め先では職場結婚をゆるさなかった。身分制というものがはっきりしていて、男性は女性の上位にあった。万事ひかえ目にすることが女の美徳とされていたから、男より先に愛を打ちあけて成就《じようじゆ》する割合は現在よりずっと少なかったろう。
けれど師の言葉は、だから待て、と言うのではなかったと思う。ひとり実って、与えることをごく自然に待つ姿。どんなに心がひもじくても物乞いしてはならない愛というもの——師がこぶしを軽く上げて見せた、その高さにいまも目がとまる。不肖の弟子はかすかな風にも落ちてばかりいた。待つことは、しんぼうのいる、むつかしいことでもあった。
もし女性が結婚を目的にしなかったら、今よりずっと成長するだろう、と言った人がいたが。私もそうだろう、と思う。結婚しない、というのではなく、結婚をアテにして暮さないということである。
世の中が新しくなったというけれど、若い女性が働く余暇の大半を、昔と変らぬ花嫁修業的なことに当てているのはなぜだろうか。一通りのおけいこごとをして結婚を待つ、待ち方に古さを感じる。会社がそういう嫁入り前の女性を適当に使おうとするのであれば、使い方を変えさせるか、使われ方を自覚してかからなければならないだろう。
結婚式の豪華さはごく最新の現象である。いつか土曜日の、少し混み合っている湘南電車で珍しい情景を見た。
  出発[#「出発」はゴシック体]
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花嫁はいちばんすみの席を選んだ。
花婿がその隣に腰かけた。
それから互いにソッポを向いた。
 けれどまわりの人たちは
すっかり承知してしまった。
ついさっき
ふたりが婚礼をすませてきたことを。
 花嫁はちいさな花束を
両手で握りしめていたから。
花婿のボストンバッグは新しかったから。
まわりはこんでいたから。
 二等車の花嫁は質素だったから。
孔雀が羽をひろげたような
誇らしい花嫁ではなかったから。
 花嫁はかたく口をむすび
花婿はどうしようもない申し訳なさで
若く細い首を立てていた。
 二等車の客たちは
見て見ぬふりの視線を
ふたりにふりそそいだ。
どっさりふりそそいだ。
その祝福は言葉にも品物にもならなかった。
 車中に満ちていたのは
遠慮と恥ずかしさばかり。
 そこで花嫁と花婿が、ああ
どんなに発車の合図を待ったことか。
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