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ユーモアの鎖国05

时间: 2020-04-24    进入日语论坛
核心提示:銭湯人が寄り集まる場所には、たいていその中で目立つ人がいるものである。私が行く公衆浴場にも何人かのスターがいた。そのひと
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銭湯

人が寄り集まる場所には、たいていその中で目立つ人がいるものである。私が行く公衆浴場にも何人かのスターがいた。そのひとり。脱衣場で白い襦袢《じゆばん》と、とき色の腰巻ひとつまとった湯上りの老女が、煙草一本つまんで番台に「ちょいと」としわがれ声をかける。「火をくれない?」
男湯と女湯双方に目の届く番台は、一段高くなっているから、小柄なおばあさんは心持ち爪立ちしないと、台に坐っている人からマッチを借りられない。そのままの姿勢で一服吸うと、ふう、と煙をいきおいよく男湯の方へ向けて吐く。のび上がるようにして、風呂屋の主人と話しはじめる。けれど聞かせたい話し相手が男湯の不特定多数なのに本人も気が付かない。彼女は湯上りの、その持つ肉体の最上級の美的コンディションでモーションをかけているのだ。
番台の前からひとつの境界線がのび、男女の間は完全に二等分されている。互に見ても見られてもならない構造で、そのならない所がかいま見える。逆に言えばこちらを見せることの出来る高みへ、爪立ちする。いまどき見かけない衿《えり》白粉《おしろい》を塗ったその後姿を、外の女たちの目がいつも冷笑していた。
彼女について詳しく知らない。ダンナと別れてアパートを持っている。むかしオドリを習った。エイガを見にゆくのがたのしみ。きれぎれの情報でそれだけ得た。年は六十を少しすぎたころか。あさましいといえばあさましく、可愛いと思えばその通り、あわれの深さは格別であった。その老女に、私が見たのは待つ姿、女が男を待ちのぞむ、せつない後姿だった。
彼女を笑う女たちは、だいたい結婚していて、それ以上待つ、ということを放擲しているかに見えた。そういう女たちのナリフリを、反対に彼女は蔑視していた。
私が面白かったのは浴場が描いて見せる男女の図式についてだった。裸の世界を二つに仕切るタイルの壁、あれは職場にも、街にもそのままのびて、万里の長城のように背を分けているような気がする。
ところどころにはめ込まれた鏡に映るのは、所詮こちら側の景色ばかりで、多かれ少なかれ、女はのび上がって待つのではないか、と思う。男の世界を私は知らない。男とは何であろう。
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