思い切りが悪いというか、みれんが多すぎるのか。人とのつきあいで、私は実によく待つことをした。喫茶店に四時間近くいた記録がある。勤め先に連絡する、と言われ、土曜日の夜までじっと電話の前にいたこともある。同じ会社の人から、帰りに寄ります、と声をかけられ喜んで待ち、あまり長くかかるので遠慮しながら行ってみたら、その部屋の扉はしまっていて誰もいなかったこと、など。
何時間待たされても、相手があらわれてくれれば恨めしい思いはあまり残らなかった。いらだちは安心が引き替えてくれたし。待ち呆けたあとの思い——はどうしたろう。これはどうしようもなかった。待ったんだからいいわ。なるべく自分に言いきかせた。私がいちばんおそれるのは、待つアテのなくなることである。
風景[#「風景」はゴシック体]
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待つものはこないだろう
こないものを誰が待とう
と言いながら
こないゆえに待っている、
待つものはこないだろう
こないものを誰が待とう
と言いながら
こないゆえに待っている、
あなたと呼ぶには遠すぎる
もう後姿も見せてはいない人が
水平線のむこうから
潮のようによせてくる
もう後姿も見せてはいない人が
水平線のむこうから
潮のようによせてくる
よせてきても
けっして私をぬらさない
はるか下の方の波打際に
もどかしくたゆたうばかり
けっして私をぬらさない
はるか下の方の波打際に
もどかしくたゆたうばかり
私は小高い山の中腹で
砂のように乾き
まぶたにかげる
海の景色に明け暮れる。
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砂のように乾き
まぶたにかげる
海の景色に明け暮れる。
[#ここで字下げ終わり]
*
「ずいぶん待ったなあ」
「なにを?」
「それがまだわからないの」
そんな自問自答。
個々には何を待ったかわかっていても、それらはすべて、待つということの部分にすぎなかったような気がする。時を待つことも。人を待つことも。
詩を書くことも、待つことのひとつではなかったかと思う。未熟だけれど、それさえ私が一人で書いたものはひとつも無いような気がする。いつも何かの訪れがあって、こちらに待つ用意があってできたものばかり。
からだがすっかり冷えきってしまうまで、真暗闇に街灯をともしたような星あかり。地球の片隅で自分の足もとをみつめながら、待つことを重ねている。その地番を私は知らない。
「なにを?」
「それがまだわからないの」
そんな自問自答。
個々には何を待ったかわかっていても、それらはすべて、待つということの部分にすぎなかったような気がする。時を待つことも。人を待つことも。
詩を書くことも、待つことのひとつではなかったかと思う。未熟だけれど、それさえ私が一人で書いたものはひとつも無いような気がする。いつも何かの訪れがあって、こちらに待つ用意があってできたものばかり。
からだがすっかり冷えきってしまうまで、真暗闇に街灯をともしたような星あかり。地球の片隅で自分の足もとをみつめながら、待つことを重ねている。その地番を私は知らない。